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練習開始です



「1、2、3。1、2、3…きゃ」

「うわ、ごめん、桜宮! 痛かったか!?」

「ううん、大丈夫。ごめんね、ちょっとびっくりしただけ」


 手を繋いでくるくると回るだけの簡単なダンス…のはずなのに。

 ターンのタイミングがずれたせいで、また今回も桜宮の足を軽く踏んでしまった。

 昼休み、手早く弁当を食べ終わるなり、この広い学園の中でも人が来ない裏庭の片隅で練習をするようになって、早くも一週間が経過したが全く上達した気がしない。

 ……うん、前世からヤバかったリズム感、音感の呪いが今生もヤバい。

 だけど、やっている俺本人があまりに上達しなくて嫌になってくるような練習に、付き合わされる桜宮の方が嫌だろう。

 ため息を吐きつつ、そっと桜宮の顔を伺う。

 だけど、桜宮は意外にも俺が予想していたような、少しウンザリしたような顔ではなかった。

 と言うか、むしろ。


「……楽しそう、だな?」


 俺の声に反応して、桜宮が慌てたような顔で、手を振る。


「あ、ご、ごめんね。その、下手なのを笑ってるとかじゃ、全然無くて」

「いや、下手なのは事実だし、別に笑ってくれて良いんだけど。なんか、すっげえ迷惑掛けてるから、嫌になってるんじゃないかと思ったのに、意外と楽しそうだったから。つい、な」


 そう言うと、桜宮は何故かちょっと気まずそうに顔を逸らしつつ、話し始めた。


「えっと、その、正彦君も出来ないことがあるんだなと思うと、ちょっと親しみが湧くというか。ちょっと嬉しくなっちゃって」

「はい…?」

「だって、正彦君、運動も勉強も出来るし、人付き合いだって上手だし。基本的に何でも出来るなあと思ってたから。私、勉強苦手だったし、運動神経良くないし、お料理だって酷かったから。正彦君のこと、いつも、すごいなあ、格好いいなあって思ってたの。だけど、やっぱり苦手なこともあるんだなあと思うと、ちょっと可愛いな、と」

「可愛い……」

「あ、ごめん! 男の子に可愛いはやっぱり駄目かな!?」

「い、いや、良いんだけど」


 何故か滅茶苦茶褒めてくれる言葉にちょっと混乱し、最後に言われた一番意味不明な言葉をオウム返しに呟く。

 うん。なんか滅茶苦茶恥ずかしいな、これ!

 自分では頑張ってそれなりにしてる自覚はあったが、あまり人にこうやって褒められるのって無かったからか、本当に変な気分だ。貴成やおじさんとかは身内贔屓がすごい気がしているので除く。

 でも、まあ、俺は人生二回目だしなあ。人より経験値が多いだけなのである。

 人生一回目で、俺よりも出来の良い貴成とかを知ってると、ちょっとズルしてる感はある気がする。

 目を合わせられないまま、ポツポツと言葉を返す。


「いや、…そんなすごいもんでもないと思うぞ。運動に関しては体動かすの好きなだけだし。人付き合いは……まあ、慣れというか。勉強も…まあ、最初は苦手ですごい嫌だったけど、ある程度出来るようになると、楽しくなってきただけだし」

「え、苦手だったの、勉強!? 今はあんなに楽しそうに授業受けてるのに!」

「いや、まあ、最初はな。やっぱ、なかなか出来ないと嫌になるだろ。…今だって、そうだし」


 驚いている様子の桜宮に、俺はどういう風に見られてるんだろうと思いながら返す。

 でも、まあ、勉強は本当に前世の積み重ねのおかげだからなあ。 

 最初は出来なくて、本当に半泣きと言うか、泣きながら、机に向かってたことも珍しくなかった覚えがある。

 だけど、俺の成績が悪いと、疲れて帰ってきた両親がすごく悲しそうな顔をしたし、塾に行くお金なんて前世の貧乏っぷりでは無理だったし。

 両親のごめんが聞きたくなくて、必死に頑張ったのである。

 まあ、そのおかげで今生すごく楽で良かったなあと思うけど。

 ただ、この苦労エピソード、前世と言う中二病ワード全開のため人に言えないのである。桜宮もそうかもとはちょっと思ってるけど、違った場合、痛いヤツなんてもんじゃないから、絶対言いたくない。

 だから、貴成とかも俺は最初から勉強出来たと思ってるんだよな。まあ、それは良いけど、こう言う褒め方をされた時は何とも申し訳なさがあるな。

 でも、それよりも。


「それに桜宮だって、苦手だって言うけど、すっごい頑張ってんじゃん。成績、以前と比べて滅茶苦茶上がったし。だから、Sクラスなんて入れたんだろ。料理だって、最初はともかく最近は美味いよ。だから、俺なんかと比べなくても普通にすごいって」

「えっと、それは、その……皆が私に色々教えて、練習に付き合ってくれたおかげだし。正彦君だって、色々勉強教えてくれて、お菓子の味見付き合ってくれたでしょ。だから、全然遠慮無く、私を付き合わせてくれて構わないから」


 にっこり笑った言われたその言葉。

 思わず目を瞬かせてから、笑ってしまう。

 何というか、去年の冬から思ってるけど、やっぱり良いやつだよなあ、桜宮。

 本当に誰が好きなのかは知らないけど、上手くいってくれればいいと思う。

 でも、まあ、それよりも今は。


「その言葉は有り難いんだけど、早く上達出来るように練習頑張るわ。生徒会とかも忙しくなってくるし、……それに暑いしな」

「えっと、日陰だし、冷たいジュースとかお茶とか正彦君が奢ってくれるから。だ、大丈夫だよ?」

「いや、それでも、流石に暑いだろ。これから更に暑くなるから、夏休みまでには、どうにかするわ」

「……やっぱり、練習、室内の方が良かったかなあ」

「いや、絶対目立つし、見られたら噂になるけど、良いのか?」

「それは、ちょっと恥ずかしいよね、やっぱり」


 七月のギラギラと輝く太陽をそっと見上げて、お互い苦笑いする。

 …うん、本当に練習頑張ろ。





書籍発売カウントダウンということで、これから12月10日まで連日投稿です。

そして、活動報告でキャラクターデザインを公開します。

すっごい可愛いです。

今日は、篠山君、桜宮ちゃん、赤羽君。それに制服の設定です。

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