黄のライバルキャラ(1)
またまたお持たせして大変申し訳ありません。
生きてます。
二話連続投稿です。
テーブルの上に並ぶのは色とりどりのお菓子。
そして、それを囲むのは仲の良い友達とその友達が連れてきたこれから友達になれそうな子達。
そんな楽しい状況のはずなのに、私と言えばぐったりとして今にもテーブルに突っ伏しそうになっているだろう。
いつもは明るい凜も遠い目をして私と同じくらいぐったりしている。
そして、そんな私達二人を見て、気まずそうな桃や詩野、そして、本当に申し訳なさそうな月待さんと倭村ちゃんだ。
いつもならせっかくの楽しいお茶が台無しよとか言って取りなす所だろうが、今はそんな余裕は無い。
それくらいに酷かったのである。この子達に教えるお菓子作りの会が。
何が起きたのかと聞かれたら、色々と答えるしかないが、今思い出せるだけでも、お菓子作りにもなれてきたからとおかしなアレンジをごく自然に加えようとする桃、計量スプーンや量りの存在がかすみそうなほど大ざっぱに突き進もうとする詩野。
そして、いつも通りのそれに気を取られている間に、気を使って他の作業をやってくれようとしたのは有り難いのだが、生地を切るように混ぜるという文章を読んで包丁を取り出しボールに突っ込もうとする月待さんに、オーブンが温まる前に生地を入れてしまい膨らまない生地にアタフタする倭村ちゃんというこっちも放っておけないやらかしが多すぎた。
敗因は間違いなく教える側の不足だろう。次やるときは絶対に、隣の咲姉を呼んでこようと心に誓う。
弟である智に対するいじりでものすごいものを作り出したりするときもあるが、普段はとっても優しくて、黄原のおばさん達にも頼りにされている頼れるお姉さんなのである。
私よりも一足先に復活した凜がよしと呟いて顔をあげる。
「気を取り直して、お茶にしましょう! フォローは私と夕美で頑張ったし、食べられる物になっているはずだもの!」
「ほ、本当にごめんね。凜ちゃん、夕美ちゃん」
「うん、私も迷惑掛けちゃって」
「…ふふ、桃と詩野のやらかしもそろそろなれてきて油断した私と夕美が悪かったのよ、ええ。絶対、食べきってね、これ。材料ただじゃないんだからね」
いや、全然復活していなかった。黒いオーラ全開で食材の値段を食費換算し始めてしまった。
特待生やってる彼女は普段は明るくウチ貧乏だよ、それで?と言った感じだが、時々この手のスイッチが入るとやばい。
さっきから申し訳なさそうだった新入りの二人が更に申し訳なさそうな顔になってきてしまっている。
これはヤバいと私も顔を上げてパンパンと手を叩く。
「はいはい、反省点は次回に持ち越しってことで、お菓子を楽しみましょう。せっかく作ったんだから、出来立ての方が美味しいわ」
その言葉に桃や詩野の顔がホッとしたようになり、新入り二人もおずおずとお菓子に手を伸ばす。
お菓子を口に入れて嬉しそうな笑顔になるのを見て、次も頑張って教えてあげようと思わされるのはずるい気がする。
そんな気分のままにこにこと嬉しそうにお菓子を頬張る桃を見て、思わずこう言った。
「ねえ、桃、最近、篠山君とはどうなの?」
その瞬間、桃がグッと詰まり、周りの顔が輝きだす。
この分かりやすい友達の恋愛模様は私達共通の楽しみだったりするのだ。
「…どうって言うか、何というか、連敗中だよ。いや、私の最初の方の態度が悪かったのは分かってるんだけど。でも、何で気付いてくれないのー」
口を尖らせて、いじけだしてしまった桃は言っちゃ駄目なのかもだけど可愛い。ほっぺをつつきたくなってしまう。
周りを見ると私と同じような顔をしていた。
その視線に気付いた桃がハッとした感じで顔を上げて、宣言した。
