ヒロインの味方です
3話連続投稿です。
まだの人は前の話からお読みください。
「ねっむー」
「大丈夫か?」
次の日、前日に色々あって疲れたせいで眠たい目をこすりながら登校する。
教室に着くとドアの前で月待さんが待っていた。
俺たちに会釈をしてから、緊張した顔で貴成に向き直る。
「その、少しお話いいでしょうか」
「良いぞ、移動するか」
俺はいない方が良いかと聞いたら、居てくださいと頼まれたので一緒に移動する。
あまり人通りの無い所まで来て、向き直る。
月待さんが口を開こうとした時に、貴成が話し出した。
「昨日、正彦から色々と聞いた。色々と迷惑を掛けていたようで悪かったな」
本当に気まずそうな顔で頭を下げる。
「え、いえ、私の責任ですし」
「いや、お前のせいじゃない。そもそも、俺が良いって言ったことしかお前言ってないしな。中学の時にも色々あってうんざりしてたんだが、そういうのをお前が俺の耳に入らないように気を使ってくれてたんだってな。本当に悪かった。…ただ、本当にもっと早く言ってくれてたら良かったんだが」
「…そうですか?」
「ああ、お前に苦労をかけずに済んだし、お礼ももっと早く言えたしな。月待、本当にありがとう。ただ、これからはこう言うことは一人で抱え込まないでくれると嬉しい。心配する」
「…心配ですか?」
「…普通にそれくらいするぞ。お前、俺のことなんだと…」
「あ、いえ、…嬉しいです。ありがとうございます」
貴成はちょっと面食らった顔をしたが、フッと笑う。
「こっちの台詞なんだがな。まあいい。お前が困ってたら今度は俺が助けるからな。ちゃんと言えよ」
「…はい。期待してます」
彼女はちょっと顔を逸らし、そしてちょっと経ってから向き直って嬉しそうに笑った。
教室の方に皆で戻ると登校してきた桜宮にばったり会った。
「あ、えと、篠山君、おはよう。赤羽君も…、あれ、麗ちゃんがいる!」
「おはようございます、桃。昨日の事を貴成さんに言わなくてはと思いまして」
「ああ、なるほど。 …なんて言われた?」
「…私のせいでは無いので、一人で抱え込むなと言われてしまいました」
「だよねえ…。次からは本当に止めてね」
仲よさそうに話す二人になるほどと呟く。
「やっぱり二人は仲良くなったか」
「え、なんでやっぱり?」
「いや、二人共ちょっと似てるから」
天然っぽいところとか、行動が空回りしてそうな所とか。
二人して不思議そうに顔を見合わせたが、ふと桜宮が思い出したように俺を呼んだ。
「ねえ、篠山君。ちょっといい?」
「ん? 何?」
俺の側まで近づいた桜宮は顔を近づけて小さな声で囁いた。
「…昨日のことで恥ずかしいとか言ってられないって気付いたの。だから、これからはもっと頑張るからよろしくね」
髪がさらりと流れるのが分かるくらい近くで少し拗ねたような恥ずかしそうな表情でそう言って、にっこりしてみせる。
思わず固まっていると、じわじわと顔を赤くして、パッと離れた。
「じゃ、じゃあ、そういうことで。麗ちゃん、もうちょっとお喋りしない!?」
「はい。じゃあ、篠山さん、また」
どこか楽しそうに笑う月待さんと一緒にぱたぱたと歩いていった。
「あ、おっはよー、篠やん! あれ、おーい?」
「おはようございます。…何で篠山は朝から固まってるんです?」
「珍しくアイツのやつが効いたっぽいぞ」
「あー、なるほど」
周りの会話が全然耳に入ってこない。
チャイムがなった時点でようやくフリーズが溶けて教室に駆け込む。
あー、もう、びっくりした…
昼休みに先生に呼び出され、なぜか生徒会室に向かう。
しかも、いつものコイツらも一緒だ。それに加えて途中で青木も合流している。
何なんだろうなと思いつつ、朝の桜宮のあれを思い出す。
……多分、好きな人へのアピールのことだよな。昨日のぶち切れを聞くにかなり本気っぽいし。
つーか、誰だろ、桜宮の好きな人。
えーと、格好良くて、頭が良くて、運動神経良くて、性格良くて、友達いっぱいだっけ。
昨日も思ったけどいるか? こんな完璧超人。
