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魔法のキス



「……すまない」

 安全と思われる場所まで走ると、オーディーはルロロとリビィを下ろし、深く頭を下げた。

「俺の代わりに、危ない目にあわせてしまった」

「……」

 ルロロはまた、頭を上げてくれ、と説得したかったが、ついさっきの死を垣間見たショックが大きく、言葉が出なかった。



「……」「……」

 両者は沈黙する。



「……すまない。俺はいかなくては」

 この気まずさを未解決のまま去っていくことに抵抗があったのだろう。

 オーディーは再び謝罪し、そしてエア・スクーターに跨った。

「まってください……」

 ルロロはそれを制止した。

「いくらオーディーさんが強くても、あの数です……死んじゃいますよ!」

「それでも、仲間を助けないとな。

 ……君がたった今、俺の代わりにしてくれたことだ」

 だからこそ、だ。目の前に死を突きつけられた直後だからこそ、彼をこのまま行かせるわけにはいかなかった。




「……キス」

 ルロロは呟くように訴えた。

「なんだって?」

 聞き取れなかったらしいオーディー。




「キス……してください」

 もう一度、ルロロは言う。

「そうすれば私っ!

 ……きっとみんなを助けられます!」

「……」

「ぶ、ブタとは嫌かもしれませんけど……!

 でも、死ぬよりマシじゃないですか!!」

「……う、うぅん……」

 オーディーは項垂れると、ルロロにこう言った。




「大事な初キス……なんだろ?」

「……え?」

 意外な言葉に、ルロロは目を丸くした。

 ……気のせいかオーディーはやや頬が紅潮している。




「俺はそういうのよくわからないが……、

 もし、元の世界に戻って……ルロロに好きな人ができたとして……。

 そいつとのキスは、俺がもうすでに奪っちゃってるってことになるんじゃないか」

 そして苦笑い。

「そういうの……やっぱり、嫌だろ?」

「えぇー?

 そんな純情ポリシーが本心だったんですか?」

 リビィがうわーっと、呆気にとられた様子で言った。

「……私は。

 オーディーさんのこと好きです……よ」


 ぼそっと、ルロロが言う。

「ありがとう。

 でも、場違いな嘘を付くな」

 オーディーは困った顔で微笑んだ。

「君は勝手にこの世界に連れてこられて、俺たちのために命がけで戦ってくれた。

 これ以上お前の何かを犠牲にして欲しくないんだ、だから、……っ!?」




 ルロロは渾身の力を込めて飛び上がり、オーディーの顔を目掛けて突撃した。




 オーディーは反動でぐらりと仰向けに、体を地面に落としていく……それを、二つの華奢な腕が大事に支えた。自慢のツインテールをなびかせ、力強い瞳が、好みのタイプから意中の男性へと変わった相手を見据える。


 ルロロはあっという間に人間に戻ったのだ。


「ルロロ……お前っ」

 オーディーは自分の唇を、確かめるように触れた。

 ルロロの手がゆっくりと、オーディーの指を外してその唇を晒す。

「大切な事を、大切だと言ってくれる、あなたが好きです。

 例え結ばれなくても、あなたになら捧げていい」

 そういうと、ルロロは返事を待たず、まるで奪うようにオーディーの唇にみずからのそれを重ねた。

「あーあ……舌入れちゃってるよ」

 そこまでしろとだれが言った、と、リビィは前足で目を覆った。

「……ぷは……っ、

 はぁ……。

 あ。あの、……ご迷惑でした……?」

 そこで初めて、ルロロはオーディーの気持ちを問う。

「……」

 そう言われて、オーディーは考え込む。

 どうやら自分の感情は計算していなかったようだ。

「……いや。嬉しい。

 俺も初めてだったし……」

 オーディーは大きな手でルロロの頭を撫でた。

 ルロロは頬を真っ赤にし、はにかみながらそれを甘受していた。


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