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鏡の国の私

作者: 槻梛 翡翠

自分が夢に見た話を書いてみました。

私は気が付いたらそこにいた。

 私とよく似たその人は私と同じ名前と姿をした彼氏がいた。

 私は記憶が少しの間抜けていた。どうしてここにいるのかもわからず、私は同じ名前の私と同居することになった。親にも彼氏にも内緒で。

 お互いに名前を呼び合う。それで混乱するかというとそうでもなくて、もともと一人なのだから呼び合うのも自然とそうなっていた。

「最初は本当にびっくりしたんだよ」

 同じ名前の私は笑顔でそう言った。誰でもそうだろうな。と思いながら聞いていた。自分だってそうだろう。私は違う次元から来たようだった。でも不思議なことに同じ家族、同じ環境がそろっている奇妙なところだった。まあ、違和感はなく過ごせているのだから私はラッキーだったのかもしれない。両親も別段不思議がることもなかった。

 まあ、両親は共働きで夜遅くに帰ってくるし、別に自分に興味を持っているようには見えなかった。仕事が忙しいのだろう。

 気を付けなくてはいけなかったのは彼氏のほうだった。私と同じ名前の私はやはり少し違っていた。

 それに気づきやすいのがよく一緒にいる彼氏の方だった。彼はなぜか聡くて、普通だったら気づかないだろうと言うことで気づいてしまう人だった。

「学校なんかは良いんだけどね。別段目立つ存在でもないわけだし、でも、あの人は学校帰りに待っていたりするから厄介なんだよ」

 そう、私たちの彼氏は年上の幼馴染。付き合いだしたのは高校生になった年からだった。彼はもう社会人で、医者をしている人だった。

「目立つからやめてって言ってるんだけどね」

 私たちは同じ悩みを持ってもいた。

「交代で学校に行くじゃない?あの人が待ってるときははらはらものだよ。名前を呼ばれて振り向くとあの人がいるんだよ。いつあなたじゃないとばれるか心配で」

 ため息をついて言った。

 そう、一度ばれそうになってすぐにこちらの私と交代できたから良いものの、これがずっとだったらきっとばれていて、大変なことになっていたと思う。

「そうだよね、あの人だけが不振がってるものね」

 こちらの私もため息をつく。

「まあ、ばれないように気を付ければいいよ」

 二人で結論を出して、2週間が経過した。


 それは突然に起きた。

 こちらの私が高熱で倒れたのだった。それも、倒れたのは彼氏の家。たまたま、両親が旅行に出かけている最中にこちらの私が料理をしてあげて、帰ろうとしたときに倒れた。

 近所の彼の家から携帯で知らせてきたこちらの私はすまなそうに言った。両親とも留守にしていて助かった。

「私は大丈夫だからしっかり休んで」

 私はこちらの私に言った。

 少し心配になった。もしかすると私はとんでもないことをしているのではないだろうか。確か、ドッペルゲンガーの話だと、数日のうちに同じ私とあったら死が待っているのではなかったか?

 彼女に起きた出来事は私自身にも降りかかるのではないか。二人で倒れてしまったら、隠していたことがばれてしまう。こちらの私に迷惑がかかる。

 

 そうだ、今のうちに出て行こう。誰にも気づかれないうちに、私から離れよう。


でも、その前に一度だけ、こちらの私に会っておきたかった。今までの礼をせめて言いたかった。


 彼氏に見つからず、私は勝手知ったる家に入り込んだ。二階にきっといるだろう。

 そう目星をつけて駆け上がる。どうやらあの人は出かけたようだった。

「どうして来たの?」

 こちらの私は驚いて聞いた。

「今までありがとう。どうか幸せになってね」

 私はこちらの私に言った。

「どういうこと?」

「言葉通りだよ。私は本当はあなたに会ってはいけなかったの。知ってるでしょ?」

 私はドッペルゲンガーの話をした。

「でも、行くあてはあるの?」

 聞かれても答えられるわけはない。こちらの私も、私も動ける世界はとても狭い。あてなんて考えられないのが普通だ。高校生なのだから。

「それでも、私は行かなきゃ。あなたにこれ以上迷惑はかけられないんだよ」

 私の言うことに彼女は首を横に振った。

「私は私の幸せを願うわ。でも、あなたも私なんだよ」

 こちらの私は何とかとどめようとしてくれた。きっと私だとしてもそうしていただろう。本当に私たちは馬鹿だね。

 うれしくて涙がこみ上げた。

 この時になってなぜ私がここに来たのかを理解した。私は……。

 その時、あの人が帰ってきてしまった。急いでここから出て行かなければならない。

「さようなら、私」

 そう言い置いて私は階段を駆け下りた。車から出てきた彼が来るのはあと少し。

 でも、間に合わず、玄関のドアが開く。私はとっさにリビングに入り込んでやり過ごそうとしたが、それもかなわず、見つかってしまいそうだった。仕方ないのでその場に倒れたふりをする。

