会話が想定外の方向に流れることはままあることです
文化祭、当日。
飾られた教室とか、賑やかな音楽とか、ちょっとした非日常を感じるそんな日だ。
だけど、俺らはマジでそんな場合じゃない。
「はい!? 備品のダブルブッキング!? ちょっと待って、予備あったはずだよね!?」
「すみません、裏庭でゲリラライブやってる生徒がいて、近くの教室で出し物をやってる部活からクレーム来てます! 今から止めてくるんで、他の業務、お願いします!」
「……すみません! 風紀が揉めてるそうで、応援頼まれてるんで行ってきます……!」
「黄原、備品の予備よりも先に返却遅れてないか確認! 白崎はそのまま対応頼む。ただし、紫田先生にも声かけていけ。正彦、揉め事なら青木よりもお前が適任行ってこい! 青木は足りなくなったパンフレットの補充頼めるか?」
「はい、了解! っと、ヤバイ、体育館、音響トラブルの連絡来た!」
普段は学内使用が制限されてるスマホや携帯もガンガン使用して貴成の指示で動き回る。
こういう時、幼馴染の有能さを実感するな。
何が起きても冷静かつ的確な指示が出てくる。
開場から数時間はドタバタだったが、昼頃になるとようやく落ち着いてきた。
暁峰の差し入れのベビーカステラをつまみながら、生徒会メンバーでげっそりしつつようやくの休憩だ。
「つっかれた~、白っち、体調大丈夫?」
「はい。紫田先生にも助けてもらえましたので」
「無理するなよ。俺らもキツイぞ」
「……はい。……赤羽先輩のフォローが無かったら、ミス、してました……。ありがとうございます」
「気にするな。全員、初めてにしては上出来だろ。まあ、ひとまず、最初の波は乗り越えたから、突発的なトラブルが起きない限り、少し余裕が出たな。各自、通知をオンにして何かあったら気づける状態なら、自由行動で回っていいぞ」
「やった~! 赤っち、素敵~! 皆はこの後、予定ある!?」
「取り敢えず全然顔出せなかったクラスの出し物見に行きたいですかね」
「……あ、俺も倭村さんと先輩たちのクラス見に行く約束してます……」
「あ、俺も行きたい! 赤っちと篠やんは?」
「俺は美術部の方に顔を出す。月待がこの時間当番のはずだ」
「あ、良いじゃん! 月ちゃんの絵、見たことないけど、上手そうだよね~」
「……独特ではあるな」
「え~、何それ! 篠やんは?」
「俺は同中の奴らから暇があったら案内してって連絡来てるから、そっちに行くかな」
「……そんな予定あったのか。誰が来るんだ?」
貴成がちょっとだけ拗ねた様子で聞いてくる。
うん、俺もお前も同じ中学、大体同じグループだったもんな。一番仲良かったのは俺とだが、それなりに仲良かったから声一切かけられてないと寂しいらしい。
でも今回は渚が誘ってるしなあ。渚は貴成が渚の友達振って泣かしてしまった時に文句言いに来て、それで揉めてたからなあ。
確か振るなら思い出にデートしてって言ったのを貴成がバッサリ断って、それで泣かせたんだっけか。貴成が好きでもないのに気をもたせるような変に優しい対応するのも変だろって、死んだ目になってたやつ。
そのごたごたで俺と話すようになったけど、貴成に対しては気まずそうだったからな。今回も貴成に連絡はしてないんだな。
俺も忙しすぎて、伝えるの忘れてたし。
「渚が主導で、他のメンバーが井藤と山口と健太郎」
「……ああ、あの辺か。しかし、井藤と健太郎も来るのか」
「お前も会いたいなら来れば?」
「まあ、美術部行った後に合流する」
「健太郎呼びということは同じ篠山苗字の方ですか?」
「そうそう、そんな多い苗字じゃないのに被ったから、その縁で仲良かったんだよ」
「そ~なんだ。……今回、渚ちゃん主導なんだね?」
「そうみたいだな」
「そっか~、そう言えば、桜ちゃんと仲直りした?」
「あー、うん、一応?」
「微妙な反応ですね。何かありました?」
「いや、桜宮がもういいよって言ってくれて、俺ももう一回謝ったから普通に仲直り出来てはいるぞ」
「なら、何でそんな微妙な感じなんです?」
白崎の不思議そうな顔に言葉が詰まる。
いや、うん、仲直りは出来たし、それはいいんだけど。
後夜祭のダンスのあれ、結局、どうなんだろって、実はちょっと思ってるんだよな。
別に勢いで言っただけで、当日は普通に好きなやつ誘うのかもしれないし、それはそれで良いんだけど。
ちょっと、うん、ちょっと気になってんだよな。
他のメンバーに聞けば、ひょっとしたら、桜宮が誰誘ったか分かるかなと思ったけど、なんか聞きづらくて聞いてない。
