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赤のライバルキャラ(1)

またまた大変にお待たせしてすみません。

しばらく、二年生編に向けてキャラの掘り下げの為にライバルキャラや攻略対象者達目線の彼らのお話をしていきます。

なんかもう色々と遅いですが、お付き合いください。


 学校の廊下を歩きながら窓の外を見ます。

 窓の外の木の葉っぱがほとんど落ちてしまっているせいで太陽の光がよく見えました。

 それを見て、良い天気と思いながら、次に描く絵のイメージを考えます。

 光をテーマにした絵はいいかもしれません。冬が終わり、春が来るイメージも盛り込みましょう。

 うん、いい気がします。これで今度の絵は先輩に「……月待さんの絵は独特だよね!」と言われて目が合わないなんてことにならずに褒めてもらえる作品になるのでは。

 今までピアノ、バイオリン、茶道、華道、バレエと色々な習い事をやってきた中、先生には顔を引きつらせながら「……大変、個性的でセンスを感じますね」と言われたり、お母様達には「……麗さんは他にも色々なことができるから大丈夫よ」と言われたりしてきた、唯一上手く出来なかった弱点である絵を克服する第一歩になるでしょう。

 そう思いながら深く頷いていると、声をかけられました。


「あ、麗ちゃんだ! 今、大丈夫?」


 その声に振り返ると最近できたお友達である桃がにこにこと笑いながら立っていました。

 つい最近親しくなったばかりの彼女だが、色々と気が合うことが多く、もっと仲良くなりたいと密かに思っています。

 

「大丈夫ですよ。何でしょう?」

「あのね、えっと、暁峰 夕美ちゃんって知ってる?」

「はい。暁ブランドのご令嬢ですよね」

「え、夕美ちゃんの両親のブランドってそこだったの!?」

 

 桃が私の言葉に驚いたように目を見開き、小声で「うわあ、両親は洋服ブランド経営って言葉で流してた。すっごい有名なところじゃん」と呟いています。

 その態度に思わずこちらも笑みがこぼれます。

 私も貴成さんほどでは無いでしょうが、月待グループの娘と言うことで近づいてくる人は後を絶ちません。

 あの大事になってしまった婚約者という噂のおかげで多少は緩和されていますが、それでもうんざりするものです。

 なので友人の親の会社を詳しく把握してなかったり、私に他の方と同じように呼びかけてくれる桃の態度は私にとってとても嬉しいのです。


「あ、ごめんね、脱線しちゃった。あのね、私、Sクラスに入りたくて成績上げるために仲良い友達に教えてもらって勉強会してるんだけど、麗ちゃん頭良いでしょ? もし、都合が付くなら、誘ってみようかなって友達に言ったら、じゃあ今週の土曜日に夕美ちゃんの家でお菓子作りするからそれにも誘ってみたらって言ってくれたの。もし都合が付いて、興味あったら来てくれないかなって」


 ちょっとだけ緊張した風情で言った桃の言葉に思わず、目を瞬かせます。


「お菓子作りですか……」


 小さい頃に絵本の大きなフライパンでつくる大きなケーキに憧れて、勝手にキッチンでお菓子を作ろうとして火傷をしかけ、お母様にキッチン立ち入り禁止を言い渡されて以来、やったことがありません。大きくなった今でもその禁止令は解けていないので。

 今なら、それは本当に危なかったなと思いますし、今でも禁止の原因も分かっています。

 私はある意味商品でもありますから。

 お父様とお母様は私のことをとても大切にしてくれているのは理解していますが、野心家で私の結婚は家の利益のために決めるだろうといったことも勿論理解しているのです。ですので、私に傷が残るようなことが起こる可能性を二人は嫌がるのもとっくの昔に理解しています。

