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図太く負けずに頑張りましょう 〜桜宮視点〜

前日の夜にも二話あげています。

まだの人はそちらからお読みください。

最初は桜宮ちゃん視点、最後に篠山君視点です。




 渚さんが来た次の日、朝からしょげてる私を詩野ちゃん達は慰めてくれた。

 だけど、それが一層情けなくて、ますます落ち込んでしまう。

 何というか、こう言う所が我ながら面倒くさくて嫌になる。

 篠山君は素敵な人だ。本当に格好いい。

 だから、普通にいるはずなのである。私よりも先に篠山君のことを好きになって、私よりも仲良くなってた人が。

 別に、恋に順番制があるとか思ってる訳じゃない。だけど、何となく気後れしてしまうのは、どうしてなんだろう。

 そんな感じで落ち込みながら放課後になった。

 今日のお手伝いはどうしようかなと思う。

 こんなにグルグルな気持ちで行っても大丈夫かな? 篠山君にいつもみたいに出来るかな?

 でも、ただでさえ負けてるのに接点をなくすのは嫌だから行こうと決める。

 よし、と立ち上がると、麗ちゃんに声を掛けられた。


「桃、私も行きます」


 その言葉に目を瞬かせる。

 麗ちゃんが居たら、多分、一人よりもずっと気持ちが楽だ。だけど、


「えっと、嬉しいけど。大丈夫? 忙しいよね?」

「大丈夫ですよ。私も、昨日、貴成さんに褒めてもらえて嬉しかったんです。独り占めはずるいですよ」


 そう悪戯っぽく言って笑う麗ちゃんに、嬉しい気持ちで思わず抱きつく。

 …ああ、赤羽君、本当に気付こう。あなたは本当に可愛くて、滅茶苦茶良い子に好かれてるんですよ。








 


 生徒会のお手伝いでいつもやるように黄原君の計算の再チェックや、書類をホチキスで纏めたりを行っていく。

 この紙は大丈夫と…。こっちは計算ミス…。

 そう思って仕分けた書類を黄原君に返すと、黄原君は私の渡した書類を見て、首を傾げた。

 

「桜ちゃん、ここの計算方法これじゃないんじゃないかな~? 上から下まで全部足すから、この直しの数だと小さすぎるもん」

「ええっ!」


 慌てて確認すると、上二つの項目を足し忘れていた。計算チェックのやり直しだ。

 慌てていると、青木君からも声を掛けられる。


「…すみません、桜宮先輩。…その、この書類とこの書類は提出が違う場所なので、…この二つを纏めたら駄目だと思います…」


 さっきホチキスで纏めた書類をそう言って返される。

 見ると、どうやら仕分けを間違えたらしい。

 連発するミスに慌てていると、赤羽君が妙に静かな声で言った。


「正彦、すまん。この部活予算会議の過去録探してきてくれないか?」

「いいぞ。いつの分?」

「ここ三年分と、十年前の分だな。備品の買い換えの申請の値段が正しいのか比べたい」

「了解。他に何かいるヤツある人は?」

「…あの、すみません。…この講演会のお礼状、…過去の例があれば、参考にしたいです」

「了解。じゃあ、行ってくるわ」


 篠山君がそう言って、書類のしまわれている倉庫にファイルとかを探しに行った。

 部屋から篠山君が出て行くと、赤羽君がこっちに向き直る。

 その瞬間、ビクッとした。ヤバい、キレている。


「さて、桜宮。お前が何でここにいるのか分かってるよな」

「ご、ごめんなさい。私が篠山君に近づきたくて、真面目に手伝うからと無理を言いました!」

「だよな。俺はこういう理由で手伝い増やすと際限が無くなりそうだからと反対したのに、無理言ってここに来るようになったよな。…それなのに、今日の集中力の無さは何だ?」


