ほんの少し進めた気がします 〜桜宮視点〜
2話連続投稿です。
まだの方は前の話からお読みください。
「ちょ、桜宮!!」
そう言われて手をつかまれて、すぐ側を車が通り過ぎていった。
…あっぶなぁ、これは正彦君がいなかったらかなりまずかった。
何というか、今日は失敗しっぱなしだ。
まず、正彦君が私が誰かの隣にいけるように気を遣ってくれちゃったことには多々言いたいことがあるけど、…まあ、いつものことだ。悲しいけど。
それよりも、気を遣わせてしまった皆にちょっと申し訳ない。だけど、木実ちゃんと麗ちゃん…そして黒瀬君は折角の機会なんで頑張って欲しい。
だけど、彼女って言われて照れくさくて、上手く返せなかったのは駄目だった。
それと渚さんの言葉にちょっと不機嫌になってしまったのも。
ばったり会った時から、私に対する視線が痛かったのはまあ良い。私の正彦君呼びにちょっと顔が引きつってたのも、してやったりといった感じだ。
だけど、その後の遊ぼうねという言葉にはちょっと負けてしまっている気がする。
…私個人で正彦君を遊びに誘うの、まだ出来てないのである。
それ引きずって、無言のままぼーっとして歩いて、あまつさえ転けかけて、車に轢かれかかるとか。
うん、これは無い。…文化祭の前に、倉庫で物が落ちてくるのから助けてくれた時みたいに、正彦君に怒られるのも甘んじて受け入れよう。というか、私から謝り倒そう。
まだ私の手をつかむ正彦君の手とか、車近いの恐怖とか、そんなことで混乱している頭で動くよりも先にあれこれとぐるぐるしていた私はようやく顔を上げて。
そして、至近距離で目があって固まった。
そのままポロリと言葉が零れる。
「…正彦君、大丈夫?」
あの時みたいにちょっと呆れてたり、しょうが無いなあって顔されると思ってたのに、正彦君の顔は引きつっていて顔色はいつもと比べて悪かった。
普段だったらドキドキして挙動不審になるだろうと自分でも断言出来てしまう私だけど、今日はそれよりも心配が先に立ってしまう。
私の言葉に正彦君はぽかんとした顔で、首を傾げる。
「…大丈夫かって聞かれるのは普通、桜宮の方では?」
「それはそうなんだけど、…その、顔色悪いよ」
私の言葉に正彦君は顔に手を当てて、ため息を吐いた。
「あー、マジか。いや、何でも無い。思った以上に車が近くて、ちょっとビビっただけだから。…まあ、いいや。取り敢えず、屋台のある方戻ろうぜ」
そう言っていつも通りに戻って、私から離れて歩きだそうとする正彦君を思わずこちらから掴む。
「桜宮?」
「大丈夫だから!」
「は?」
「正彦君がちゃんと助けてくれたから、私も正彦君もちゃんと無事だよ」
何でこんなに必死なのか自分でも分かんないけど、頭に過ぎってしまったのだ。
前からちょっと思ってたけど、もしも正彦君が私と同じなら、前世の記憶があるなら。
私と同じように自分が死んだ時の記憶だってあるのだ。
私は記憶を思い出してから、熱っぽいとちょっと怖い。前世の病気を思い出すから。
もし、正彦君の終わりが交通事故だったら、多分、結構怖かっただろう。
それなら、ちゃんと言わなくちゃ。
「だから、大丈夫なの。助けてくれてありがとう、正彦君」
その言葉に無言で目を瞬かせる正彦君をじっと見つめて。
…段々と不安になってきた。
いや、前世のことが頭に過ぎって必死になってしまったけど、違ってたらちょっと反応おかしくなかったかな。
ただでさえ、失点が多かったのに、今日。と言うか、自分で掴んどいてなんだけど、距離が近いなあ。
正彦君の無言に冷静になってきてしまったせいで、いつもの感じが戻ってきてしまう。
そろそろと手を離して、ちょっと目を逸らして、なんとか口を開いた。
「…えと、そんな感じです。転けそうになってごめんなさい。気を付けます」
そう言うと正彦君が小さく吹き出した。
さっきと違って、いつも通りの顔でにかりと笑う。
「あー、いや、…どうも? それに謝るのは俺の方だって。同中の奴らと会った時、彼女って勘違いされて冷やかされて、変な空気になったじゃん。ごめんな」
その言葉に慌てて、首を振る。
「いや、それ、正彦君のせいじゃないし。…それに、その、…彼女って言われるの、嫌ではなかったから、大丈夫、だよ?」
結構勇気を出して、後半の言葉を言ったのに、正彦君はちょっと首を傾げながら応える。
「…そうか? いや、今日は普段生徒会手伝って貰ってるお礼とかしたいと思ってたんだけど、迷惑かけっぱなしだったからな」
「いや、お礼とか、良いから。大丈夫です」
結構攻めた言葉がサラリとスルーされたことよりも、割と不穏なお礼云々に突っ込みを入れる。
ひょっとしなくても、お祭りの最初、私の隣から避けたの、それだよね、お礼のつもりだったんだよね。
要らない、本当に要らない。
「そうか?」
「うん、好きで手伝ってることなんで、全然大丈夫だよ。…あ」
ラインの通知音が聞こえて、手に提げてた籠バッグからスマホを取り出す。
「あ、暁峰から?」
「うん。花火が始まるの19時半からだから、19時20分に神社の鳥居の所集合。場所取りはやっとくだってさ」
「仕事早いな、流石、暁峰」
「黄原君も一緒なはずだけど、夕美ちゃんなんだね」
「いや、あの二人でよりしっかりしてるのあっちだろ。じゃ、それまでにもうちょい屋台回るか。なんか一個奢るぞ」
「え、良いよ、そんなの!」
「いや、お礼やっぱしときたいし」
「なら、私も助けてくれてありがとうのお礼しなきゃだよ」
「それは別に良いよ。下駄って歩きづらいんだろ。しょうが無いって。その格好似合ってるけど、そういうのは大変そうだよな」
「うぐ…っ」
「え、何!?」
「いや、ごめん。心構え何にも出来て無い所に、クリティカルヒットが来た」
「どういうこと?」
さっきみたいにたわいない事を話ながら、暗い境内の端から明るい屋台の方に戻っていく。
二人でお祭り回るって、まるきりデートみたいで。
この後の花火も見るのは皆でだけど、きっとロマンチックで。
だけど、今日も悲しいほどにアプローチは正彦君に通じない。
折角の二人きりだけど、あのスルーっぷりを見ると告白の勝率も低いだろう。
後で、皆に謝んなきゃ。
そう思うのに。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ。
お祭りの始まる前に考えてたような一杯喋って楽しいという感じじゃなかったけど。
あの薄暗い境内の端で、いつもより正彦君に近づけたようなそんな気がした。
またまたお久しぶりですみません。
突然の報告になりますが、書籍化します。
詳細は活動報告に載せてあります。
今までお付き合い頂けた読者の皆さんには、感謝しかありません。
本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。