取り敢えず気にしないことにしたら、予想外に出会いました
今日は書籍第2巻の発売日です。
今回も素敵な表紙なので、気になる人は活動報告を覗いてみてください。
皆様が読んでくださるおかげで、2冊も本を出すことが出来ました。
本当にありがとうございます。
もう夏休みもそろそろ終わりに近づいて、宿題とかを必死に片付けなければいけない頃。
だけど、この所、毎日学校に来ている。
と言うか、生徒会室に。だって。
「あれ、ごめん、運動部関連のヤツどうなってたっけ!? つーか、これ予算おかしくなってない? 待って、どこで間違えた!?」
「すみません。変更点があったはずです。これ終わったら、すぐ説明するので少し静かにしてください、黄原」
「す、すみません。その、追加の申請が…来ています」
「……期限、とっくに過ぎてるだろ、何でだ」
「…その、よ、予定外の事故により、備品が壊れて……変更せざるを得なかったそうです。……俺が許可だしました。すみません……」
「いや、お前は責めてない。すまん」
「うっわ、待ってこれ、備品とかの割り振りやり直しか?」
「す、すみません…」
「いや、青木も誰も全く悪くないし、不可抗力だから。落ちつけな」
この通り修羅場である。
夏休み前の忙しさなんて目じゃ無かった。
今年の夏休みは始まったばかりの時はそれなりに遊べたけど、後半は休みって何だっけなレベルで忙しい。
去年の黒瀬の問題が可愛く思えてきた。
トラブルに次ぐトラブル。忙しい時に限って何故か切れるコピー紙、固まるパソコン。笑えるくらいの締め切り超過。おまけに、何故か大量にやって来る生徒会役員と二人きりでチェックしたい箇所があるなどの見るからに役員目当ての要望。
役満である。どう足掻いても修羅場以外の何ものでもない。
そろそろ皆煮詰まってきている。かなりヤバい。
いい加減に見飽き始めた備品管理の項目の修正を行っていると、ドアが開く音がした。
顔を上げると、面倒くさそうな顔をした黒瀬が書類の山を抱えて立っていた。
「……おい。こっちのコピー終わったぞ。次は何やればいい?」
「ありがとう~、黒っち。じゃあ、これの計算チェックお願い!」
「ん、了解。こっちのスペース借りるぞ」
以前に比べたらマシになったそうだが、未だに続くサボりや遅刻の罰則として、夏休みまっただ中で掃除を命じられていたのを、「ならウチの手伝いに!」と無理矢理来てもらった。だけど、そんな経緯で来て貰ったにも関わらず、結構真面目に働いてくれている。
元々要領が良いのだろう。仕事も早くて的確で、正直助かっている。
本来はコイツが生徒会役員だったというのが、ここ最近で一気に納得出来た。
そんな事を考えながらも、仕事を進めていると、黒瀬がふと思い出したように口を開いた。
「そう言えば、桜宮は手伝い来ないのか? アイツ、夏休みでもこんだけ忙しいって言ったら、来てくれそうだけど」
その言葉に手元の書類に力が入り、ぐしゃりと潰れた。
周りも呆れた顔を向けてくる。
「……すんません。俺が怒らせてから、暫く来てないです」
俺の言葉に皆やってる作業から顔を上げないまま、苦笑気味に話し出す。
「夏休み入る直前にすっごいむくれて拗ねてましたけど、結構長いですよね」
「タイミングが悪かったのもあるんじゃない? あの後すぐに夏休みじゃなきゃ、多分仲直りしてたよね」
「夏休み中会う機会も無かったし、そろそろ来るかと思ってたけど意外と来ないな。まあ、折角の夏休みだし、アイツはクラスの出し物の準備で忙しいのもあるだろ」
「そりゃ、また。ソワソワしてたの、これが原因か。何やったんだ?」
「……俺がフォークダンスの練習付き合って貰ったにも関わらず失礼な事言って怒らせました。すみません」
確かに思った以上に長引いてしまったが、今思い返しても、アレは無いよな。散々付き合ってもらっといて、最後の最後にようやく女子と近かったことを思い出すとか。
バレンタインの時に半泣きにさせちゃったのも、多分、こういうのが悪かったんだろうな。