 あまりに真っ当すぎるお怒りに小さくなるしか出来ない。

 やっぱりこんな日に来るべきじゃなかった。自分のことばっかりで、迷惑がかかるとか考える事が出来て無かった自分に呆れてしまう。


「…ごめんなさい。今日は集中出来ないと分かってるのに来るべきじゃなかったです」


 謝って、深く頭を下げると、深ーいため息をつかれた。


「それじゃあ、倉庫に行って、正彦手伝ってこい。それで、その悩みの原因、はっきりさせてこい」


 その言葉に、驚いて顔を上げる。


「え、いいの? 帰れとかじゃなくて?」

「良いのも何も、うじうじ悩んで、忙しい友人無理に付き合わせてるな。月待の都合も考えろ」

「あ、あの、私が来たいって言ったので、桃のせいでは」

「月待が忙しいのは知ってる。あれだけ苦手だった習い事、全部上達してたからな。習い事、欠かさず行って、親の社交にも小まめに付き合って、それに部活もあるだろ。どう考えても、連日、生徒会の手伝いなんて頼めるスケジュールじゃないからな」


 赤羽君にそこまで知られてると思って無かったのか、麗ちゃんが困った顔で目を逸らした。

 それを聞いて、ますます小さくなるしか出来ない。やっぱり、無理させてたよね、ごめんね。


「まあ、幸い優秀な月待のおかげでここの手伝いは足りている。だから、さっさと行ってこい。それで、普段の少しはマシな手伝いを出来るように戻れ」

「は、はい!」


 言われて、慌てて生徒会室を出る。

 自分の不甲斐なさにますます情けなくなるが、おかげで怖くて聞きたくないなんて泣き言が封じられた。

 今度、麗ちゃんにはちゃんとお礼をしようと思いながら、倉庫の扉を開ける。


「あれ、桜宮?」

「…その赤羽君に、麗ちゃんがいるから、篠山君を手伝ってこいって」

「あー、了解。じゃあ、予算会議の過去録の十年前の分、探してくれない? 八年分はここにあるのに、それより前のが別の場所にあるっぽいんだよな」

「う、うん、分かった」


 予算系とか、部活系のファイルがあるあたりを探しながら、どうやって切り出そうかとグルグルと考える。

 泣き言を言ってられないと思いつつも、怖いものは怖い。

 引っ張り出したファイルを見ると、部活予算会議録と書いてあった。

 年度を見ると十五年前。じゃあ、この辺で…あった。

 さっそく見つけてしまったファイルを持って、篠山君の所に向かう。


「し、篠山君、これでいい?」

「ん? あ、これだわ。ありがとな」


 ひとまずやることが終わってしまった。このタイミングで聞くのが一番いいだろう。

 息を吸い込んで、口を開こうとした時、


「なあ、桜宮。俺、何かしたか? 昨日、今日と明らかに様子変だぞ」


 先に篠山君に言われてしまった。

 篠山君は何とも言えない顔でこっちを見ている。

 

「正直、桜宮が何悩んでんのか全く分かんないだけど、俺関連なら話は聞くぞ。何かしたなら謝るし」


 やっぱり優しい篠山君の言葉。

 その言葉に慌てて口を開く。


「ち、違うの、篠山君は悪くなくて…! その、あの! な、なんで、渚さんは下の名前呼びなの?!」


 パニクった結果、唐突が過ぎるその質問に篠山君は首を傾げながら答える。


「…それ昨日、黄原にも聞かれたけど違うぞ。下の名前で呼んでない」

「へ?」

「だって、渚って名字だし。あいつ渚 愛菜あいなっていうんだよ。珍しい名字だよな」

「え、えと、じゃあ、正彦呼びの理由は?」

「え、ああ。渚と同じクラスになった時に篠山って名字のヤツが俺の他にもいたんだよ。だから、あのクラスだったヤツ、俺とそいつは下の名前呼びで区別してたから全員正彦呼びだぞ。…これ、なんか関係あんの?」


 その答えにへなへなと力が抜ける。

 何というか完全に勘違いの独り相撲な感じだ。

 道理で赤羽君がさっさと聞いてこいと言う訳だ。渚さんが篠山君の同級生なら普通にその辺知ってただろう。

 と言うか、最初から赤羽君に確認すれば良かった…!

