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貴方は尊いのだから  作者: 若葉マーク
始まり
16/59

第16話 挨拶をしよう!

美穂子は朝から胸の高鳴りを抑えられないでいた。

バスケットの試合でもこんなにドキドキしたことはない。単なる挨拶、おはよう、その一言を言うだけだ。

自分に言い聞かせるが、どうしても動悸が早くなってしまう。

奈緒と一緒だったらもっと落ち着けるのかな、と思った彼女だったが、自分よりも遥かに女として魅力的な奈緒とならんで自分の第一印象を悪くしたくない、という気持ちもあった。だから、一人で決行すると決めた。


彼女はイメージする。第一案、シンプルに「おはよう!」第二案、名前を足して「立木くん、おはよう!」第三案、「おはよう、いい天気だね立木くん!」後に行くほどハードルが高くなっていく。もちろん理想は世間話に繋げられる可能性がある第三案なのであるが、無視された時のダメージも後になるほど増してしまう。ここはやはりシンプルに「おはよう!」と、なるべく自然に、笑顔で言おう。


校門付近で待つこと20分、目的の人物が登校してきた。立木勇気である。彼の姿を見た瞬間、心臓が耳の横に移動したのかと思うほどにドキ、ドキと音がする。とても落ち着いてなどいられない。

美穂子は、彼がイヤホンを付けていないこと、連れがいない事を確認すると、挨拶するために彼に近づいていく。足がなかなか言う事を聞いてくれない。フラフラしてしまいそうだ。

ようやく彼の前に行くことができたが、美穂子の顔はもはや真っ赤である。しかし一度決めたら必ず全うしようと思う一本気な性格の美穂子である。逃げ出さずに、真っ直ぐに勇気の顔を見る。

「お、おはよう!」周囲の生徒たちも何事かと振り返るほどの大声が出てしまった。これでは、彼を怯えさせてしまうのではないか、と真っ赤だった顔がどんどん青ざめていく。これはドン引きからの無視コースか・・・。しかし、勇気はそんな美穂子にとびきりの笑顔を見せて、美穂子を見上げ、「おはよう、元気だね」と挨拶を返した。

噂は本当だった。こんなに優しく挨拶を返してくれるなんて。こんな素敵な笑顔、見たことがない。テレビに出てくる俳優なんて目じゃない!美穂子は一瞬で脳をかき回す感情をなんとか押さえつけて、美穂子は「そ、それでは、失礼します!」と言うと脱兎のごとく校門へと駆け込んでいった。これ以上は美穂子の脳のキャパシティを超えてしまう。


美穂子は、まだ震えている手で奈緒に報告のラインをする。


「挨拶できた!」「すごい優しかった!」


興奮のあまり連続して送信してしまう。奈緒はこの時間携帯を見ていないのか、既読マークが付かない。もしかしたらもう教室にいるのかな、と思い美穂子は玄関に向かう。

下足棚で上履きに履き替える。その時、後ろから声がかかった。


「見てたよう〜、美穂子ぉ〜。」玄関ホールの柱の陰に奈緒がおり、ニヤニヤと美穂子を見ていた。

美穂子は奈緒に、「見てたって?どこでよ?いつから?」と問うと、「美穂子が立木くんに競歩みたいな歩き方で近づいてくとこから一部始終をね」と、一層ニヤニヤしながら答えた。


「覗き見なんて趣味悪いよ。」と苦笑いしながら軽く非難する。奈緒は悪びれた様子もない。


「立木くんに挨拶なんて、蛮勇ってやつだね!凄かったよ、美穂子。」半分は感心しているらしく、奈緒は美穂子の肩をバンバン叩きながら讃えてくる。

「どうよ?立木くんと話してみて。どう思った?」


「いっぱいいっぱいすぎて全然分かんない」美穂子は答える。


「まあ、最初だからね。すごい緊張してたみたいだしねぇ」と、奈緒はまたニヤニヤしている。そして言葉を続ける。「また、挨拶したいと思った?」


美穂子は「うん、もっと挨拶したいし、できたら話してみたい」と、顔を紅潮させながら答えた。


奈緒は「そっか。じゃあ、今日の帰りにでもまた挨拶してみたら?」と、さらりと提案してくる。


「うん、やってみる!」以前の美穂子なら、そんなすぐには・・・と思ってしまうところだが勇気のあの笑顔をまた見られるなら、頑張れると思ったのだ。


そんな美穂子を見て、奈緒は密かに(ライバル・・・また誕生したかぁ。)と思うのだった。そして、自らも行動を起こす事を決意した。何人か仲間を集めて、抜け駆けさせないように牽制しつつ、立木くんとお近づきになる方法を探るのだ。そんな打算をおくびにも出さず、奈緒は「一緒に頑張ろう!」などと言うのだった。


その後、美穂子はクラスメイトに羨ましがられたり、バスケ部の先輩たちに事情聴取を受けたりとその日はなかなか授業に集中できなかった。特に、バスケ部の先輩は「小山ぁ、あんたが話したっていう可愛い、私らも話せるようになんとか取りなしてくれよー!」などと食い下がってくるので少しだけ困ってしまった。

当の立木勇気本人は、「最近、話しかけてくれる人が増えてきたような気がするなぁ」と、嬉しい気持ちになっていた。そして、これからは自分からももっと話しかけてみよう。と思うようになった。


ちなみに、朝の挨拶ができたのは美穂子、橘詩織、この二人だけである。他の生徒は恥ずかしがって遠巻きに眺めているだけだ。






登場人物を増やしすぎると訳わかんなくなってくるので、今のところは少数で。

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