仲直りは時間が経つとちょっと大変です ~桜宮視点~
大変お久しぶりです。
本当に遅くなってすみませんでした。
ようやく就活が終わったので、もうちょっと頻度を上げて更新していきたいです。
そして、本日、この作品のコミカライズ版の発売日です!
とても、可愛く、勢いよく仕上がっていますので、良かったら目を通してみてください。
詳細は活動報告にて。
保健室で私の足の手当をしてくれている茜坂先生を祈るように見つめる。
茜坂先生は私の足の様子を真剣な目で観察し、触られた時に痛みで肩が跳ねてしまった私の反応を見て頷いた。
「うん、かなりしっかりめに足捻ってるわね。応急処置はするけど、すぐに病院行って来なさい」
「あああ~~~」
かなりの痛みから薄々分かっていたけど、しっかり怪我をしてた事に頭を抱えた。
怪我の原因は私の不注意だ。床にあった物に気付かず、綺麗に踏んで派手にすっ転んだ。
周りに迷惑掛けまくってしまって大変に申し訳無いし、そもそも不注意の原因が自業自得な感じで更に辛い。
正彦君と喧嘩みたいになってすぐにタイミング悪く夏休みに突入し、仲直りのタイミングを完全に見失った。
手伝いに行ったりしたいと思いつつも、なかなか生徒会室に足が向かわず。
今日はどうしようかなとちょっと上の空でいたらこれである。
本当に自分でもこれは無いと思うし、文化祭での自分の係とか考えると周りへの迷惑が掛かりまくって本当に申し訳無い。
……それに、あの約束だってあるのに。
涙目で顔を上げて、我ながら必死な顔で訊ねる。
「……あ、あの、この怪我って文化祭までに治りますか?」
私の質問に茜坂先生はかなり困った顔で口を開いた。
「うーん、個人差もあるし専門医じゃないから断言は出来ないのだけど。……ギリギリ治るか治らないかくらいじゃないかしら。まあ、兎に角安静にね」
「そ、そのフォークダンスとかは?」
「まあ、それまでに頑張って治してねとしてか言えないかな」
案の定な答えに頷きながらも、やっぱり落ち込んでしまう。
文化祭のフォークダンスは乙女ゲームのイベントにもしっかりあって、その時一番好感度が高い相手とペアになる。
その時のスチルはどれも綺麗で、楽しそうだった。
だから、正彦君と踊れたら、どんなに嬉しいだろうなって思って。
怒りながらも無理矢理に取り付けた約束だったけど、本当に楽しみにしていたのに。
……そもそも、仲直り出来るか微妙って言うのもあるのになあ。
正彦君は謝ってくれたから、私が良いよって言えば終わる。
だけど、まだそんな風に言えてない。
目に見えて落ち込んだ私に、付き添いで来てくれていた凜ちゃんが慰めるように明るい声を上げた。
「桃~、大丈夫だって。ウチのクラスの出し物、脱出ゲームだからそんなに動く事も無いし、体育祭も出る種目玉入れだけでしょ? 周りにもそんなに迷惑掛かんないし、ばっちり安静に出来るから、ちゃんと治るわよ」
「あら、それなら普通に参加出来そうね。それにしても玉入れかあ。桜宮さん、運動苦手なの?」
「……はい、大分」
そっと目を逸らしながら答える。
運動神経はお世辞にも良いと言えないので、運動苦手な子用の救済競技に全力で手を挙げさせてもらった。
前世では病気になる前はもうちょっとマシだった気がするけど、その辺ややっぱり違うらしい。
まあ、一度死んで、別の人間にって時点で不思議な事だらけだし、違って当たり前だろうけどね。
そんな事をつらつらと考えてると、保健室のドアをノックする音がした。
茜坂先生がそちらを振り返り、返事をする。
「はーい、どうぞ」
「失礼します。桜宮が怪我したって聞いたんですけど、まだいますか?」
その声に肩が跳ね上がった。
振り返ると、正彦君が立っていた。顔を合わせるのも久しぶりなのに、正彦君は私の顔見ると心配そうに近寄ってくる。
「教室行ったら香具山さんに桜宮が怪我したって聞いてな。大丈夫か?」
「あ、えっと、うん。転けて足捻っただけだから、大丈夫。これから病院行ってちゃんと見て貰うし」
「そうか。えっと、痛くないか?」
