お礼はちゃんとしなきゃです
ようやく梅雨も明けかけてきて、段々暑くなってきた。
まあ、どこもかしこも冷暖房完備なウチの学園だと大分マシだけど。教室は勿論、体育館とか部活棟にもしっかり付いている。地獄の灼熱体育館での集会がないと思うと嬉しい限りである。
まあ、今日も今日とて、生徒会業務に勤しんでいる。
桜宮の手伝いはずっと続いているし、月待さんだけではなく、他のクラスの女子もちょいちょい来ては手伝ってくれるのが有り難い。おかげで、雑用とかが減って主に庶務をやってる俺が助かっていたりする。
そのうちなんかお礼しなきゃなとか思いつつ仕事をしていると、ノックの音が響いた。
貴成がどうぞと返すと、ドアが開いて元気な声がした。
「失礼します。部活動報告書を持ってきました!」
そう言ってペコリと音がしそうなお辞儀をするのは、去年一緒に係の仕事をやった倭村さんだ。
久しぶりに見るけど、やっぱりちまっとした感じで小動物っぽいな、この子。
そんなことを思っていると、桜宮が嬉しそうな声をあげた。
「あ、木実ちゃんだ! 久しぶり、でもないかな?」
「はい! 土日ぶりです、桜ちゃん先輩」
そう言って楽しそうにねーっと言って笑い合っている。
係の時から仲良さそうだったけど、あれからもっと仲良くなったようである。
「ふふ、楽しそうですね。二人はよく遊ぶんですか?」
「あ、はい! 暁みん先輩の家で一緒にお菓子作り教えてもらってるんです」
「・・・暁みんって、ひょっとして夕美のこと?」
「はい! 黄原先輩を見習ってそう呼ばせてもらってるんです」
「あ~、そっか、なるほど。倭むらんは俺の味方だった! だよねえ、いいよねえ、こういうあだ名で呼び合う関係!」
それはそれは嬉しそうに胸をはる黄原にちょっとイラッとするのは、心が狭いのだろうか。
まあ、別に良いんだけど、これくらいのあだ名。
ワイワイ盛り上がっているのを見ていると、青木が倭村さんの書類を受け取ろうとした感じの体勢のままで固まってるのに気付いた。
…あー、真面目だからなアイツ。多分、最初に入って来た時から受け取る体勢になって、そのまま雑談になって突っ込むタイミングが分からないし、席に戻るタイミングも分からなくなったのだろう。
大分マシになったが、今でも喋るのはあまり得意ではないのである。
よく見ると倭村さんも青木の方を気にしているけど、桜宮と黄原が話しかけているから書類を差し出すタイミングが掴めないっぽい。
「おーい、倭村さん、悪いけど書類、青木に渡してもらっていい? 手続きしちゃうから」
「あ、はい!」
倭村さんはパタパタと青木の元に早歩きで進み、青木はホッとした感じの顔をした。
桜宮は青木が困った感じになっていたのに気付き、気まずげな顔をした。
「あ、ごめんね、正彦君。つい、嬉しくなっちゃって」
「いや、別に良いぞ」
普通に返すけど、実はその呼び方にちょっと慣れてなかったりする。
別に中学の時とか普通だったのになあ、下の名前呼び。多分、あの時の桜宮の表情のせいだと思うんだけど、流石はヒロインスペックである。
それと、桜宮が下の名前呼びになった時に、周りが妙に生温い感じでこっちを見てきたのもあったと思うんだよな。
何って聞いても、別にとかしか言わないし。特に黄原なんて、ニヤニヤした笑顔でこっちを見てきたし。
そんなことを思い返しながら、なんとなく青木と倭村さんの方に視線を向ける。
真面目に書類の確認をしながらも、ちょっと喋ってて、お互い笑顔を浮かべてたりしている。
去年の係の時は、青木がとにかく喋らなかったのもあって、ちょっとぎこちなかったけど、今では普通に仲良くなったようである。
一頻りの確認事項を聞いた青木が、黄原の方に向かった。
「…あの、すみません。…地域関連の校外支援活動は、部費アップの項目に入っていましたよね?」
「確かそうだと思うよ~。だよね、白っち」
「そうですね、地域や企業への支援活動は部活動の評価に繋がります。その関連で、次年度の部費の割り振りの際に加点が入ると思いますよ」
「あ、良かったあ、ボランティア部のコピー機そろそろ古いから部費に繋がりそうなのやろうって皆で考えたんですよね。来年は新しくて、良いの新調出来るなら皆喜びます!」
そう言って、倭村さんが嬉しそうに笑った。
「うん、良かったね~。ところで、地域支援活動って何するの?」
「あ、今度、お祭りあるじゃないですか。それに使う提灯とか飾りの製作を手伝うんです。買うとお金かかるし、作ると時間と手間がいるから大変だったらしくて。なので、部費のこともあるし、ボランティア部で引き受けようってことになったんです」
「あー、あの祭りかあ」
この学園の近所にある神社で初夏に開かれる割と大きめなお祭りである。
屋台もいっぱいでるし、最後には花火も打ち上げるので小さい頃からよく行っていた。
そういやもうそろそろか、時間が経つの早いわ。
そんなことを思っていると、黄原がやたらとソワソワした感じで話し出した。
「へえ~、そっか、お祭りかあ。良いよねえ~、日本の良き文化だよね~。…皆で行ったら、絶対楽しいと思わない?」
皆で出かけたり、遊んだりする時、一番はしゃいでいる黄原らしい提案だ。
「そだな。皆で行くか」
「良いぞ。どうせ、正彦と毎年行ってるし」
「はい、楽しそうです」
「…俺も、行きたいです」
「ふっふ~、じゃあ、決まり! あ、勿論、桜ちゃんと倭むらんもおいでよ! 夕美とか染っちとかクラスの女子も呼んで! あと、黒っちも! 女子がいた方がやっぱり華やかだし、それに逆ナンもちょっとは減るだろうしね」
その心配が素で出る所にちょっとだけムカつきを覚えるが、まあ、ウチの生徒会メンバーはな。いるよな、その心配。特に、貴成はそういうのされる度、めちゃ嫌そうだし。
つーか、女子陣も絶対ナンパの心配しなきゃな面子だ。
「うん、行くよ、絶対!」
「わあ、暁みん先輩達もですね、楽しみです!」
桜宮達も嬉しそうに盛り上がっていて、それを微笑ましげに見ていて、ふと気付いた。
ん? このお祭りって、ひょっとしなくても、乙女ゲームのシナリオに出てくるんじゃね?
生徒会メンバーと一緒にお祭りとか、なんかそれっぽい気がするぞ。
と、なると、桜宮は絶対、好きなヤツと二人っきりとかなりたいはずだよな。
よし、じゃあ、俺はそういう素振りがあったら、全力で協力して二人にしてあげよう。
目の前で友人にそういう恋愛モード出されても落ち着かないし、いつも手伝ってもらってるお礼もあるしな。
当日の事を考え、俺は大きく頷いたのだった。