生徒会の始まりです
前半、篠山君、後半、桜宮ちゃん視点です。
ようやく短編の内容に追いつきました。
これからもお付き合いしてくれると嬉しいです。
仕分けが終わった書類をテーブルの右端に置き、顔を上げる。
目の前には、明らかにさっきより増えている書類があった。
それを見て、思わず言葉がこぼれた。
「…あー、もう、終わんねえ!」
すると周りにいた友人達が一様に苦笑いしながら相づちを打つ。
「ですよねえ、新学期始まってすぐでこんなに仕事があるとは」
「俺も電卓使いすぎて、手が痛い~」
「…ちょっと、びっくり、します」
「全員、思ってることだ。手を動かせ」
そんな風に返してくる友人達の腕にはやけに豪華な腕章が付いている。
それに書かれた文字は白崎が副会長、黄原が会計、青木が書記、貴成が生徒会長。
…そして、俺が庶務である。せめても抵抗で一番地位の低い係を分取った。
ちなみに、生徒会顧問は紫田先生だ。下っ端で仕事が多い役割を押しつけられたらしい。
紫田先生から聞いていた通り、あの後、本当に流れるように話が進み、気付いたら生徒会選挙が終わっていた。その手際の良さが怖かった。
しかも、この後に生徒会OBとの交流会があったりするらしい。正直、あの体制を築いた人達というと恐怖しかない。
まあ、そんなこんなで、始まった生徒会なのだが、決め方の怖さが少し納得できてしまうほどに忙しい。
うんざりしながら、書類を手に取っていると、がらりとドアが開く音がした。
「お待たせしました。コピー終わりました!」
そう言って入ってきたのは桜宮である。
生徒会役員ではない桜宮がなんでここで生徒会業務を手伝っているのかは俺もちょっと分からない。
桜宮が一年の後半にかけて必死に頑張った成果が出てSクラスになり、仲の良い女子達ときゃあきゃあはしゃいでいたのは、俺も少しは手伝ったからか微笑ましく見ていたが、何故かいつの間にか生徒会手伝いの話になり、桜宮が手伝いに来ることになっていた。
まあ、手伝いの動機としてはあの好きな人なんだろうけど、まさか貴成が許可を出すとは思ってなかったからちょっと驚いた。
本人は熱心に手伝ってくれるし、友達の恋を応援するのは別に構わないのだけど、どのようになっていくのかは全然分からない。
乙女ゲームのシナリオとかを覚えていれば何か違ったんだろうか。いや、でも、妹の言ってたキャラの感じと大分違うことになってるヤツ多いし、覚えてれば良いってものじゃないのか。
まあ、取り敢えず、桜宮の好きなヤツが誰かは分からないけど、攻略対象者な生徒会役員と二人きりになれそうだったら俺がそっとその場から離れてやるという方針でいいか。
幸いなことに攻略対象者達はあの女嫌いな貴成でさえ桜宮の手伝いは許可するっていうレベルに好感度が高めなのである。
そんなことを考えていると、遠慮がちに肩に触れられた。
振り返ると何故か顔を赤くした桜宮が俺に話しかけてきた。
「あ、あのね、篠山君、小腹空いたりしてない?」
「へ? まあ、放課後だし、空いてるっちゃ空いてるが」
「良かった! あの、私、お菓子作ってきたんだ。良かったら食べてくれない?」
そう言って差し出してきたのは大分上達したクッキーだ。
「いや、ありがたいけど。お前、勉強も頑張らなきゃって言ってたのに、生徒会の手伝いまでやって貰ってるんだから、気を使わなくていいぞ」
「ううん、私が作りたかっただけだから」
そう言ってにっこり笑って差し出してきたクッキーを頬張る。
本当に普通に美味しくなってるそれに思わず笑いながら、お礼を言った。
「ありがとな。すっげえ、美味くなってる」
「あ、ありがとう」
何故か俯いて恥ずかしそうにしてるのに首を傾げながら、生徒会メンバーに声を掛けた。
「お前らも食べたら良いよ。すっげえ、美味いぞ!」
その瞬間、俺らの方を見てた生徒会メンバーが微妙な顔をした。
「えっと、それを俺らが食べるのは…」
「ちょっと、違う気がしますね」
「…その、篠山先輩が、食べるべきかと…」
「腹減ってないから、いらん」
何故か全員却下だが、多分本命宛のクッキーなんだし、食べてやらなきゃ可哀想じゃ無いのか?