「別に平気」
「そっか」
久々なのもあって素っ気なくなる私の返事に、正彦君がちょっと困った顔をする。
いつもみたいに笑って、来てくれてありがとうって、言った方が良いのは分かる。
でもやっぱり、喧嘩みたいになってから会うの久々だからぎこちなくなる。
私達の間に漂う微妙な雰囲気を振り払うように、凜ちゃんが口を開いた。
「篠山、久しぶり。クラスの方には全然顔出さないけど、生徒会、やっぱ忙しい?」
「まあ、うん。結構、ヤバいな……。クラスの出し物に関しては本当にごめん」
「いや、大丈夫、大丈夫。生徒会メンバー忙しくなるの分かりきってたし。皆気にしてないわよ。……それはそうとして。黒瀬、ちゃんと働いてる?」
「あ、それはしっかりやってくれてる。正直有り難いわ」
「……普段、私が何度言ってもサボるのにな、アイツ。何? 好感度の差か?」
「あー、まあ。うん、ドンマイ」
「うっわ、ムカつく。でもまあ、そんだけ猫の手も借りたいレベルの忙しさって思うわ。例え誰が来たって大助かりのレベルの繁忙期って思う!」
「そこまで言うか? まあ、結構、いや、かなり忙しいけど」
そんな話をしながら、凜ちゃんがちらりとこっちを見た。
確かに今なら。
手伝いに行こうかって言ったら、仲直りする絶好のタイミングだ。
「あ、あの、正彦君」
「どうかしたか、桜宮?」
話しかけた瞬間、正彦君はこっちに向き直って話を聞く体勢になってくれた。ちゃんと正彦君向き直ろうと思って姿勢を変えた瞬間、捻った足がずきりと痛んだ。
「痛っ」
「大丈夫か!? 気を付けろよ!」
小さく出た声に正彦君が慌てた様子で心配してくれる。
痛む足、心配そうな正彦君の表情。
今から言おうとしている言葉を聞いた正彦君がどんな返事をするのか簡単に想像できてしまって。
言おうとしてた言葉を飲み込んで、口を開く。
「……忙しいなら、早く戻ったほうが良いよ。私もこれから病院だし」
「あ、そうだよな。病院まで大丈夫か?」
「うん、お母さん呼んだし、平気。そもそもちょっと転けただけだし。心配して来てくれて、ありがとうね」
「いや、怪我してたらちょっとじゃないからな。……あー、その、お大事にな」
「うん、ありがとう。じゃあ、またね」
「ああ、またな」
保健室を出て行く正彦君に手を振って、ため息と共に手を下ろした。
「ごめん、桃。会話の持っていき方間違えた。足怪我してるのに、お手伝いは無理だよね。と言うか、篠山は絶対断るよね。桃に無理させる訳ないもん」
「いやいや、凜ちゃんは全く悪くないから! むしろ気を使わせてごめんね!」
気まずそうに謝ってくる凜ちゃんに慌てて否定する。
仲直りしたくて、お手伝いに行こうか悩んでたの見てたから、あんな風に言ってくれたのだろう。
本当に凜ちゃんは何にも悪くないし、優しくて有り難い限りだ。
それに凜ちゃんの言う通り、正彦君は怪我した私が手伝いに行こうなんて言っても絶対に断る。
だから、これで良かったはずなのに落ち込むのは、仲直り出来てない原因が完全に自分だからだ。
あのダンスの練習の後、私は滅茶苦茶拗ねた。
だって、正彦君とフォークダンスの練習なんて、嬉しかったけど恥ずかしくて滅茶苦茶緊張する。
それに、ちょっとは意識してもらえるかなって期待も大分した。
なのに、正彦君は全然意識していなくて、終わりがけにようやく気がついたって言うのだ。
その時は結構、かなりムカついた。
今までだって、周りにもバレバレなアプローチを躱しまくる超鈍感だったし、変な気遣いで凹む事もしょっちゅうだ。
だけど、ちょっとぐらいは気にしててくれないかなと思ってたのに、あの至近距離で何日もやってあれはかなり凹むし、ムカつく。
自分でも気付いて応えて欲しいなっていう気持ちは我が儘だって分かる。
私が一方的に好きなだけで、正彦君は私の恋人でも何でもない。
今はただの友達ってくらいの認識だろう。
だから、怒る筋合い無いのは分かってる。
……だけど、全く意識してないって言うのに、優しすぎるのだ、ずっと!