「どうした?」

 やさしく私を起こそうとする。

「ごめんなさい。のどが渇いて」

「まったく無理をする」

 ぶつくさと言いながら彼は私から離れて水を取りに行った。今しかない。

 そう思うが早いか立ち上がって逃げ出した。

「…っ、どうしたんだっ」

 彼は必死に私をつかもうとする。私はどうにか逃げ果せて、玄関を勢いよく出て行った。


 私は泣いていた。

 どうしてここにいるのか知ってしまったから。

「私はもうっ」

 行くあてもなく俯いて歩いた。いつの間にか河川敷に立っていた。そこはあの人とよく遊んだ思い出の場所。そして、ここで、私は彼から告白をされた場所。

「もう私は帰れない」

 声をあげて泣いた。現実を知った私はもうすぐ消滅するだろう。

「もう少し生きてたかったな」

 涙が枯れて少し落ち着きを取り戻した私はぽつりとつぶやいた。

「でも、こっちの私は幸せになるから大丈夫だよね」

 一つ納得して乾いた笑みを零した。

「やっと、見つけた」

 声をする方を見ると彼が立っていた。

「逃げるなよ。お前が二人いることは知っていたんだ」

 その言葉になぜか頷けた。

ああ、やっぱり。と納得していた。

「お前たちも悪いんだぞ」

 彼は少し責めるように言った。

「隠そうとするから、何かあるんだろうと黙っていたんだ」

 彼は一歩、また一歩と近づいてきた。

「きちゃだめっ」

 私は声高に叫んだ。

「なんでだっ」

 彼は拒否されたことに怒ったようだった。

「だって、私はここにいてはいけない人間なんだよ。それに私はここに来た時の記憶を取り戻したの。私は元の世界ではもう死んでるんだよ」

 私は枯れた涙がまた溢れてきたことに不思議と冷静にああ、まだ泣けるんだ。と思っていた。

「そんなのわからないじゃないか」

 とうとう私は彼に捕まってしまった。

「それに私がここにいたら、私のそばにいたらこっちの私は死んでしまう」

 何とか捕まえられた腕を放そうともがいた。

「死なないかもしれないじゃないか」

 強く言う彼に私は怯んでしまった。

「でも、彼女は倒れたわ。今度は命を落とすかもしれないじゃない」

 どうしてわかってくれないのだろう。私は私に幸せになってほしいのに。せめてこちらの私には幸せな一生を送ってほしい。私の分まで。

「ほら、私は消える運命だったんだよ」

 冷静に消えていく自分の指先を見つめて言った。ああ、時間なんだな。と理解した。

「楽しかったよ。二週間、あなたともたくさん話せたし、知らなかった私に会えたし。本当だったら巡り会うこともなかったのに、こうして会えたんだもの。辛かったことなんてなかった。私にありがとうって伝えて」

 そういい終わると、私はその場から霞のように消えた。



 次に目覚めたのはどこか見知った天井だった。

「…よかった」

 あれっ?

 その天井は彼の家の彼の部屋の天井だった。

 そういえば、私は二階の一番上の段を踏み外してそのまま落ちたのではなかったか。

「バカ野郎」

 彼は私に縋り付くように抱き着いた。後頭部がすごく痛い。落ちた時に打ったのだろうか。

「ご、ごめんなさい」

 私はとりあえず謝った。

「俺の方こそ悪かった」

 そう、些細な喧嘩をしてしまって、私は階段を勢いよく踏み外して落ちたのだった。

「でも、私は楽しかったよ。違う世界の私と、あなたに会って、たくさん話せたんだ」

 彼は頭を打ってどうかしてしまったのではないかと心配した。

でも、私は忘れない。

 違う世界の私たちも幸せに過ごしているだろうことを。


ありがとうございました。

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