流石にこんなことは恥ずかしくて言えないしなと思っていると、ポケットに入れてた携帯の着信音が鳴った。
「あ、悪い」
「いえ、どうぞ」
「あー、来たみたいだから入口のところ行ってくるわ」
「行ってらっしゃい~! 俺らもそろそろ行く?」
「そうですね」
渚からの着信で有難く、話をうやむやにして立ち上がった。
なんか最近、ダンスの件で前世との違いに気づいてから、ちょっと自分でも分からない感じでモヤモヤしてる気がする。
それを振り払うように学園の入り口に早歩きで向かうと懐かしいメンバーが揃っていた。
渚と山口の女子二人に、井藤と健太郎の男子二人。
興味深そうに辺りを見渡していたが、健太郎が俺に気づき、こっちに走ってくる。
ハイタッチのように出された腕に俺も応えようとして、瞬間、嫌な気配がして一歩引いた。
その次の瞬間、予想通り、羽交い締めにしようとしてきた腕が俺の前を通り過ぎた。
「あー、正彦、久しぶり! 夏休み、冷たくね、誘いほぼ全敗だったんだけど!」
「健太郎、久しぶりだな。それは悪いけど、忙しかったんだよ! うちの生徒会はヤバイんだって! つーか、いきなり怖いわ!」
「なあ、酷いよな。俺らも赤羽にも会いたかったのに!」
「だから、悪いって! つーか、会いたいなら自分で誘えよ!」
「だって、赤羽に断られるとダメージでかいじゃん! あれ、やっぱり仲良いと思ってたの俺だけだったみたいな!」
「大丈夫だって、ちゃんと仲良かったから! 後で貴成も合流するってさ」
「マジか!」
騒ぐ俺たちを見て、にこにこ笑っているのが山口。ちょっと引いているのが渚。
うん、本当に懐かしいなこれ。
「男子たちは相変わらず仲良しだね、渚」
「いやー、暑苦しくない? つか恥ずかしいから、そろそろ止めたい」
「ほら、渚の突っ込みが入ったぞ。そろそろストップして、回るなら回るぞ。あんまり暇無いんだよ、俺!」
「へーい。それにしても立派だよな、学校。制服もカッコいいし。いーな、正彦」
「ははは、貴成が着てるの見るとマジで別物に見えるぞ。俺は着こなせてないからな」
「いや、あれと比べんなよ」
懐かしいメンバーとワイワイ騒ぎながら、色々と回る。
生徒会役員として何があるかは全部把握してるけど、客として見るとやっぱりいいなあ。
「ところでお前ら、何か見たいのある?」
「あ、俺、これ行きたい! お化け屋敷! 文化祭レベルじゃなさそうで、超面白そう! めっちゃ悲鳴聞こえてたし! 正彦、前評判とか知ってるか?」
……ああ、あのクオリティに凝りまくってたお化け屋敷ね。
見るも無残な姿になったマネキンが共用倉庫に置いてあったり、指や目玉パーツ落としたり、恐怖な音声が漏れたり、分かってても怖い。どうにかならないかって、苦情めっちゃ来たクラス。
俺、通路の安全確認とかであのお化け屋敷、軽く5巡はしてるな。
うん、確かにクオリティは高かった。それよりもあのクラス関連のトラブル対処の方が俺らにはホラーだったけど。本当にギリギリまで、対応、改善、クレームで大変だったなあ……。
「クオリティは高かったぞ。ただ、滅茶苦茶並ぶと思うぞ」
「やっぱり、そうだよな~」
「正彦、忙しいよな、どうする? つか、ひょっとして、体験済み?」
「俺は安全確認で、一応って感じ。まあ、お前らがビビるの見るのは楽しみだし、行列で貴成と合流もしやすいし、全然いーぞ。客としては初めてだし、貴成は普通に初見だし」
「えー、でも、正彦は経験済みなんでしょ。他の所いかない? 忙しかっただろうし、食べ物の屋台とか。私はホラーあんまりだから別の見たいし」
渚がそう言うと井藤が納得したような顔で頷いた。
「あー。確かに体験済みならそっちのが良いかもな、正彦、遠慮せずにいってきていーぞ。二手に分かれよ。えっと、渚の他にホラー苦手な奴いる?」
「あ、私はお化け屋敷行きたいかな。出たら連絡するから合流しよ」
「俺もお化け屋敷かな。赤羽にも会いたいし、ちょっと赤羽に連絡しよ」
渚以外のメンバーは全員、お化け屋敷を希望。ってことは……
「じゃあ、私と正彦が散策ペアか! なんか美味しそうなのあったら人数分買っておくね」
「お、ありがと!」
予想外の方向にあっという間に動いた話に目を瞬かせていると、渚がクルリとこっちを振り返った。
「二人になっちゃったけど、よろしくね」
お化け屋敷でも待ち時間にこいつらと駄弁れたら別に良かったのだが、まあ、俺も確かに腹が減ってることだし、苦手なら無理に別行動も全然ありだしな。
「ああ、よろしくな」