桜宮をちらりと見ると固まっていたが、にっこりと笑って、
「はい、皆さんもどうぞ食べてください」
と言った。
ちなみに桜宮は何故か生徒会メンバーに対して最近、丁寧な口調で話すようになっている。
去年は仲よさげに話していたのにと不思議だったが、まあ、生徒会の手伝い中だからとか、好きな人に話しかけるのが恥ずかしいとかそういう理由かなと指摘はしていない。
桜宮がそう言ったことで、生徒会メンバーが顔を見合わせてから、クッキーに手を伸ばし美味しいと感想を言っている。
それを見ながら、書類をチェックしていたが、確認がいるやつを見つけて立ち上がった。
「ごめん、ちょっと、先生に確認がいるやつ有ったから職員室行ってくるわ。他にそういうの有ったらついでにやってくるけどない?」
「…すみません、俺の所にも何枚か…」
「了解」
青木から受け取った書類を確認する。提出ボックスに入れてこなきゃなヤツ数枚と、風紀の先生に確認居るヤツ。うん、大丈夫そうだな。
「篠山君、簡単そうなのあったら、私も行って手伝おうか?」
桜宮がそう言ってくれたのに、ちょっと考える。
提出ボックスの方向は風紀の先生や俺が確認行かなきゃいけない先生のいるところとちょっと離れているから、俺が確認やってる間に行ってくれれば楽なのだが……、まあ、頑張って働いてくれてるし、好きな人に会いに来てるんだろうし、ゆっくりしててもいいだろ。
「いや、いいわ。ゆっくりしてろよ」
そう言って、頑張れよと小さく指を立ててから、部屋を出て行った。
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篠山君が部屋を出て行ってから、思わず頭を抱えて小さく唸る。
「全然、通じてない…」
軽いボディタッチも、上達したクッキーも空振りで、二人きりになれるかなと書類提出の手伝いを申し出たのに、にっこり笑顔で断られた。
しかもあの感じだと絶対、勘違いしてるし。
うんうん唸っていると近くの席から面倒くさそうなため息が聞こえた。
「桜宮、そこで唸ってると邪魔だから、せめてそっちの隅の椅子に座って唸れ」
冷たい言葉に思わず振り返ってキッと睨んでしまう。
これ以上勘違いを悪化させない為に篠山君の前では会ったばっかりの時みたいな丁寧口調だが、篠山君は今はいないから普通の態度だ。
「赤羽君、そんなこと言うけど、篠山君の鈍感っぷりの悪化の原因、そっちにもあるんだからね!」
「だから、生徒会の手伝いなんての許可出したんだろうが。…絶対、面倒につながるから、女子はあんまりいれたく無かったのに…」
その言葉に白崎君と黄原君が苦笑した。
「まあ、女子達にあれだけ言われるとね~。夕美とか怒らせると怖いし」
「香具山さんもなかなかに言ってましたね。まあ、桜宮、手伝いちゃんとやってくれていますし、彼女達も忙しい時は手伝ってくれると言っていたのでありがたいと思いましょう」
そう、生徒会の手伝いをやれるようになったのは詩野ちゃんや夕美ちゃん達の援護のおかげだ。
バレンタインの玉砕の話でどん引き、同じクラスになれて喜んだのもつかの間、鈍さを実際に見て更にどん引き、これはヤバいとなったらしい。
夕美ちゃんや詩野ちゃんは黄原君と白崎君からバレンタインのチョコ渡し係の話を聞いていたのもあって、赤羽君にめちゃくちゃ真剣に言い募ってくれたのである。
なんかもう、勉強に付き合ってくれたおかげでSクラスになれたのもあって、本当に頭が上がらない。
ちなみに、白崎君、黄原君もお手伝いに賛成してくれたし、今年はクラスの担任にもなった生徒会顧問の紫田先生も良いんじゃないかと許可をくれたのだ。
まあ、イケメン揃いの生徒会室に出入りしてる女子と言うことで、赤羽君が言っていたように多少絡まれはするし、気付いたら乙女ゲームのようになっていたが一切気にしないことにした。
だって、篠山君のおかげで攻略対象者達のゲームで解決するはずの悩みは解決済だし、篠山君、本当に鈍いんだもの!
そんな風に息巻いていると遠慮がちに声が掛けられた。
「…その、クッキー、篠山先輩宛のだったのに、食べちゃって、すみません…」
青木君が申し訳なさそうに謝ってくれた。慌てて否定する。
「あ、いいよ。皆の分もちゃんと持ってくるべきだったし……見るからに一人分のクッキー、皆に配るとは思わなかったけど」
生徒会メンバー全員が微妙な顔になった。
皆の考えていることが伝わってくるような雰囲気にそっと顔を逸らす。
まあ、鈍感の理由はイケメンの友達の弊害だけじゃなく、私の入学してばっかりのやらかしもあるだろうし。
だから、今年はもっと色々頑張って、猛アタックするのだ。
顔を上げてにっこり笑ってこう言った。
「私も生徒会のお手伝いすごく頑張るから、協力お願いね!」
なんとも言えない顔で頷いてくれた生徒会メンバーに向かって、更ににっこり笑って決意する。
乙女ゲームのシナリオ以上に頑張って頑張って、絶対両思いになってやるんだから!




