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黄のライバルキャラ(2)

二話連続投稿です。

まだの人は前の話からお読みください。

 

「夕美、待って、夕美~」


 後ろから聞こえてくる声に振り返り、ああ、夢だなとぼんやりと思った。

 泣きながら転けそうになりながらも必死にこっちに駆けてくるのは小さい時の智だ。

 夢と分かっていても、そんな智を放っておけず、手を伸ばす。


「はいはい、どうしたの、智?」


 お母さんの言葉を真似て、頭を撫でてあげるとふにゃりと笑って抱きついてくる。

 鼻水や涙で服がぐちゃぐちゃになるし、重くて辛い。

 ああ、もう、本当に面倒くさいし、世話が焼ける。

 そんなことを思って苦笑する。

 そう、智は昔っから、本当に面倒で手間がかかった。

 人見知りで、運動神経は良いはずなのに、何故か要領が悪くて。

 よく半泣きになっては、夕美、夕美と言って泣きついてくるのを慰めるのは小さい頃の私の記憶の大半を占めていると言っても過言では無い。

 そもそも、親同士の仲が大変に良く毎日のように会い、時には、一緒のお風呂やお泊まりもよく有ったせいで本当に小さい頃は智のことを本当の弟だと思っていたくらいだ。

 幼稚園に入った時には慣れない環境と知らない沢山の子達に本当に怯えきり、私に抱きついて離れなかったのは今でもよく覚えている。

 初めて見るお遊具で遊びたいのにとむくれると行っちゃやだと更に泣かれたのだ。

 当時から顔は並外れて良かった智は女の子から大人気だったが、人見知りを発揮して女の子達を冷たく追い払い、そして、怖かったと私の所に駆けてくる。

 そのせいで、幼稚園では女の子達から総スカンを食らい、泣きながら咲姉に訴えたら、にっこり笑った後、智をズルズルと引きずっていき、女の子に冷たすぎる対応をしないように教育してくれた。