 

「おい、桜宮? えっと悩みは何だったんだ?」

「いや、自分一人で解決しなきゃいけない事だったから、大丈夫! ありがとね、もう、大丈夫になるから!」

「お、おう」


 篠山君は何か腑に落ちない顔をしている。うん、申し訳無い。

 色々と勘違いだった。…だけど、昨日の渚さんを思い出す。

 滅茶苦茶凝ったクッキーに、イケメンの中で篠山君にしか向けない笑顔、そして、それを見て強ばった顔になった私に向けた好戦的な視線。

 あの子が私のライバルだというのは、多分、間違えていないのだ。

 深く息を吸って、吐く。

 そして、顔を上げて、口を開いた。


「し、篠山君! その、あの、私もお母さんの友達に篠山さんがいてね、名前がちょっと混じる時があったんだ」

「え、そうなの?」

「うん、だから、…その、私も正彦君って呼んでもいい?」


 これは多分、アプローチとか関係無い。

 多分、篠山君は普通に良いよと言ってくれると思う。

 だけど、これは私の意地なのだ。

 篠山君を好きになったのは渚さんの方が先で、好感度だって渚さんの方が上かもしれない。

 順番で言ったなら、私は譲るべきだろう。

 …でも、それでも、今篠山君の側にいるのは私なの。

 私の方が後でも、好きなのは絶対に負けないって言いたい。

 だから、アドバンテージなんて少しもあげない。

 名前呼びで親しいなら、後からでも私だってそれを取りたい。

 我ながら面倒くさくて、やらかして、怒られてしまう私だけど。

 だからこそ、ちょっとでも頑張って近くにいたいの。

 篠山君は不思議そうな顔で頷いた。


「別にいいけど」

「ありがとう、篠山君、いや、えっと…」

 

 たった四文字なのに、緊張して、鼓動がうるさい。

 だけど、精一杯の笑顔で、口を開く。


「ありがとう、正彦君!」


 恥ずかしくて、顔が熱くなる。

 だけど、ちゃんと言えた。だから、渚さんと名前の呼び方では、同じポジションだ。

 うん、大丈夫。負けてない、負けない。

 本当に恥ずかしくて、熱くてしょうが無くなってくる。

 耐えきれずに、思わず言った。


「ごめん、喉渇いたから、ちょっとジュース買ってくるね! すぐ、戻るから!」


 そう言って、駆け出す。

 これで逃げるとか馬鹿じゃないの、自分と思う。

 篠山君にまた呆れられてしまうと思った所で、首を振った。


「ううん、違う。…正彦君だ」


 人気が無いことを良いことに廊下を走りながら、口の中でその言葉を呟く。

 恥ずかしくて、熱くて、…でも、とっても嬉しいから。

 私の片思いはやっぱり苦しいじゃなくて、楽しいが良いなと思ったのだ。









*****************





 桜宮が出て行った後、探してたファイルを纏める。

 結局、桜宮が何で悩んでたのか、よく分かんなかった。

 まあ、解決したっぽいけど。

 それは良いとして、なんだかため息をついてしまうのは。

 さっきの会話のせいだろう。

 正彦君と呼んで良いかと聞かれて普通に頷いた。

 だって、同じ中学の結構な人数が俺を正彦と呼んでいたし。

 だけど、びっくりしてしまったのは。

 桜宮が俺を呼ぶ時に笑ったせいだろう。

 なんでか、顔を赤くして、恥ずかしそうに、嬉しそうに、とびきりの笑顔で呼んだのだ。

 正彦君、と。

 また、深いため息をつく。

 さっきの桜宮は、…正直、とびきり可愛かったのだ。

 正直、乙女ゲームのヒロイン舐めてたわ、攻略対象者悩殺出来るだけある。

 片思い相手誰か分かんないけど、やっぱり大丈夫だろうな、あれは。

 そんなことを思いながら、ちょっと熱くなった頬に冷たいファイルを押し当てた。




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― 新着の感想 ―
[一言] こういうので良いんだよ。……こういうので良いんだよ(感涙)。
[良い点] やっぱり盛大に甘酸っぱいよぉ…! 個人的に「篠やん良い人だから、篠やんのこと好きになってた人絶対いるでしょ」って思ってたので、いてくれて普通に嬉しかった。 [一言] 最終的に篠やんに「ま…
[一言] なるほど、渚性でしたか。確かに珍しい。珍しい上に篠山という、これまた珍しい方の名前が被って、同じクラスに集まるとは……どんな偶然なんだろう? 普通は同姓の同クラスは避けるはずなのですが………
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