今回だって、私が怪我したって聞いて、忙しいのに保健室にまで見に来てくれて、本気で心配してくれた。欠片も意識してないっていうのにだ。本当にタチが悪い。
だから、大分拗ねてしまって、忙しいの分かっててもお手伝いに行けなかった。正直、今でもちょっと怒ってる。
だけど、それでもこの夏休み中、顔を見れないのが辛いなって、夏休み早く終わらないかなって、思うくらいに好きだから。
ちょっとでも早く、もう良いよって、態度悪くてごめんねって、言って仲直りしたいなって思ってたのに。
だけど、本気で働いて忙しくしてる生徒会の子達に、怪我してそんなに動けない私がそんな理由でお手伝いになんて行ったら迷惑だ。だから、やっぱり暫く会えそうにない。
怪我した足を見てため息を吐いた後、ふと凜ちゃんの顔を見て、気分を切り替えるように首を振って顔を上げた。
これは私の不注意でこんな事になったんだから、これ以上うじうじして友達に心配掛けちゃ駄目だ。
「凜ちゃん、私絶対足治して、ダンスはしっかり踊る! ちゃんと思い出作って、その時には絶対仲直りする!」
「そうね、頑張れ!」
空元気を出した私をにこっと笑って応援してくれる凜ちゃんのおかげでちょっと元気が出た。
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保健室から出た後、盛大にため息を吐いた。
心配になってしまい後で生徒会メンバーに怒られるの覚悟で押しかけて、久々に桜宮と話せたけど、やっぱりちょっとぎこちない気がする。
夏休みで会えないからあんまり自覚してなかったけど、桜宮に素っ気ない態度を取られるとかなり寂しい。
会ったばかりの時は素っ気ないのが普通だったのに、仲良くなって話すようになったのに慣れたからかどうにも前以上に心にくる。
「どうやって仲直りしよう……」
深いため息を吐きながら、不意にダンスの約束を思い出した。
桜宮が文化祭までにちゃんと足治ってなかったら、遠慮した方が良いよな。
そんな事を思いながらも、ダンスの練習を思いだす。
俺が散々やらかしても、明るく笑ってもう一回やろっかと言ってくれて、長々と練習に付き合ってくれたな。
緊張してガッチガチだったけど、最後ちゃんと踊れた時は嬉しかった。
それに、近くで見た桜宮は可愛くて、良い匂いがして、女の子って感じで可愛……。
思考が変な方向に逸れて、勢いよく頭を振る。
いや、駄目だろ、桜宮、好きなヤツいるし。絶対アイツらの誰かだから、普通に応援してるのに!
乙女ゲームのヒロインとのキラキララブストーリーとか俺には無理だし、絶対アイツらといる方が絵になるからダンスとか好きなヤツと踊れた方が絶対良い。
……だけど、桜宮となら絶対踊りやすいし、あの笑顔を近くで見れるのは正直役得だし。
「一緒に踊れたら良いんだけどなぁ……」
思わず呟いた言葉に、そもそも仲直りが先だよなとため息を吐いた。