うーん、でも、攻略対象者を外から見たら多分こんな感じなんだろう。
俺から見たら良い奴だけど、かなり面倒くさかったりするが。
「なあ、桜宮のことどう思う?」
ふと一緒に歩いてる貴成達に尋ねる。
皆ちょっとキョトンとしたが、黄原がにやっと笑って元気良く答える。
「可愛いと思うよ! 色んなこと一生懸命やれる良い子だし、ちょっと天然入ってる所が面白いし!」
白崎も何故か微笑ましげな笑顔で答える。
「そうですね。可愛らしくて、とても良い子だと思いますよ。本好きな所もとても合ってると思います」
青木も慌てたように、でも、しっかり答える。
「えっと、…すごく優しくて、可愛い先輩だと思います…。いつも、気遣ってくれましたし…」
貴成はちょっと呆れたような顔をしつつも答える。
「まあ、勘違いとかしてるとかなり面倒くさい所もあるが、ちゃんと反省して人に謝れるのは良いところだと思うぞ。…一生懸命なところは認めなくもない」
皆びっくりするくらい好意的な意見だ。
しかも前は桜宮のことを思い切り嫌ってた貴成もである。
「急にどうしたの、篠やん! 何? 気になっちゃった?」
「いや、ちょっとな」
うん、コイツらの誰でもいけんじゃねえか、桜宮。
そんなことを考えていたら生徒会室に着く。
ノックをすると、中から返事が返されドアを開ける。
「よう、悪いな。昼休みにわざわざ。ちゃんと弁当持ってきたか?」
中にいたのは紫田先生で、楽しげにひらひら手を振ってくる。
「ちゃんと持ってきましたよ」
「おし、じゃあ、食べながらでいいや。話聞いてくれ。ここにいる全員もう察してると思うが、来期の生徒会の話だ。お前らで内定してるから役職だけ話し合って決めてくれ」
「はい!?」
思わず思い切り叫んでしまう。
弁当を取り出していた周りが驚いたように俺を見た。
「何だ、お前、気付いてなかったのか。青木の件で色々言ってただろ」
「いや、ちょっと待って、なんで俺!? 黒瀬、黒瀬とかは!」
生徒会役員は俺じゃなくてアイツだったはずだろ!?
「まあ、黒瀬も候補いなかったら本当にギリギリで及第点と言った所だが、適性ありありなお前がいるんだからお前になるだろ。つーか、なんでお前黒瀬も候補だったこと知ってんだ?」
その質問に答える余裕も無く頭を抱える。
そういや言ってたな真面目な外部生とかも候補だって。
うわ、その枠か!
つーか、今まで人事だと思ってたけどこの学園の生徒会のブラックは…!
「この時期にここに呼ばれた時点で確定でこの話だろ。つーか、父さんがこの話してた時お前もいなかったか」
「そうですね。まあ、篠山なら向いてると思いますよ」
「そーそー、俺らもやるんだから諦めて一緒に頑張ろー」
「…えっと、一緒に生徒会やれると、嬉しいです…」
「つーか、前も言ったようにこれ拒否権無いからな。恨むなら無駄に優秀で成瀬先生にもお墨付きもらった自分を恨め」
周りからの追い打ちにガクッと椅子の上で崩れ落ちる。
うわ、マジか。えっとこれどういう状況だ。
桜宮はアイツらの内の誰かが好きで、生徒会が始まって。
…つまり、乙女ゲームが始まってしまわないか、これ。
あれ? 俺は乙女ゲームなんてキラキラしいもんには関わんねえつもりだったのに、何でこんなことに?
ぐるぐるする脳みそを必死に動かす。
ヒロインである桜宮は普通に良い子で。攻略対象者達は友達で。そんでもってこの世界はゲームだけど、ちゃんと現実で。
うん、どういう状況なのか全然分かんなくなってきた。
昨日の桜宮を思い出す。
この妙な状況がどうなんのか、ちっとも分かんないけど、取り敢えずモブな俺はヒロインの味方ってことで。
今の所は良いだろう。
とりあえず、これで一年生編は完結です。
何話か番外編やって、二年生編にいきたいと思います。
ようやく短編に内容が追いつきました。
ものすごーく長かったですが、ここまでお付き合いしてくれた読者の皆様に感謝しかありません。
これからも気長に付き合っていってくれると嬉しいです。




