責任感が強いのは良いことだとはかぎりません
3話連続投稿です。
取り敢えず、近くの休憩スペースで座ってから落ち着いて話しをしようということになりそこに移動する。
時間も時間のためがら空きなスペースに座った所で、月待さんが自販機の方に歩いていった。
喉渇いてたのかなと思って待っていると、戻ってきた月待さんは俺の前に温かいお茶を差し出して「どうぞ」と言った。
驚いて月待さんを見ると真面目な顔で口を開く。
「さっきスプレーを私から取った時に触れた手がとても冷たかったので。体を冷やしすぎるのはよくありません」
そう言ってグイグイと俺の方にお茶を押しやってくるのに思わず受け取ると満足そうに笑った。
茜坂先生と貴成の言っていたことを思い出す。
本当に普通に気が利く良い子だ。
有り難く温かいお茶を手を温めながら飲んで一息つき、話を切り出した。
「えーっと、何であんなことしてたんだ?」
月待さんは姿勢を正し、しっかりと俺の目を見てから話し出した。
「まず篠山さんは知っているかもですが、自己紹介をさせていただきます。1-4の月待 麗と言います。そして、私の不用意な発言のせいで発足してしまった貴成さんのファンクラブの会長のようなことをしています」
丁寧な自己紹介に俺も慌てて頭を下げる。
「あ、俺は…」
「一方的で申し訳ないのですが、昔から知っております。貴成さんはよくあなたのことを話されていたので」
あー、そういや、この子も貴成の幼なじみになるのか。
なんとなく不思議な気分になったが、少し話しづらそうに話し出した月待さんに思考を戻す。
「そしてファンクラブのことなのですが、私が会長のようなことをしているせいで一部の生徒が少し調子に乗ってしまったようで、貴成さんに近づこうとした生徒に嫌がらせを行ったりしているようなのです。どの生徒が行っているのかはっきり分かれば直接注意するのですが、何分成り行きで出来てしまった組織のため、誰が所属しているのかはっきり把握出来ず、ファンクラブが何かをやらかしたと言うことだけが聞こえてきて」
そう言って深ーいため息を付く。
「せめて、嫌がらせの後始末だけでもしなければと思い、いままで被害にあわれた方が気付かないようにこっそり掃除などをしていたんです。大抵の方は貴成さんの冷たい態度にすぐに心を折られ近づくのを止めるため、嫌がらせも止まりあまりひどい事にはならずにすんでいたのですが。桜宮さんは以前の態度で目を付けられていたせいか、最近始まってしまった嫌がらせもひどくて。対処しきれず、このようなことになってしまっていたのです」
落ち込んだ表情でそう語る月待さんに思わず尋ねる。
「えっと、今まで嫌がらせの対処一人でやってたわけ? どうやって?」
「貴成さんは大変目立つ方なので、誰が積極的に近づいているのかはすぐに噂になるんです。あとはファンクラブの人と話す時に話題に上がっている人を気を付けていれば対処が出来たんです。朝早くの登校や遅くなってしまう帰りは部活で言い訳出来ますし。ですが、嫌がらせを行う時間と私が片付ける時間が全く被らないせいでいつも後手にまわってしまいまして。私も部活や習い事があるものですからあまり多くの時間は割けず。結局誰がやっているのか特定出来ないままこんなに時間が経ってしまって」
しょんぼりと語るが、それはしょうが無いだろう。
嫌がらせの対応の為に自分の生活を後回しにし続けるのは難しいし、むしろ今まで一人で対処してきたのが偉すぎる。
つーか。
「えっと、何でそこまでしてたんだ? 月待さんの責任では全く無いし、やるにしても誰かに協力を頼めばそこまで苦労はしなかったと思うんだけど」
その言葉に月待さんは視線を逸らし、小さな声で呟いた。
「そうしたら、貴成さんに伝わってしまうかもしれないじゃないですか…」
「え?」
「貴成さんに知らせたく無かったんです。自分のせいでそんなことが起きていると分かったら、とても嫌な気分になるでしょうから。無理なお願いを聞いてもらったのに、更に迷惑をかけるなんて出来ません。ですから、そもそもの発端になってしまった私が責任をとろうと思って」
そう言った月待さんに思わずため息をつく。
「…貴成に嫌な思いをさせたくないっていう気持ちは友達としてすっげえ同意するし、感謝するけど。月待さんが一人でずっと頑張ってたっていうのも、アイツ絶対怒るぞ」
「え、えええ!? 何でですか?」
「いや、だって月待さん、全然悪くないし。自分が関わることでひたすら誰かに迷惑かけ続けるくらいなら自分で対応するぞ、アイツ。だって、申し訳なさ過ぎるし。俺もちょっと突っ込みたい。一人で抱え込み過ぎだって、それ」
「…そうでしょうか?」
首を傾げながら悩みこむ月待さんに深く頷く。
何というか疑ってしまっていたのが申し訳無くなるほど、真面目で真っ直ぐな子である。
ただ、天然かつ責任感が空回りしてそうなタイプだが。
「まあ、これからもこう言うの続けるなら俺も協力するし、最終手段として貴成の一喝と言うのもあるのも覚えといて」
ため息を押し殺しながら、そう告げる。
まあ、桜宮の嫌がらせ阻止としては空振りだったが、月待さんの行動が分かっただけでかなりの収穫だっただろう。
なんかこのまま一人でほっとくと桜宮ばりの暴走をしそうだし。
月待さんは俺の言葉に頷いたが、ふと思い出したように顔を上げた。
「すみません、一つお聞きしたいことがあるのですが。桜宮さんは今日学校で遅くなるような用事があったでしょうか?」
「へ? いや、今日は早く帰るって言ってたけど」
俺の返事に月待さんの顔色が悪くなる。
「どうかしたか?」
「…下駄箱の換気用のスリッドから中の靴が見えたのですが、中に入っていたのは茶色のローファーのように見えました。ですので、まだ校内にいると思うのですが…」
最近の嫌がらせを思い出して、俺も顔色を悪くする。
「ファンクラブの人がいそうな所に心当たりは!?」
「…よく集まる場所がいくつか有りますので、そこを当たってみましょう」
そう言うと話す暇もおしいとばかりに駆け出す。
思ったよりも早い彼女を追って俺も走りだした。