 ですので、やったこともほとんど無ければ、やる必要もないことなのですが、小さい時のわくわくした気持ちを思い出します。


「あ、興味なかったら全然大丈夫なんだけど!」


 桃が少し慌てているが、首を横に振る。

 今週の土曜日の習い事は確か茶道だったでしょうか、申し訳ありませんが頭が痛くなることにしてしまいましょう。

 普段の私はとても真面目なので、運転手やお手伝いの方も協力してくれるでしょうし。

 ほんの小さな反抗くらい私だってしてみたいのです。


「いえ、とても興味があります。ぜひ、お邪魔させてください」


 そう言うと嬉しそうに笑ってくれた桃にこちらも嬉しい気分になりました。


「あ、それとね! 他にも用事があるんだ。こっち来て」


 そう言って、あまり人気のない非常階段の方に連れてこられます。

 胸元の生徒手帳を取り出した後、周りをキョロキョロと見渡し、そして笑顔で生徒手帳から取り出した何かを私に渡してきました。


「はい! こっそり見てね!」


 何かの裏取引のような渡され方に苦笑しながらそれを見ます。

 そして、息を飲みました。

 思わず桃の顔を見るといたずらに成功したように、にっこり笑います。


「えへへ、黄原君からのおすそ分けなの。写真欲しいなあって言ってたら、夏休みにいっぱい写真撮ったからどうぞって。それ、篠山君だけじゃなく赤羽君も写ってたから、麗ちゃんも欲しいかなって。…篠山君の所は私も欲しいから切り取ったやつで、ごめんなんだけど」


 その言葉にあまり話したことも無い黄原さんに全力で感謝しました。

 写真には、…私の想い人である貴成さんが写っていました。

 それも、友達に向けるものだろう、すごく楽しそうな笑顔で。

 自然に口角が上がるのが分かります。

 

「…ありがとうございます、桃」


 我ながら恥ずかしいほどにニヤけてしまっているのでしょう顔のままお礼を言うと、桃が固まりました。

 そして何故か俯いた後、首を振ってもだえ始めます。


「ヤバい可愛い…! うわー、普段クール系な麗ちゃんのフワって感じの笑顔破壊力ヤバい。流石のポテンシャル!」

「あの…?」

「あ、ごめんね、なんでもない! えっと、麗ちゃんはこの後用事ある?」

「はい、これから部活に行きます」

「そっか、じゃあ、土曜日のことは後でライン送るねー。またね!」

「はい、また」


 明るく手を振って去っていく桃に手を振り替えした後、そっと手元の写真を見ます。

 楽しそうな明るい表情の貴成さんに、またにやけてしまうのが抑えられません。

 でも、しょうが無いでしょう。この笑顔は私が彼に恋をした切欠なのですから。







*******************







 彼と初めて会ったのは、私が5歳の時、初めて出たパーティーでのことです。

 その時私はとても退屈していました。

 最初のうちは着せてもらった綺麗なドレスとどこもかしこもピカピカの会場にはしゃいでいることが出来ましたが、それに見飽きてしまうと大人達がお喋りしている側で大人しくしていなさいというのはとても良い子だった私でも退屈でうんざりしてしまうようなものだったのです。

 周りをボーッと見ていると同い年くらいの男の子がいました。

 同じ幼稚園で一番格好いいと言われている男の子よりも格好いい男の子で、光に透けると茶色っぽい髪も合わさってまるで絵本で見た王子様みたいな子でした。

 その子もとても退屈そうにしているのを見て、私はお母様に声を掛けました。


「ねえ、お母様」

「何かしら、麗さん」

「私、あの男の子と話してきたいです。良いですか?」


 そう言うとお母様はとても嬉しそうな顔で頷きました。


「あら、そうなの。それじゃあ、お母様とお父様と一緒に挨拶に行きましょうね」


 今なら分かりますが、お父様とお母様は赤羽グループの次期会長が息子を連れてくると言うのを聞いて、話しかける切欠にするために私を連れてきたのでしょう。

 そして、あわよくば、その赤羽グループの令息と娘が仲良くなればという打算もあったのでしょう。

 我が親ながらその野心に少々呆れてしまうのですが、その当時はそんな事には全く気付かず、お母様達と一緒に沢山練習した良い子の挨拶をするのに必死でした。

 私の挨拶を赤羽グループの次期会長さん、いえ、今では立派な会長さんになった赤羽さんとその奥様は褒めてくれましたが、男の子はやっぱりつまらなさそうな顔のまま挨拶を返してくれただけでした。

