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本気で申し訳ないです




 昼休み、いつも通りの場所で、ふと、昨日保健室で言われた事を思いだした。

 …リラックスねえ。

 確かに、音楽のテストとか、ダンスの授業とか、滅茶苦茶緊張してたな。

 確か切っ掛けは、前世に失敗してかなり笑われたんだっけか。

 大事かもな、これ。

 練習を始める時、いつもみたいに気合いをいれるのではなく、深く深呼吸をする。

 それと家に帰ってからやる楽しみを考える。

 何やろうかな、今日。あ、そう言えば、あの雑誌発売日今日じゃね。よっしゃ、帰りに買いに行って、帰ったら読もう。

 そんな事を考えてると、いつもよりも、気楽な気分になれた気がする。

 うん、やるか。


「おし、桜宮。今日もお願いします」

「うん、頑張ろうね」


 練習メニューはいつも通りで、まずは音楽に合わせて踊ってみて、次はリズムに合わせて手拍子、次は桜宮の手拍子に合わせて一人で踊るだよな。

 音楽を流して、桜宮に手を差し出す。いつもは動きに意識を集中させまくっているけど、今日は周りを見る余裕がちょっとはある。

 あー、うん。確かにいつもは緊張し過ぎてたな、これ。


「1、2、3。1、2、3」


 桜宮の声もいつもよりちゃんと聞けてるからか、タイミングもいつもより大丈夫だ。

 あ、割と良いかも。

 そんなことを思ってたのに、ふと、桜宮の顔を見て、止まってしまう。


「え、あ、どうしたの、正彦君」

「いや、桜宮、大丈夫か? 顔赤いぞ」

「え、あ、嘘!?」

「いや、本当。熱中症かもだし、取り敢えず水飲め。今日は練習止めて、生徒会の手伝いも…」

「え、違う違う、平気だよ!」

「いや、体調悪いのに無理しない方が」

「だって、正彦君と練習してる時、緊張して顔熱いとかいつもだもん! いつもは言われないから気付かれてないのかと思ってたのに、なんで今日は…」


 自分の言ったことに気付いたのか、口を押さえて、更に真っ赤になって後ずさる。

 え、いや、えっと。


「緊張してた訳? 俺と踊るので?」

「……うん、だって、ち、近いし。手握るとすごい男の子って感じだし。手汗とか匂いとか気になるし」


 そんなことを言われて、俺も不意に桜宮と手を繋いで踊ってたということを実感して、急に恥ずかしくなる。

 ああ、うん、そうだよな。

 面倒くさいことに手伝わせちゃって申し訳無いより、そっちの方が大きいよな普通。

 馬鹿だろ、俺。

 昨日、茜坂先生が言ってた桜宮も緊張してるはずという言葉を思い出す。

 うん、大変申し訳ない。俺、苦手な事の練習の上、早くやらなきゃと焦ってたからて、どんだけガッチガチだったんだよ、いつも!

 

「えっと、ごめん」

「だ、大丈夫だよ。と言うかなんで今日は気付くの」

「……ガチガチに緊張しすぎ、リラックスしろってアドバイスを貰ってな」

「そ、そっかあ。確かに、ちょっと緊張してる感じだったよね」

「え、桜宮もそう思ってた?」

「うん、いつも緊張とかしないタイプだし、珍しいなあと思ってた。それに、ちょっと新鮮だなあと、あ、ごめん」


 お互い視線はちょっと逸らして、何とも言えない微妙な空気でそんな事を話す。

 やがて、その空気を払うように、桜宮が声を張り上げた。


「と、取り敢えず、練習の続き!」

「そうだな!」


 そう言って、音楽の再生から、もう一度やり直す。

 手を繋いで、いつも通り桜宮の声が響く。


「1、2、3。1、2、3」


 その声をよく聴くのもそうだけど、桜宮の動きを意識して合わせる。

 あー、これ、タイミングとかリズムって思うより、桜宮に合わせるって思った方が良いな。

 うん、いつもは音楽に合わせてとか、気張りすぎてたな。

 フォークダンスとか単純な踊りだし、落ち着いてリラックスして、相手の動き見てたら意外といけるな。

 …うん、ガチガチになりすぎてたが、全ての原因だな。昼休みに十五分くらいの練習だったとは言え、何やってんだろ、俺、二週間近くも。

 そんな事を思いながら、踊りきる。

 桜宮が驚いた顔で、口を開いた。


「踊れてた! ちゃんと踊れてたよ、正彦君! すごいね!」

「あー、うん、そうだな。ありがとう、桜宮」

「…あれ、なんか嬉しそうじゃないね。どうかした?」

「あ、いや、嬉しいんだけど、失敗の理由がどうしようもないと言うか。リズム意識して、ガチガチになりすぎてたわ。……それと」

「それと?」

「あ、いや、大したことないから大丈夫」

「え、でも気になるよ。言いかけたんだから、続きも言ってよ」

「……怒るかもだけど、良いか?」

「? うん」

「……その、これ、なんか距離近いし、ちょっと気恥ずかしいな」


 そう言った瞬間、桜宮は固まって、そして怒った顔になって口を開いた。


「ちょっと待って! 今!? 二週間近くも練習して、その感想出てくるの今!?」

「ごめんって」

「遅い、遅すぎるよ! 私、すっごいそれで緊張してたのに、なんで正彦君は今、ようやく!?」

「…はい、自分でも無いなあと思います。すみません」

「もおーー!!!」

 

 怒ってる桜宮からつい目を逸らす。

 うん、これは、自分でも無いわ。つーか、茜坂先生が呆れる訳だよ。するわ、緊張普通なら。

 だって、手柔らかくて小さくて女の子って感じだし。距離近いから、桃の匂いかな良い匂いするし。

 それに桜宮、美少女だから、近くで見るとやっぱり可愛いし。

 あー、うん。終わった後なのに、ちょっとドキドキする気がする。

 これはすごい、流石ヒロイン、すごい。

 そして、攻略対象者なら絶対こんな事にはならないな、これ。

 ちゃんと初回でドキドキしつつも、桜宮に良い感じの事言えるんだろうな。

 うん、アイツらすごいなー、やっぱりお似合いだな。


「うん、ごめん。お礼、奮発します。それと、誰か誘うなら、絶対協力するわ」

「……協力」

「うん、任せとけ」


 そう言うと、何故か更にむくれた顔になった。

 え、なんで。

 慌てていると、怒った顔のまま、口を開く。


「いらない。本番も一緒に踊ってよ」

「え、いや、でも、それは流石に悪いって。好きなヤツ誘えよ」

「いーの! 絶対、本番でも一緒に踊って、今度はちゃんと緊張してよ! 踊れたから、今日はお終い! 次の授業もあるし、帰ろう!」


 完全にむくれた顔で、そう言って、スマホを回収すると歩きだしてしまう。

 うん、完全に怒らせましたね、これ。

 本気で申し訳無いと同時に、素直に従った方が良さそうだ。

 後をついて歩きながら、それにしてもと思う。

 怒って、腹いせみたいに言ったけど、これ、俺としては得しかないんだけどなあ。

 散々練習に付き合ってもらったから、誘いやすいし、多分桜宮とが一番踊りやすいし。

 ……それに、やっぱり可愛い子と踊れるのって、嬉しいしなあ。





書籍発売カウントダウン三日目、最終日です。

今日が発売日です。

今日のキャラクターデザインは、黒瀬君、白崎君、染谷ちゃん、暁峰ちゃん、香具山ちゃんです。

残りのキャラクターは二巻の際に。

是非活動報告でご覧ください。

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