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荒廃都市

 空はいつだって厚い雲に覆われ、太陽がまともに顔を出す事などなかった。

 その下にあるビル街は、朽ち果てて本来の機能を失い、息を吹き返すことはもう二度とないだろう。

 ここはかつて人間の文明が存在し、そして外敵によって滅んだ世界だ。



 埃が舞う廃墟に数人の少年達がいる。

 僅かな人類の生き残りだ。

 彼らは息を潜めてじっと身を隠していた。

 歳は十四から、幼い子で十くらいか。

 身なりは全員酷いもので、くすんでほつれたシャツやズボン、中には大きめの布を外套の代わりに纏い寒さを凌いでいる有様だ。

 皆、自分の身長ほどの銃を構え、互いの心拍が揚がるのを肌に感じながら、いまかいまかと何かを待っていた。




 静寂。




 十分とも一時間ともつかない時間を経て……、リーダー格の少年が突然一言唱えた。



「いまだ……ッ」




 張り詰めていた空気をぶち破り、銃声が、怒声が、そして悲鳴が鳴り響く。

 少年達は恐怖を弾丸に込めて、がむしゃらにトリガーを引き続けた。

「……やっぱり、全然効いてないよ!」

 双眼鏡を持った少年が報告する。

「だろうな。ロッド! 行くぞ!!」

 指示を出した少年が叫ぶ。

「やっぱり無茶だぜオーディー!

 あいつらに普通の弾丸は効かないんだ!!」

 ロッドと呼ばれた少年は、銃声に耳を塞ぎながら抗議した。


「何もしないで奴らに殺されるか、足掻いてから死ぬか!

 さぁどっちだッ!?」


 オーディーはそう怒鳴りつけると、答えも聞かずにエア・スクーターのスロットルを捻った。



 バリケードを越え、オーディーを乗せたマシンが飛び出す。

 それは地上を僅かに浮遊しながら走行する乗り物で、どこもかしこも荒れ地となったこの町では欠かせない乗り物だった。



「ちきしょお……!」

 十字を切り、短く祈り、ロッドもスクーターのスロットルに力を加えた。

 風切りの音を纏い、スクーターが地上すれすれを高速で飛ぶ。

 無数の弾丸が目指す先へ、二つの影が突撃していった。

 オーディー達は敵を見定めた。

 一見人間のようなシルエットだが、イグアナのような顔を持ち、胴体から手足もそれに似つかわしく鱗で覆われた怪物が、鎧を纏い斧で武装している。


 エイリアンやリザードマンと呼ばれる、人類の外敵である。


 それらが数十匹、こちらに向かって突撃してくる。


「みろよオーディー! 

 やっぱり効いちゃいねぇ!」

 ロッドが悪態をついた。

 人間なら蜂の巣になっているような掃射を浴びているにもかかわらず、奴らはものともせず、そればかりかエア・スクーターと同じぐらいの速度で疾走、少年達へと向かっているのだ。



「だったら正攻法しかないだろ」

 オーディーは白煙を揚げた。それを合図に弾丸の嵐がおさまっていく。

 次に彼はスクーターに添えた刀を取り出し、左手に構えた。

 その刃に赤白い光が走る。

 ただの刃ではない。

 特殊素粒子を収束させ纏わせた、あらゆる物質を断ち切る武器だ。

 持ち手には『アンチ・マテリアル・ブレード』と書かれていた。

 弾丸の利かないエイリアンに対抗できる唯一の武器と言っていい。




 オーディーは敵と衝突――意気を込めて一撃!




 リザードマンは斧で身を守るが、その斧すら豆腐のように切断し、刀は敵を裂いた。

 他のリザードマン達が、ぎょろりとオーディーを睨んだ。

 一団がくるりと体をオーディーに向ける。

 オーディーも躊躇無く、正面の敵から一匹、もう一匹と刀を振り回して薙ぎ倒していった。

 その背中を守るロッドも、同様の武器を構えて、乱戦に潜り込んでいく。



 がしゃり。

 武装の差で優勢と思われたオーディーだったが、悪い予感のする金属音が耳に響いた。


 途端に失速を感じる。

 立ち昇る、ゴムや金属の焼けた臭気。

 一匹が、オーディーではなく彼を乗せるマシンに攻撃を加えたのだ。



「ちっ!」

 舌打ちして、オーディーはマシンから飛び降りる。

 敵はすかさず襲い掛かる。

 間一髪で身を転がし、武器を構え直して立ち上がった。


「オーディーぃぃぃ!」

 ロッドが相棒の危機に飛んでくるが、オーディーは怒鳴った。




「戻れ! ロッド、戻れ!!」

「だってお前……っ!」

「戻るんだ! 戻ってあいつらを別のアジトに避難させろ!

 ぎりぎりまで囮になる!!」

 会話の最中にも四、五匹がオーディーに飛び掛かる。

 オーディーはがむしゃらに武器を振り回して対抗した。

 見るとロッドが未だ躊躇した様子で抗戦していた。

「なにしてやがる! 早く戻れ!」

「オーディー……くそぉ……っ!」

 ロッドは背を向けて逃げた。

 数匹がその後を追ったが、それくらいならロッド達で処理できるだろう。

 オーディーは刀を構える。敵も無駄に数を減らしたくないのか、急な攻撃を止めた。

 彼を取り囲み、飛び込む機を伺っているようだ。

 オーディーは呼吸を整えた。

 ここが自分の最後か。ならば、一匹でも多く差し違えてやる。

「……簡単に殺せると思うなよ」


 オーディーは刃を振りかざして吠えた。

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