 その顔にこれなら私の思った通りにいけると嬉しくなった私は、その男の子、貴成さんに声を掛けました。


「ねえ、一緒にケーキを食べにいかない?」


 その言葉に貴成さんはちょっと嫌そうな顔をしましたが、私の両親が私が甘い物が好きだと言う話を大げさに話すと赤羽さんはちょっと困った顔ながらも一緒に食べてきたらどうだと言ったので貴成さんは仕方なさそうに頷きました。

 渋々と言った感じで着いてくる貴成さんと一緒にケーキのあるテーブルまで歩きますが、私がそのテーブルの横を素通りすると不思議そうな顔で声を掛けようとしましたが、しーっと言ってごまかします。

 そして、あまり人のいない所に行くとなるべく潜めた小さな声で貴成さんに話しかけました。


「一緒に外のお庭に行く作戦に参加してくれませんか?」

「……なんで?」


 不思議そうな顔をする貴成さんに、私は自信満々に話始めます。


「あんまりに退屈だったから、お庭に行きたいって言ったのにお母様が駄目よって言うの。だからこっそり行っちゃおうと思って。一人でやったら怒られちゃうし、気付かれちゃうけど、きょうはんしゃっていうのがいたらいいんです。そうすれば、なんとかなるんですよ。あなたも退屈そうだったから、きょうはんしゃになってくれると思って」


 知ったばかりの単語を使って自慢げに胸を張った思い出は、今となっては恥ずかしい限りです。

 よく意味が分かってませんでしたし、小さい子が二人で動いていたら一人でいるよりも目立ったでしょう。

 だけど、貴成さんはやっぱり不思議そうな顔をしながらも頷いてくれました。

 

 当時はこっそりとまるで絵本の忍者になったように動いて、今ではどう見てもバレバレで周りの大人達に見守られていたんだろう事をやって開いていた扉からお庭に出ました。

 色んなお花が咲いた綺麗なお庭に嬉しくなりましたが、貴成さんはまだつまらなさそうな顔をしています。

 さて、どうしましょうと考えました。きょうはんしゃになってくれそうだと思って貴成さんを誘いましたが、私は貴成さんにはあまり興味が無かったのです。

 だって、幼稚園でも女の子とお話したり遊んだりする方が楽しいし、私は絵本の王子様よりも友達想いの優しい騎士様の方が好きなのです。

 ですが、きょうはんしゃにはお礼をしなきゃいけません。

 少し考えて、お母様がハンカチやティッシュを入れるのよと持たせてくれた小さな鞄から小さなスケッチブックと色鉛筆セットを取り出します。出かける前にこっそり入れ替えておいたのです。


「貴成さん、きょうはんしゃになってくれたお礼です。一緒に使っていいのでお絵かきをしましょう」

「・・・別にいいよ」

「いいえ、絶対楽しいです。一緒にお絵かきしましょう」


 そう言って無理矢理手渡すと貴成さんは渋々受け取って、ベンチに座って一緒に絵を描き始めました。

 最初は貴成さんを気にしていましたが、段々とお絵かきに夢中になって隣の男の子なんて忘れてしまいました。

 しばらく経って、ようやく出来上がりました。嬉しくなった私は、隣の男の子に自慢したいと思って声を掛けました。


「貴成さん、描いたお絵かきを見せあっこしましょう!」

「・・・別に良いけど」


 きっとこの男の子も褒めてくれるでしょう。そう思いながらせーので見せあっこして、私は固まりました。

 貴成さんの絵はまるで幼稚園の先生が描いたみたいにびっくりするほど上手でした。

 貴成さんは私の絵を見て小さく呟きました。


「下手くそ」


 その言葉に私はびっくりして、その後とても怒りました。

 

