第14話 妖精探し その2
唐突に視点が変わってしまいますね。もうちょっと気をつけて書きたいです。
夕暮れの校庭を美少年と歩く。こんな夢のようなシチュエーションを、いまは自分が主役でいられるのだ。興奮しないなど無理な話だ。
校舎から校庭に出ると、まずはまばらにいる帰宅中の生徒たちから、信じられないものを見るように眺め回される。羨望と嫉妬に塗れた視線を感じつつ、私は優越感に浸る。と言っても、心臓は早鐘のように鳴り響いているし、何を話していいのか分からない。
つまらない奴、と思われているかもしれない。そっと勇気くんの表情を伺う。その時、ちょうど勇気くんと目があった。そして、勇気くんはにこりと笑顔を見せる。
これだけでまた脳が蕩ける。それで逆に緊張が抜けてきた。思い切って会話してみよう。
「ゆ、立木くんは何か最近ハマっているものとか趣味とかあるの?」危ない危ない、名前で呼んでしまうところだった。
勇気くんは答える。
「趣味ですかー。趣味はこれといってないんですけど、最近はテレビでスポーツ中継を見るのが好きですね。」
ん、スポーツ観戦か・・・。苦手なジャンルだな。私の趣味はアニメとか漫画見ることだし。でも勇気くんのニュアンスには、ガチでハマっているという感じがないし、ここは話題転換できるかも・・・。
と思案していると勇気くんから質問が来た。
「先輩は何かハマっているものありますか?僕、これといった趣味がなくて。何か教えてもらえると嬉しいです。」
素晴らしい助け舟だが、果たしてアニメや漫画の話題を急に振っていいものだろうか?話した途端に、(何このオタク、キモッ!)とか思われないかな。
しかしそれ以外に手はないし、ここは一か八か勝負をかけてみるか。
「私は、読書とか好き、です」・・・曖昧に答えてしまったけど、これは突っ込んだ内容を聞かれるとすぐにボロが出るな。正直に言おう。
「読書っていっても、マンガとかラノベなんだけどね、あはは・・・オタクっぽいかな」自分の趣味を堂々と宣言できないのはなんか負けた気がするのだが、勇気くんに嫌われるのはもっと嫌だ。
「漫画ですかー。僕もけっこう好きですよ。あまり沢山は知らないですけど、有名どころはけっこうハマって読んでました」
「そ、そうなんだ。どんなの読んでたの?」
これは、なかなか好感触!掘り下げられるといいなぁ。
「常春の国のヘンテコ領主のマンガとか、人形がバトルロイヤルする漫画とか好きで読んでました」勇気くんが鈴を振るような声だ答える。
よし!どっちも知ってる!なんとか話題を切らさないようにしないと。
「あ、人形のやつ、面白いよね。衣装とかも可愛いし」ストーリーはそんなに好きじゃなかったけど、全巻読破しているしアニメも見た!この話題なら行ける!
勇気くんは嬉しそうに、「登場人物がみんな可愛い感じですよね!特に卵焼き好きな人形が可愛いと思います。」と食いついてきてくれた。
やったぞ!会話が弾んでいる。こんなことまだ信じられない。男の子と、しかもこんな可愛い子と会話しているなんて!夢のようだ・・・、夢じゃないよね?
軽く腕をつねってみるが痛かったので現実のようだ。本当に素晴らしい時間だ。道ゆく女性たちからの羨望の眼差しもとても心地いい。
本当ならどこかでお茶でもしていかない?と誘いたいところだけど、私にはそんな度胸はないし、今日はこれだけで大収穫だろう。もうすぐ駅だ・・・。さすがに一緒の電車ではないので、駅でお別れだ。名残惜しすぎるなぁ。少し沈んでいると、「あ、先輩。良かったらライン交換しませんか?」と、凄まじい破壊力の言葉が来た。
え?ライン?連絡先の、交換・・・。いやいや、そんなわけないよな。こんな可愛い子が連絡先を教えてくれるなんて。何かの聞き違いだろう、としばし硬直していると、「あ、すみません・・・いきなり、迷惑でしたよね」と、勇気くんはしょんぼりしてしまったように言う。
私はフリーズしてしまった脳を急速に稼働させると、「迷惑じゃない!迷惑じゃない!むしろ私が聞きたくて、あの、その、お、お願いします!」と連絡先交換大歓迎の旨を伝えた。
「良かったぁ。じゃあ、僕のIDです」と、勇気くんは嬉しそうだ。ほんとに天使すぎる・・・。
ID交換が無事に完了して、私のラインに「立木勇気」という文字が追加された。
間違っても携帯を壊してはいけない、絶対に今日だけはどんなトラブルも避けるんだ、と私は携帯をいつもより厳重にカバンにしまい込んだ。
「それじゃ、さようなら。お話できて楽しかったです」と、天使の笑顔で私に手をふる勇気くん。私は一体どんな顔をして見送っていたのだろうか。勇気くんの姿が見えなくなるまで手を振って、彼が見えなくなった途端、急に現実に戻った気がして、もしかしたらこれは妄想だったのかもしれない、と携帯を確認する。すると、確かに私のラインには勇気くんの連絡先アイコンが表示されている。
ニヤけるのを止められない。今夜はとても眠れそうにないや・・・。
こんな感じで、多人数が少しずつ幸せになっていくように書いていきたいです。