なんか、俺がモテないのってこういう所が原因な気がする。
マジで桜宮には申し訳無い。
これ、キャンプファイヤーの時に一緒に踊るっていう約束、まだ有効なのかな。
そんな事を思っていたら、黒瀬が「は?」と声を上げた。
「お前、ダンスが苦手って、気恥ずかしいから言ってた言い訳じゃないのか? マジで練習してた訳?」
「言い訳も何も、ガチでリズム感無いから出来ませんけど!? お前と違って、何でも出来る訳じゃないんだよ!」
「いや、お前、リズム感あるだろ。喧嘩の時のカウンターとか、リズム感無いと出来ねえぞ」
「へ?」
心底不思議そうな声で言われた言葉に、こちらもポカンとした。
貴成が苦笑しつつ話し出す。
「正彦は音感はガチで無いが、リズム感は苦手意識強すぎて、やれと言われた瞬間緊張して出来なくなるタイプだからな。昔からいくら練習しても治んなかったから、ダンスや音楽関連ではほとんどリズム感無しと同じだぞ」
「あ~、そういう感じかあ。ちょっと気持ち分かるかも」
「……はい、俺も。……緊張すると、上手く出来ませんよね」
黄原や青木が作業をしつつも頷いているのが横目に見えるが、俺は完全に作業の手を止めてしまっていた。
え、いや、確かに緊張してたが今回もかなりの原因だったけど。
俺、昔っから、本当にリズム感無かったぞ。音楽は勿論、リズムゲームだって簡単コースも出来ないし。
運動神経はそれなりだったけど、相手のリズムに合わせてやるカウンターとかからっきしだったし。
うん。前世通してそんな感じだった。だから、今生も出来てないし。
そこまで考えて、ふと気付いた。
あれ、今生は出来てるよな、カウンター。だから、黒瀬もリズム感あるって言ってきたんだし。
そう言えば、本当に小さい頃は、普通にやれてたよな保育園のダンスとか。
……ひょっとして、出来なくなったのは、前世思い出してからか?
そこまで考えた瞬間、思わず席を立った。
周りが突然立ち上がった俺に視線を向ける。
「…あー、喉渇いたんで、飲み物買ってくるわ。何か欲しいのあるヤツいたら、ついでに買ってくるぞ」
「ブラックコーヒー頼む」
「あ、じゃあ、俺ミルクティーで!」
「僕は緑茶で」
「……えと、レモンティーをお願いします」
「コーラ」
「……了解」
容赦なく全員から注文が来て、ちょっと引きつりながら了承する。
俺のも合わせて6人分か……頑張ろ。
「えっと、俺も行きましょう、か?……一人じゃ、重そうですし」
「いや、大丈夫。心配してくれてありがとな。んじゃ、いってくるわ」
気遣いが出来る優しい後輩に礼を言って、一人で生徒会室を出た。
なんか一人で歩きたい気分だ。
歩きながらため息を吐く。
……顔だって前世と違うんだから、前世と違うことが出来るようになってたくらい普通にあり得るよな。
だけど、なんか変な気分なのは、多分、中身は全然変わってないと思ってたからだろうな。
そこまで考えて、頭を振って、思考を追い払う。
うん、前世うんぬんかんぬんで悩むとか、中二病くさいし、止めよう!
購買に行くために階段を降りようとした時、ふと、ここからだと自分のクラスにも近いなと思いついた。
息抜きで出てきちゃってるし、ちょっと自分のクラス覗くくらい良いよな。
そろそろ文化祭近いから、桜宮もいる可能性高いし。
もし居たら、もう一回ちゃんと謝って仲直り出来ると、俺の心の平和的に大変有り難い。
貴重な女友達怒らせて疎遠になるとか結構寂しい。
そう思って、クラスを覗き込むと、香具山さんが作業をしていた。
だけど、どこかソワソワとした感じである。
そろそろ疲れてきた頃かなと思いながら、声を掛けた。
「おーい、香具山さん、お疲れ」
「あっ、篠山君、お疲れ様!」
「今日は桜宮、作業に来てるか?」
「……その、来てるんだけど」
「どっか別の場所で作業中か?」
「……さっき作業中に盛大に転けて。今、凜ちゃんが付き添いで保健室に行ってるんです」
「へ?」
予想外な言葉に間抜けな声が出た俺に、香具山さんは「本当です」とどこか困った顔で頷いてみせた。