「下手じゃないです。先生もお友達もいつもほめてくれます!」

「でも、下手だよ」

「下手じゃないです! 貴成さんの絵だって・・・!」


 貴成さんの絵の悪い所を言おうとしましたが、その絵はやっぱり上手で。

 何も言えなくて泣き出しそうになってしまった私を見て、貴成さんはちょっと困った顔をして口を開きました。


「・・・ごめん。えっと、俺の友達も絵とか歌とか下手なんだけど、すっごく良い奴だから、気にすることないと思う」


 私の絵が下手と言うのは撤回せずに、急にお友達の話をし始めた貴成さんに少しムッときましたが、お話を遮るのは悪い子なので、ちゃんと聞いてあげなければいけません。

 渋々と言った声で、


「・・・お友達ってどんな子ですか?」


 と聞くと貴成さんはちょっとホッとした顔で話し始めました。


「一緒の幼稚園のヤツなんだけど、かけっことか隠れん坊とか俺が入るとすぐ終わっちゃうから、皆嫌だって言うんだけど、そいつは俺のことすごいって言って次は勝ちたいからもう一回って言って絶対入れてくれるんだ。絵とか歌は下手で、足も俺より遅いけど、虫取りは幼稚園で一番上手いんだ。普通の家のヤツなんだけど、俺のことズルイとか羨ましいとか言わないすっごい良い奴なんだ。・・・本当は今日も遊ぼって言ってくれたんだけど、パーティーがあるから駄目だったんだ。俺、早く帰って、正彦と遊びたい」


 私はびっくりしました。

 さっきからずっと退屈そうで、つまらなさそうな顔だった男の子が友達の話になるとすごく嬉しそうな顔になったのです。

 本当はお母様達からよく言われていたように普通の家の子と遊んじゃ駄目だよと言わないと思いましたが、それは言っちゃ駄目だとなんとなく思いました。


「・・・大事なお友達なんですね。あのですね、そう言うお友達の事なんて言うか知ってますか? しんゆうって言うんですよ」


 ちょっとびっくりしてドキドキしたのを誤魔化すように、最近知った言葉を教えると、貴成さんは頷いて、


「そっか、親友か。ありがとう」


 と笑いました。

 また、笑ったと嬉しくなって頷いていると、中から大きな声や拍手の音が聞こえます。

 もしかして終わりの時間なのかなと慌てると、貴成さんもちょっと慌てた顔をして急いで色鉛筆を片付けてくれました。

 急いでお母様達の所に戻ると、貴成さんと仲良くなれたかと聞かれました。

 内緒で持ってきたお絵かきセットのことも、貴成さんのお友達の話も出来ません。だって、お母様は普通の家の子と遊んじゃいけないと言っていたのです。私はちょっと考えて答えました。


「・・・あのね、お友達を大事にする子だったよ」

「そうなの。それは良い子ね。ぜひ、お友達になってもらいなさい」


 その言葉に頷きながら、貴成さんはお友達の話でとっても楽しそうだったのに、お母様達はなんで駄目って言うんだろうと不思議に思いました。

 聞こうかなと思って顔をあげたけど、お母様達はまた大人の人達とお話していて邪魔しちゃいけないと止めました。

 大人しく待っていながら考えます。

 貴成さんは絵本の王子様みたいで、私の絵を下手くそと言う意地悪で、お友達のことがとっても好きみたいでした。

 意地悪な子は嫌な子だけど、友達を大事にするのは良い子です。

 どっちなんだろうと思いながら、次会ったらまたお話して決めようと思いました。

 最初は興味が無かった男の子にちょっと興味を持ったのは、これが切欠です。

 

 



 

 





 

 

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