第15話 美穂子の悩み
ラインっぽくしてみたかった。
小山美穂子は悩んでいた。今までも悩みはそれなりにあったが、今回のはなかなかに性質が悪い。寝ても覚めても、あの少年のことを考えている。
立木勇気。美少年であり、一年生女子生徒全員が夢中になっているのでは、というぐらいの人気だ。
美穂子は今まで、恋をしたことがない。だから、立木勇気に対する感情が恋なのか、それとも他の何かなのか判別がつかないのだ。彼のことをもっと知りたい、近づきたい。こんな事ばかり考えてしまう。これが恋なのかな、と漠然と考える。
(前は、女子を冷たい目で見てたし、絶対に近づけない雰囲気出してたのに、最近は全然違う。優しくなった)美穂子は自室でベッドに寝転がりながら考える。
(男の子にはもちろん興味はあったけど、立木くんはなんというか、性格が悪そうだったからあまり近づきにはなれそうもなかったからなぁ)
今までは美少年だけど冷たい人、というイメージのために自分がこの人に恋をするのだろうか、ということまで考えが及ばなかった。それが、最近では表情や仕草に柔和さが出てきた。すごく優しくなったように見える。
すると、途端に彼のことが気になってしまう。在学中に男の子と付き合うという、全女子高生の夢を美穂子も胸に抱いてしまう。しかし、男性とは人生を通してクラスメイトとも話したことがなく、どういう風にアプローチしていいのか見当もつかない。
(悩んでいても仕方ないし、奈緒にラインしてみるか)
美穂子はベッドサイドの机に置いていた携帯に手を伸ばし、アプリを起動させる。メッセージを送信する相手は深山奈緒だ。
「ちょっと相談があるんだけど」と送信すると、すぐに既読マークが付き、「なんだい??」と返信が来た。相変わらず返事が早いと感心しながら、こういう時に筆まめというか、マメな友人を持つと得だな、と思う。
「B組に、立木くんって子がいるじゃない?」
既読。「いるねぇ、可愛いよね(≧∇≦)」
「やっぱ有名なんだね。奈緒はどう思う?」
既読。「んー、彼氏にしたい!あんな可愛い子が彼氏だったら高校生活バラ色どころじゃないね♪(v^_^)v」
「やっぱそうなるよねぇ。奈緒は美人だし、望みがありそうだよね。」
既読。「んん?なにかあったかい?美穂子?相談って、もしかして立木くんのことかね?」
簡単に見透かされてしまったが、奈緒は気さくな性格だし茶化したりしないだろう、と思い美穂子は思ったままの事を相談してみる気になった。
「そうなんだ。ちょっと悩んじゃってて」
既読。「恋の悩みってやつかな?」
「たぶん、そう。私、恋ってしたことないから、これが恋の悩みなのかも少し分かんなくてさ」
既読。「そうかぁ。立木くんと付き合いたい、彼氏にしたいって思う?」
「付き合うとか、そういうのはよく分からないけど、彼のことたくさん知りたいって思うし、話してみたいって思う」
既読。「まあ、十中八九恋だとは思うんだけど、検証してみないといけないかもね」
「検証って?なにするの?」
既読。「実際に本人の近くに行ってみるとか、話してみるとか」
そんなの無理だ。どうやって話しかけていいのかすら分からないのに。
「無理だよー!どうやって話しかければいいのさ?」
既読。「別に最初から会話をしなくたっていいのよ。挨拶して、徐々に話せるようにしていけばいいと思うよ♪(v^_^)v最初は絶対に緊張すると思うけど、美穂子が立木くんに挨拶するなら私もやってみるし」
「分かった。やってみるよ!相談乗ってくれて、ありがと(^ ^)」
既読。「健闘を祈るV(^_^)Vもし会話が弾んだら、私のことも紹介してね笑」
奈緒はちゃっかりしている。苦笑しながら美穂子はアプリを閉じた。
挨拶か、と呟いてみる。今でさえ挨拶するという行為を考えただけで動悸が早くなるのに、本人を目の前にしたら一体どうなってしまうのだろうか。しかし、やらずに後悔し続けるより、当たって砕けろというやつだ。やるだけやってみよう。橘だって邪険にされなかったのだし。きっと挨拶くらいは返してくれるだろう。