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胃薬が欲しいです

 入学してから、1カ月経った。

そして、ようやく、黄原の男友達が増えてきた。

やっぱりしゃべるようになると、残念感がにじみ出たらしい。

よく、うちのクラスの男子から残念なものを見る目で見られている。

 うん、気持ちはすっげえわかる。モテることに対する嫉妬を上回って、残念感が先に立つよな。

女子よ、なぜいまだにあれをカッコいいとしているんだ。


 まあ、黄原のある意味微笑ましい成長は置いといてだ。

…幼なじみの機嫌が最近、チョー悪い。

原因は


「おはようございます。赤羽君」


 ヒロインがニコッと笑いながら話しかける。

その瞬間、不機嫌そうに顔をしかめる幼なじみ。


 そう、原因はヒロインだったりする。

入学早々にファンクラブができて以来、幼なじみは女子を無視しまくり、謎の威圧感を与えまくった。

未来の社長さん、それダメじゃね、とかいう感想は置いといてだ。

 ヒロインはずっと変わらず話しかけ続けた。

もういい加減に周りの女子が、学習して話しかけるのを止めたのにだ。

幼なじみも最初のうちはまだ対応が普通だったのにある時から、態度が一気に悪化した。どうやらヒロインは何か地雷を踏んだらしい。幼なじみに尋ねても、答えなかったから何言ったのかは知らないが。

まあ、ヒロインが幼なじみに嫌われようがどうでもいいのだが。

 …幼なじみの不機嫌顔が超怖いのである。

美形がイラつくと迫力倍って本当だな、幼稚園の頃からの付き合いの俺でも思わず後ずさる。

そして、周りもガチで怯えている中、にこやかに話しかけ続けるヒロインはある意味さすがである。見習いたくはまったく無いが。

 そして、あまりの怖さに周りもガチで怯えているし、ぶっちゃけ言って俺も怖いので適度なところで助け舟を出している。

そして、幼なじみにも一応ながら注意をする。

 ヒロインとの関係とかはどうでもいいが、周りと俺の心の平穏のため、そして、幼なじみのトレーニングも少々である。

 余計なお世話かもしれないが、将来社長としてやっていくのに、今の状況だといろいろと無理だろうしな。


 今日も今日とて、幼なじみの不機嫌オーラ全開とあからさまな無視を、まったく気にせず話しかけ続けている。

ヒロインの心臓は、剛毛が生えているとみて間違い無いな…。

 今日の話題は、調理実習か。

食べるの専門の俺としては、面倒な限りである。

さて、そろそろ助け舟出しに行こうかな。



 調理実習の時間である。

うちの調理実習は先生の方針的に少し変わっていて、多めに作って皆で食べ合う方式である。

なんでも、皆で食べ合うことによって作ることにやる気が出るし、楽しいだろうということだ。

食べ合うこと前提のため、作る選択も毎回複数ある。

そのため、苦手な人は簡単な料理を選び、楽に済ませるのだが。

 ヒロインの目の前には真っ黒に焦げたアップルパイがある。

簡単なマドレーヌも選択にあったのに、なぜ今回の最高難度のメニューを選び、あそこまで失敗するのか。

朝、幼なじみに食べて欲しいとか言ってたけど、あれは食べれるものなのか。

様々な疑問が浮かぶ代物だな、あれは。


「……ひどいな」


 幼なじみが呆れたように呟いている。

周りの人たちも苦笑ぎみで決してあれに手を伸ばしたりしない。

まあ、そうだろうな。

 ちなみに、調理実習ではお残しは決して許されておらず、作ったものは例えどんなに失敗していても食べきらなきゃいけない。

だから、あれも食べきらなきゃいけないのだが。

 結構、量多めだし、大丈夫か、あれ。

ヒロインは既に涙目で黙々と一人でアップルパイを口に運んでいる。

全然、減っていないがな。


 思わず、ため息をついた。苦笑を浮かべ立ち上がる。


「桜宮、そのパイ俺にも少しちょーだい」


 ヒロインが声をかけられて、びっくりしたように顔を上げた。

うん、まあ、見ていられなかったのである。

おせっかいであることは重々承知している。

でも、出来はどうであれ、作ってる最中も一生懸命に作っていたのは知ってるしな。

なるべく、大きめに切り取って皿に乗せる。

残りは殆ど無いから、ヒロイン一人で食べきれるだろう。

 とりあえず、一口食べて


「まずっ!」


 なぜか、アップルパイにあるまじき味がするのだがこれ。


「なんで、アップルパイのはずなのにしょっぱいんだよ。これ」

「普通じゃつまらないから工夫を…」


 …工夫とか言ってる場合じゃない気がするぞ、これは。

とりあえず、スピード勝負だ、味を感じる前に飲み込もう。


「工夫の前に普通に焼けるようにしろ。本当にまずいぞ、これ」

「…そんなに言うんだったら食べなくていいよ」


 思わず、文句が出たら、ヒロインがそう言って睨んできた。

言い方は悪かったかもしれないが、事実だろう。

 それに


「一人じゃ食べきれないだろーが」


 涙目になってたくせに何言ってんだか。

最後の一口を飲み込んだ。軽く胸やけがする。

まあ、男は気合いだ、気合い。


「ごちそうさま」


軽く、いつもと同じテンションで言って席を立って、幼なじみのところに戻った。

もう他の料理を食べている余裕なんてないから片付けでもしよう。

 …それにしても、胸やけがひどいな。

胃薬いるだろうか。



********



 思いっきり失敗したアップルパイは本当に本当にまずかった。

人に食べてもらうなんてとてもできないし、自分で食べきらなきゃいけないけど、全然減らなかった。

そんな代物だったのに。

 皿は殆ど空っぽに近くなっている。

いつも、赤羽君と話しているのを邪魔してきて軽くむかついているけど。

 でも、


「…モブのクセに、ちょっとカッコいいのよ。バーカ」



物理的に胃薬が欲しい日でした。

この主人公、結構図太いので、精神的に胃薬が欲しくなることはなさそうだなぁ。

作者は、幼稚園の時とかに、散々居残り給食させられたし、中学校はお残しは駄目だったので、給食とか調理実習嫌いでした。

高校入って弁当が嬉しすぎますね~。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 乙女ゲームの舞台なのに、結構しっかりとした学校なんですねー。 お残し厳禁とか、給食がある中学まではあり得る教育だと思うけど、高校であるのが素晴らしい。
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