 まだ小学生だったのに大変頼りになると咲姉が憧れの対象になったのも良い思い出だ。

 そのおかげで女の子達にも普通に対応するようになり、これで大丈夫かなと思ったのにやっぱり私の所に駆けてきて。

 しょうが無いなと結局ずっと一緒に居てあげた。

 そんな関係がちょっとずつ変わり始めたのは小学生の時だ。

 智はずっと変わらず人見知りで泣き虫だったけど、女の子達が段々と恋愛に興味を持ち始めて私への敵意が大きくなりだしたのだ。

 智には見つからないようにだが、聞こえよがしに悪口を言われたり、物を隠されたりと嫌がらせを受けるようになったのだ。

 最初のうちはショックを受けていたが、普通に仲良くしてくれる子達も居て、段々と気にすることを止めて、智には隠していつものように接してた。

 普通、こんなことになったら智のせいだと怒って、距離を取ってもおかしくないと思う。

 だけど、智はずっと優しくて、一緒にいると楽しいままだったから。

 まあ、気にさせる程じゃ無いかと思ったのである。

 そのままずっと隠してて、バレたのは中学生の時、智のファンだと言う女子グループに絡まれていたのを見られたのだ。

 その頃には恥ずかしいからと外では泣かないようになってたのに、泣きそうな顔で私を見て、そのまま立ち去った。

 それ以来、外では絶対自分から私に話しかけたりしなくなって、家ではコッソリとしているつもりだったのだろう奇行の数々が共有されるようになった。

 あまりの残念さにぐったりとしてしまったが、それに対して、私は何にも言えなかった。

 だって、その行動は全部私を気遣ってのものだから。

 自分が私に迷惑かけてたと必死で今までの自分を直そうと努力している姿を見て、嫌がらせをずっと黙ってた私が何か言える訳が無かったのだ。

 友達作りとしては全然上手くいってなかったが、私に話しかけなくなったおかげで嫌がらせは激減して、ついでに男の子からの告白は増えたのはちょっとびっくりした。

 だけど、本当だったら喜んで良いはずのそれが何故だか全然嬉しくなくって、告白は全部断った。

 高校生になる時もそう。

 智と私の親が通ってたという学園への入学を期待されてたし、学力は問題無いから二人ともその学校。

 学校が変わったらまた戻るのかなとこっそり思ってたけど、全然そんな素振りは無く。

 ずーっと真面目だったくせに、髪を染めて、ファッションを変えて、口調を変えて。

 全然違う人みたいになって、そして外ではやっぱり声もかけない。

 最初に仲良くなった篠山君がコミュ力が高かったからか、中学ではあんなに苦労していたのにすぐに友達ができて学校になじんだ。

 勿論私も友達ができて学校は楽しかった。

 だけど、やっぱり、どうしようも無く寂しかった。

 ずっと、私に頼ってばっかりだった幼なじみが、私から離れて成長するって決めて努力した。

 本当だったら嬉しく思わなきゃいけないはずなのに、面倒くさいって言いながらもずっと一緒にいたから、側にいないのが寂しい。

 だけど、智が頑張ってた得たものなんだから、喜ばなきゃ。

 智が友達を家に呼ぶって言った時、私も幼なじみ離れをする決心をした。

 それなのに…










 ふと、目が覚めた。

 なんだか変な夢を見た。さっきの桃の言葉のせいだろう。

 起き上がって伸びをすると、近くのソファに座ってた智と目があった。

 なんと言うか実にタイムリーだなと思う。


「ごめん、起こした?」

「いや、大丈夫。今寝過ぎると夜眠れなくなるし。今日、夕飯、ウチなの?」

「そう。母さん達仕事で急遽海外出張。夕美にもお土産買ってくるから楽しみにしててだってさ」

「了解。相変わらず忙しいね、おばさんとおじさん」


 外での謎にハイテンションになったりする話し方じゃない、昔からの普通の話し方。

 周りに付けたあだ名は私には無く、呼ぶ時はただの夕美。

 最近、すごく楽しそうに友達と遊んだ話をしてくるのを思い出して、思わずこう言った。


「ねえ、もし、私じゃなくて篠山君が幼なじみだったら、そっちの方が良かった?」


 突然の質問に智が目を瞬かせる。


「なんか変な質問だね。そういう夢でも見た?」

「まあ、そんな感じね」


 そんな風に返すけど、実は前からちょっと思ってたことだ。

 智が友達を初めて家に呼んだ時、咲姉のフォローも兼ねて智のことを話してよろしくって言ったら、赤羽君に「よろしくされる言われはない」ってはっきり断言された。

 智が避けるなら私から話しかければいいって。

 昔、同じようなことが起きて、篠山君を避けたら笑い飛ばして関係を変えずにいてくれたのが嬉しかったからとそう話してくれた。

 その言葉に従って、外では私から話しかけるようになって以前程近くは無いけど、外でも智と普通に話せるようになった。

 それが嬉しくて、智もちょっと嬉しそうなのが分かって。

 だからちょっと思ってしまった。

 私じゃなくて篠山君が智の幼なじみだったらもっと上手くやれたんだろうなって。

 有名な赤羽グループの一人息子と一般家庭の男の子。多分、色々言われちゃうんだろうなって想像はつく。

 だけど、ずっと幼なじみ同士変わらず仲良くて、他にも友達がいっぱい。

 智ともすぐに仲良くなって、智が篠山君のこと大好きな友人、もっと早く会いたかったとか言うのも一度や二度じゃない。

 にっこり笑って冗談っぽくしてみるけど、本当は本音だったりするこの質問。

 智は首を傾げて考え込んでいたが、ちょっと困ったような顔で口を開いた。


「うーん、それは嫌だな」


 その返答のちょっと驚く。

 

「え、なんで? よく、もっと早く会いたかったとか言ってるのに」

「いや、それは本当に。もっと早く会えてたら、俺、ちゃんと男友達作って遊べてたんだなって思う!」


 そのあんまりな真顔に思わず呆れ顔で頷く。

 なんと言うか、前から思ってたけど、人たらし過ぎだよね、篠山君。


「だけどさ、そしたら、夕美と幼なじみじゃ無くなっちゃうでしょ? 俺、夕美が俺の幼なじみでいてくれて本当に良かったと思ってるし」


 その言葉に何故か固まった。

 智は私のそんな様子には気付かず、まだしゃべり続けている。


「と言うか、むしろ、夕美は俺の幼なじみで嫌じゃなかった? 俺、頼りまくって、迷惑掛けまくってたし。本当に気付けなくて悪かったって、俺、駄目駄目だったと思うんだ。正直、嫌がられても全然不思議じゃないと思う…」


 話しつつ見るからに凹んでいく智を見て、ぷっと小さく吹き出す。

 そのまま智のほっぺたを思い切りつねった。

 油断してたみたいで、そのままつねられ、慌てて私から離れる。

 距離を取ってこっちを睨む目は涙目だ。

 昔から、色々なものが変わったけど、その顔だけは変わっていない。


「馬鹿ね、嫌だったら、とうの昔に距離とってたわよ。私も智と幼なじみで良かったわ」


 正直な話、これが何なのか全然全く分からない。

 一緒にいてもドキドキすることなんて微塵も無く、だけど、楽しくてホッとする。

 そして、離れていくとどうしようもなく寂しくて堪らない。

 弟のように思っているのを拗らせたのか、それとも、桃の言ってるようなあの感情に近いものなのか。

 本当に分からないくらいに一緒にいたのである。

 仕方ない、仕方ないから。

 智と私の関係はやっぱり幼なじみで良いのである。

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