「取り敢えず、お菓子作り上達させてバレンタイン頑張る! それでアピールするの! はい、それじゃあ、次は詩野ちゃん、最近恋バナ無いの?!」
自分が逃げるために全力で詩野に話を振った。
それはバレバレなのだが、あんまりそういった話を聞かない詩野の話は興味がある。
凜も同じようで、嬉々として桃の言葉に便乗していた。
新入りの二人も興味があるようで、そわそわしている。
詩野は周りの空気を見て、仕方なさそうに話し出す。
「私には、そんな皆が楽しみにしてるような恋バナとかないよ。恋愛とか分かんないし。それに私、男子受け悪いし」
「えっ、そんなに可愛いのにですか!」
倭村ちゃんが驚いたように声を上げた。
ちなみに私も同意見だ。三つ編みに眼鏡と言った普通だったら地味になってしまいそうな感じなのに、詩野は清楚で可愛らしい印象で全然地味になっていないのである。
「うーん、私って大人しそうに見えるでしょ。それなのに気が強いから、男子はイメージと違うって言って引いちゃうんだよね。まあ、そう言う話苦手だから良いんだけど」
その言葉に倭村ちゃんと月待さんが不思議そうな顔をしているけど、前からの友達である私達はあー、うんと言う顔だ。
確かに詩野は文学少女な感じの見た目と違って、気が強くて、大ざっぱで、ハッキリとした性格だ。
だけど、そういう所も格好いいのに、それが嫌とは…見る目が無い男共である。
「あ、でも、白崎君は詩野ちゃんのそういう所、格好いいって言ってなかった?」
桃が目を輝かせて、そう言った。
その言葉を聞いた詩野は何とも言えない顔をして、口を開く。
「いや、私、結構、白崎君に色々と言ったのに、そんなこと言うとか本当訳分かんないというか。と、言うか、あの人自体結構面倒くさくて、訳分かんないと言うか…この話、終わり! こういうの苦手! はい、次、凜ちゃん」
そう言って、話を無理矢理切った詩野にちょっと苦笑いだが、まあ苦手と言ってるのに無理強いはいけない。
次に話を振られた凜はおそらくクラスで聞かれた時と同じ返しだろうし、同じクラスの私にとっては面白みがない。
お菓子に手を伸ばし、口にする。焼きたてなだけあってまあまあイケるのだが、やっぱり口の中にちょっとざりざりと残るものがある。次回に向けての課題だ。
そんな事を考えていると、凜がいつもの調子で話し出した。
「私、忙しくて、恋愛とか今は無理かな。特待生だから成績落とせないし、風紀委員の仕事もあるし、夏休みとかはバイトしたいし」
「あら、黒瀬さんによく構っていると噂で聞きましたが」
月待さんがお菓子片手に不思議そうな顔をしている。さっきから嬉しそうにお菓子を口に入れてはニコニコしていて微笑ましかったのだが話は聞いていたらしい。
「あー、それかあ。いや、別に、そう言った感情じゃなくて、黒瀬と先生の橋渡しで内申点稼げないかなとか、せっかくのスペックを無駄にしまくるの勿体ないとかそんな感じで構ってるだけだよ。そもそも、黒瀬には苦手って言われてるしね。だから、今は人に恋愛話聞いて楽しむだけでいいや。じゃあ、さっきから楽しそうな月待さん、どうぞ」
その言葉に苦笑する。黒瀬の苦手は本当にそうか微妙な所なのだが、まあ、突っ込むと面倒くさそうな感じなので放っておこう。
「私ですか。あ、皆さん、麗と呼んでくれると嬉しいです」
学校でも有名なお嬢様だけど、結構気さくににっこりしてそういってくれる。有り難く、そう呼ばせて貰おう。
すると、ふわりと笑って話し出した。
「ファンクラブの会長とか言われて噂にもなってるので知ってるかと思いますが、私は貴成さんが好きです。女性が苦手な方なので、あまり嫌がられないように距離を詰めていきたいと思ってるので内緒にしてくださいね」
「あら、ファンクラブのことでバレてるんじゃない?」
