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再び理由が分かりません



 二年生になって生徒会が始まり、しばらくが経った。

 最近では仕事にも慣れ、大分楽になったが、じめじめとする季節に入り、今日も雨が降っている。

 土曜日に街の大きな本屋に来ていたが、スニーカーにじわりと染みこむ雨は嫌になる。

 目的の本を買い、さあ、帰ろうと思った所で後ろから声を掛けられた。


「あれ、正彦じゃん、久しぶり!」


 その声に振り返り、ああと頷く。中学生の時に同じクラスだったことがあり、そこそこ喋る方だった女子だった。


「おー、久しぶり、なぎさ

「うん、卒業式ぶりだよね。割と近所なのに会わないもんだね」

 

 そう言いながら、傘立てに手を伸ばして、そこで止まった。

 何故か少しおどけたような顔で振り返る。


「…ヤバい、傘盗まれた、かな」

「え、マジか」


 外を見る。さっきからの雨は更に強くなっていた。


「正彦、傘持ってるよね? 私の家ここから割と近いから、入れてってくれない?」

「別にいいけど。斉藤に見られたら、ちゃんと言っといてくれよ。俺、アイツに彼女に手出したのかー! って絡まれるの面倒だから」


 中学時代の事を思いだしながら、そう言うと渚は微妙な顔をした。


「あー、別れたんで大丈夫。入れて入れて」

「え、マジか」


 中学時代の暑苦しいアピールを思い出して、そう呟きつつも渚を傘に入れてやる。

 ビニール傘とかではなく、男性向けの大きな傘だが、やっぱり二人で入るとちょっと狭いな。


「大丈夫か、濡れてない?」

「大丈夫、大丈夫。入れて貰っといて文句は言わないわよ」


 そんな事を言いながら歩き出す。

 最初は生徒会に入ったせいで帰るのがいつも6時過ぎになるとか、最近ファミレスのデザートにはまっているとか世間話をしていたが、そのうち無言になった。

 しばらく経った後、ポツリと話し出す。


「やっぱり、熱烈アピールがあっても、他に好きな人がいる状態で誰かと付き合うのは駄目ね。悪いこと、しちゃったわ」


 こういう話題は苦手だ。

 頭をかきながらも、なんとか口を開く。


「…まあ、反省したなら良いんじゃないか。そんなに落ち込みすぎるなよ」


 そんなことを言うと、何故か吹き出される。

 近い距離の上、ニヤニヤと笑いながら、こちらに顔をよせる。


「やっぱり、正彦って、良いやつだよね。私、正彦となら、付き合いたいかも!」

「あー、はいはい。そういうのはちゃんとしたヤツに取っとけよ。今、駄目だったって言ってただろ」


 そう言うとちょっと困った顔をされた。


「あー、本当に相変わらずだよね、正彦」

「何がだよ」

「別に。所で正彦は彼女出来た?」

「残念ながら出来ませんよ。文句あるか」

「いや~、うん、そっかぁ。…あ、ここウチだから、もう良いよ」


 マンションの下でそう言って立ち止まる。


「今日はありがとね。今度、何かお礼するわ」

「別にいいよ。こんくらい」

「ううん、私がしたいの。じゃあね!」


 そう言って、笑顔でエントランスの中に入っていった渚を見送る。

 案外律儀なヤツだなと思いながらも、自分の家の方の道へ足を向けて帰った。











 月曜日、学校に来ると昇降口で桜宮に出くわした。

 

「はよー、桜宮」


 いつもと同じように挨拶をするけど、何故か桜宮は俺の顔を見るとぎしりと固まった。

 

「お、おはよう、篠山君、赤羽君」

「どうかしたか?」

「あ、…いや、あの!」


 明らかに様子がおかしいので思わず聞くと、俺の顔を見て何か言おうとする。

 だけど、口ごもり、下を向いてしまった。


「な、何でも無い。ごめんね」


 どこか落ち込んだ様子に首を傾げながらも頷いた。









 昼休み、久しぶりに晴れたから、いつものメンバーで屋上で昼飯を食っていると黒瀬がやってきた。

 前は俺等が誘ったら、しぶりながらもなんだかんだ来るって感じだったけど、自分から来るとは…。

 慣れてきたなあと、野良猫を餌付けしたような気分で場所を空けてやる。


「どうも」


 そう言いながら、いつもと同じコンビニパンの袋を破る。


「珍しいね~。黒っちが自分から来るなんて」

「…桜宮と染谷がしつこかったんだよ」

「桜宮ですか?」


 白崎が首を傾げる。

 黒瀬は面倒くさそうに俺の方を向いて、口を開いた。


「篠山、お前、彼女出来たか?」

「はあ?」


 思わず口の中にあるものを吹き出しそうになった。


「いや、全然、出来ないけど。急にどうした?」

「じゃあ、元カノとかいたりするか?」

「そんなもんいねえよ」


 急に始まった恋バナ的なものに首を傾げながら答える。

 え、何、これ。黄原とかならまだ分かるけど、黒瀬がわざわざやってこんなこと聞く意味が分からん。


「何々~? 恋バナ? 黒っちがこう言うのとか珍しいね!」

「…桜宮がまた何かやらかしてるのか?」


 黄原は興味津々で、貴成は何故か桜宮に対して警戒するように眉を寄せる。

 黒瀬はそれらに対して反応を返さず、ひたすら面倒くさそうに俺に問いかける。


「お前って、男子女子問わず基本的に下の名前じゃなく、名字呼びだよな? 仲良くなっても、さん付けとかが取れるだけ」

「…まあ、そうだな。貴成みたいによっぽど仲良い幼なじみとかじゃないと基本的には名字呼びだな。それがどうかしたか?」

「いや、別に。頼まれただけなんで」


 黒瀬はそう言って、何事も無かったかのように食事を再開する。

 いや、ちょっと待って、マジで意味が分かんねえ!

