狙われた隠れ家
オーディーはエア・スクーターに跨り、現場に急行していた。
ルロロ達との会話で予定の時間をやや過ぎてしまっていた。
見慣れた廃墟の中を、ただ一人急いでマシンを飛ばす。
(……もう少し、言い方があったかもしれないな)
そんな後悔がふっと頭をよぎった。
こういうのは苦手だ。
何せ経験が全くない。
そう耽っている最中、オーディーは目的地に辿り着いた。
「主役のお出ましだ」
ロッドが期待に満ちた笑顔で迎えてくれた。
オーディーは双眼鏡を受け取ると、状況の報告を求める。
「今回はたいした規模じゃないし、偵察ってとこだろ」
ロッドの捕捉を聞きながら、オーディーの双眼鏡が敵を捉える。
数匹のリザードマンがテリトリーに進入していた。
「見逃すか?」
ロッドが問うと、オーディーは首を横に振った。
「いや、潰そう。
万が一にも隠れ家が見つかったらやっかいだ」
そう言って彼は刀を取り出し、エア・スクーターのエンジンを入れる。
「……そういえば、さっき、あいつらに勝てるかもし知れないとか言ってたな」
後ろに付く準備をしていたロッドが、ふと問いかけた。
帰還直後の報告で、オーディーはルロロの力について少し漏らしてしまったのだ。
その後すぐに知識不足に気付いて適当に誤魔化したのだが……。
「あれ、どうなったんだ?」
「あれか」
ルロロの顔が脳裏にフラッシュする。
その力に頼るためには、彼女とのキスの必要がある。
それがどういう行為か、オーディーだってうっすらとは理解していた。
「……あてが外れた。忘れてくれ」
そう言って、オーディーは何かを振り切るように飛び出す。
刀にエネルギーを加え、不意打ちに戸惑う敵へ斬りつけた。
†
「『ブタとキスする趣味はない』……だってぇ……」
ルロロは耳にした者を呪わんばかりに恨みがましく呟いた。
「まあ一般的な男子の発言としては合理的でしょう。
彼だってファーストでしょうし」
「私ブタじゃないのにぃ……」
意中、とまではいかないが、好みのタイプだったオーディーにそう言い渡されると、まるで告白したのにフラれたような虚しい気分になってくる。ルロロは人生でこれ以上ないほど嘆いた。
「論点はそこではないんですけどね。
……あ」
リビィの耳がぴこりと動いた。
「ちょっと遠いですが、オーディーさん達がドンパチをはじめたようですよ」
リビィは通常の生き物を遙かに上回る五感の持ち主なのだ。
普段はその力を使ってルロロをサポートしている。
「あんな奴、トカゲにやられて死んじゃえばいいんです」
ぶすぅっとふくれて、ルロロはそう吐き捨てた。
「だいぶグレてますね……」
言いながらリビィがエリクサーを操作し、外の状況を伺おうとする。
ホログラムのように浮き上がった画面には、廃墟と薄暗い空しか映っていなかった。
「やっぱり、ルロロさんがその格好だとエリクサーも調子悪いなぁ」
「……そういえば、晴れないですね、空」
それを見ていたルロロが呟いた。
「ここ数年間は、太陽がまともに照った事はないみたいですよ」
どこで仕入れた情報か、リビィが言う。
「あのリザードマンの仕業っていうのが一般論のようです」
「ふぅん……」
そう相づちを打ってから、ルロロは首を傾げた。
「ねぇ、それって妙じゃないですか?」
「どうしてです?」
「だって、リザードマンはは虫類なんですよね。
普通、は虫類は自分で体温調節できないんですから、日が照らないと凍え死んじゃうような気がするんですけど」
「そうとも限りませんよ。奴らは一見は虫類のようで、もしかすれば体温調節の可能な機能を体に持ってるのかもしれませんし。
……ん?」
そこまで講釈して、リビィはルロロの言わんとすることに気付いた。
論点はそこじゃない……太陽を隠すということは奴らにとって……。
「リビィさん!」
ルロロがエリクサーの画面を見て、声を上げる。
あさっての場所を写していた画面が、数万匹の大規模なリザードマンの群れを捉えていた。それを追うエリクサーが次に写したのは、この隠れ家だ。
「……オーディーさんが戦っているのは陽動ですね……」
リビィが呟いた直後、銃声が二匹のところにまで轟いた。