思わずそう聞くと、困ったような顔で話し出す。
「…その、貴成さんには高校では平和に過ごしたいからそういう風に言ってもいいかと言って許可を取ってあるんです。ですので、私の好意からではなく、親からの横やりを防ぐための嘘だと思われてるみたいです。…それに、ファンクラブのこともこんな感じにするのではなく、ちょっとファンだと噂を流してもらえれば良かったんですけど。なんでこうなってしまったんでしょう」
ずーんと落ち込みだした麗に苦笑する。見るからにお嬢様でクールな感じの雰囲気で誤解していたが、結構空回りで天然な桃の同類かもしれない。
「まあ、いいです。えっと、じゃあ、倭村さん、どうぞ」
落ち込みから立ち直って倭村ちゃんに話しを振る。倭村ちゃんはワタワタと話し出した。
「あ、私かあ。えっと、どうしよ。あ、それと、先輩は皆、木実でいいです!」
その言葉に麗の時と同じように皆が頷くと真っ赤になった木実が話し出した。
「えっと、その、私は、同じクラスの青木君が好きです。その、中等部の入学式の時に道迷ってたら助けてくれて、一目惚れして。なかなか勇気が出なくて進展なしだったんですけど、桜ちゃん先輩のおかげで勇気が出て、これからもっと頑張りたいなあって。なので、今回、お菓子作り上達したくて、お邪魔させてもらいました。ありがとうございました!」
真っ赤な顔をパタパタ扇ぎながら、それでもはにかむような笑顔で話してくれた木実に思わず手が伸びる。
頭を撫でると髪はふわふわだった。うん、可愛いなこの子。
「もう、暁みん先輩! 小動物扱いしないでください!」
「あ、ごめんね…暁みん?」
「あ、すみません、その、黄原先輩がやってた名字のあだ名他の人はどんな感じになるかなと考えてたら、つい。えっと、黄原先輩からはどう呼ばれてました?」
ああ、そう言えば智のあのあだ名に珍しく好意的な反応の子だった。
ちなみに凜には染っち、詩野には香具やんとか呼んでたりする。二人とも拒否はしなかったけど、微妙な反応だった。
「いや、普通に夕美よ。お隣さんの幼なじみだし。木実は好きに呼んでいいわよ」
「そうなんですか、ありがとうございます! あ、じゃあ、次は暁みん先輩どうぞ!」
「ああ、私で最後かあ。ラストに悪いんだけど、私も特にそういった話は無いのよね。ごめんね」
「え、黄原君は違うの?」
桃が不思議そうに聞いてきたその言葉に何でか固まった。
よく聞かれることでいつもは普通に流していたのに何故だろう、今日の恋バナの楽しい雰囲気に流されたからかしら。
「いや、ただの幼なじみよ。つまらなくて悪いわね」
「え、でも、幼なじみからのラブとか王道じゃない?」
「あのねー、幼なじみっていうフレーズに夢見過ぎ、ただの小っちゃい頃からの知り合いってだけだからね」
そんな風にいつものように返して、会話は次の話題に流れていった。
「今日はありがとう、すごく楽しかった!」
「うん、私も楽しかった。本当にありがとう」
「ありがとうございました! 次はもっと頑張るんでまた教えてください!」
「お喋りもお菓子作りもすごく楽しかったです。良かったら、また誘ってください」
「今日はありがとね、じゃ、また学校で」
「はいはい、こっちも楽しかったわ。また、誘うわね」
そんな風に笑顔で言ってくれる言葉にこっちも笑顔で返して友人達を見送った。
部屋に引っ込んで、ソファに座り、ほぉと息を吐く。
片付けはあの後皆でやったから終わってるし、疲れたけど楽しかったから充足感がある。
ちょっとうつらうつらしながら、今日の恋バナで聞かれたことについてふと思い出した。
当然のように聞かれた「黄原君は違うの?」という言葉が何故か頭に残る。
違うわよ、私にとって、智は…
そんなことを思いながらそのまま眠りに落ちた。