 白崎が苦笑しながら、口を開いた。


「篠山、桜宮さんと何かありました?」


 それもそれで突然の質問で首を傾げながら答える。


「いや、何も無いんだけど。…そう言えば、今日の朝、何か言いたそうだったんだけど、結局何でも無いって言ってたな。だけど、金曜日とかはいつもと同じだったぞ」

「え~、桜ちゃん、最近は割と落ち着いてきてたよね?」

「まあ、そうだな。挙動不審は減ってきてた。…だけど、本人的には何かあったんじゃないか」


 黄原や貴成も当然のように桜宮に何かあったんだろうと話している。

 …複数の攻略対象者達に、挙動不審と断言されるとか、おい、ヒロインだろ桜宮。

 いや、確かに去年は妙に挙動不審になってみたり、今年も始めはやけに張り切っていたけど、確かに最近は落ち着いていたと思う。

 だけど、皆の話を聞くと桜宮が黒瀬にこんなことを聞くように頼んだらしい。

 あの黒瀬に言うこと聞かせるとかは、流石ヒロインだけど…、いや、本当に何かあったっけ。

 一年の初めの桜宮のやらかしを思い出して、ちょっとげんなりしながらため息をついた。







 放課後、生徒会の仕事をする時、今日も手伝いに来てくれた桜宮はいつも通りだった。

 今日は月待さんも一緒に手伝いに来ているが、こっちもテキパキと動いてくれている。貴成はよく来てくれている桜宮以上に仕事を振って、桜宮にむくれられていた。

 月待さんと話す時も、他の生徒会メンバーと話す時も本当にいつも通り。

 俺と話す時も、一瞬固まったが、それ以外は普通に戻っていた。

 あまりにいつもに戻っていて、いっそ不思議だ。

 黒瀬が聞いてきた質問の答えを聞いて、何かしら悩みが解決したのだろうか。

 それなら良かったけど、何だったんだろうな、あれ。

 今日は桜宮に加え、月待さんが来てくれたおかげで、いつもよりちょっと早く仕事が終わった。

 なので、いつもは暗くなる前にと帰らされる桜宮達も一緒に門まで歩く。

 いつもと同じように、大通りの所まで駄弁りながら帰るか、ちょっと早いからファミレスにでも寄ってみようかなんて考える。

 月待さんは、生粋のお嬢様だからああいうファミレスとかで駄弁るのに憧れているとか言ってたしな。

 そんな事を考えながら歩いていると門の近くで誰かが待っているのに気付いた。

 その人物も俺等に気付き、門にもたれていた体を起こす。


「あ、正彦! 良かった、会えた。6時くらいだから、運良ければ会えるかなと思ったんだ」

「あれ、渚じゃん。どうかしたか?」

「近くのファミレスに友達と寄ったから、もしかしたら会えるかなって来てみたんだ。傘、ありがとね、これ、お礼! 調理実習で作ったものなんだけど、食べてよ」


 可愛らしい袋に入った、花模様やレースが砂糖でデコレーションされたアイシングクッキーだ。

 中々に凝ったそれに歓声を上げる。


「うわ、相変わらず器用だな。ありがとな」

「ふふ、どーいたしまして。…それにしても、赤羽君は相変わらずだけど、イケメンが増えてるね」


 そんな事を言いながら、皆を見渡して、桜宮の所で視線を止め、にっこり笑う。


「初めまして、正彦の中学の同級生の渚です」


 その挨拶に青木はともかく、白崎や黄原達も少しぎこちなく挨拶を返す。


「友達といる時にごめんね、それじゃあ、正彦。またね!」


 そう言ってにっこり笑って帰っていったのに、手を振った所で周りの様子に気付いた。

 何故か何ともいえない空気が漂っている。


「どうかしたか?」

「あ、いや~。…その、篠やんが女の子、下の名前呼びなんて珍しい、ね?」


 何故か黄原が微妙に視線を逸らしながら聞いてきたその質問に、ああと頷く。


「ああ、それか。だって…」

「ご、ごめん、その! れ、麗ちゃんとファミレス行きたいから、行くね!」


 答えようとした時、桜宮がいきなりそう言って、月待さんの手を握る。

 月待さんも困惑しながら、頷いている。


「へ? いや、それなら皆で行けば…」

「じゃ、じゃあ、また明日!」


 またも俺の言葉を遮るようにそう言って、月待さんを連れて駆け出す。

 月待さんも、お疲れ様ですとだけ言ってそれに着いて行った。

 あっという間にいなくなった二人に、ぽかーんとしていると貴成が近くで深いため息をついていた。

 今日一日で、普通に戻ったと思ったのに、この一瞬でまた様子が変になっていた。

 正直な話、全く意味が分からない。


「あー、もう、本当にどうしたんだよ、桜宮」


 そんなことを言いながらため息をついた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 従妹で名字が同じパターンと名字が渚パターン。 あと他になんかあったかねえ。
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