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不穏な気配です

二話連続投稿です。

前のやつから読んでください。

 桜宮の生徒手帳を拾ってから数週間後、お茶を忘れてしまい購買に買いに行った時に明るく声を掛けられた。


「やっほー、篠山、おっひさー」

「あー、染谷か。久しぶり。珍しいな、普段弁当じゃなかったっけ」

「うん、今日は寝坊しちゃって。お金勿体ないんだけどね。それより」


 声を潜めて、いかにも不機嫌そうな顔で、聞かれる。


「桃のあれ、どういうこと?」

「ああ、聞いたのか。多分俺も桜宮が話したことくらいしか知らねーぞ」

「そっか。まあ、そうだよね」

「悪いな。それより、ちょっと聞きたいんだけど、桜宮どんな感じだ?」


 最初はあんな感じで思わず脱力してしまったが、あんなことされて大丈夫な訳ないのである。

 俺もちょくちょく気にしているが細かい嫌がらせは続いているようだし、桜宮に聞いても大丈夫だよとしか言わないから無理してないか心配なのだ。

 聞くと染谷はちょっと目を逸らして呟いた。


「変なスイッチ入ってる」

「は…?」

「いや、あの子の言う通りなら、私が篠山に色々もらったりしてる時になんかあったと思うんだよね。だけど、あの馬鹿大人しくなったら嫌がらせもほとんど止んだし、手口も違うし、違うと思うんだけどね」

「ごめん。何の話?」

「いや、こっちの話。それよりも、篠山が桃のこと気に掛けてあげててよ。前に私が言ったように、誰かのお節介って力になるし。それに篠山からだと尚更桃は嬉しいだろうし」


 最後の言葉はにやっと悪戯げに笑って、染谷は手を振って去っていった。

 よく分からないがとりあえず今の所は大丈夫なようである。

 だけど、早く解決するのにこしたことはないだろう。

 ため息をついて教室の方に向かおうとしたところでにこやかに笑って手を振る保険医を見て、くるりと方向転換した。


「あら、ひどい。かおるちゃん傷付いちゃうわよ?」

「絶対、あんたはそんなタマじゃない。あと、付いてこないでくれませんかね」

「あはは。可愛ーわね。ちょっと話があるだけよ、桜宮さんのことで」


 思わず立ち止まるとにっこり笑う。


「やっぱりお人好しが服着て歩いてるような篠山君は首突っ込んでるわよね。ちょっと彼女面倒なことになってるのよね。篠山君は赤羽君のファンクラブのこと知ってるでしょ。あれに目を付けられてるのよ」

「えーっと、月待さんのファン発言で話が大きくなっちゃった例のあれ?」

「そうそう。そんな感じだからあんまり統率とれてないみたいで一部の過激な人達が暴走してるっぽいのよねー」


 その言葉を聞いて思わず頭を抱えてしまった。

 うわー、マジかい。昔からそう言うのちょくちょくあって貴成が知る度に女嫌いが悪化しているのである。

 正直、イケメンで金持ちでチートな感じになんでもできる幼なじみがあんまりうらやましくない原因である。

 いや、本当に面倒くさいもん。端から見てるだけでモテすぎんのも全然良くないんだなと思わざるを得ない。

 まあ、女子のほとんどがあっちに行っちゃうのに文句がない訳では無いけどね。良いんだよ、友達はいっぱいだから!


「うわー、めんどくせえ…。つか、なんでいきなり」

「最近、桜宮さんと和解したでしょ。普段から女嫌いで女子とは全然喋らない赤羽君が以前にアプローチを繰り返してた桜宮さんと普通に話すようになったって言うのが原因みたいね。二人の関係が進んだのかって焦っちゃったみたい。…まあ、篠山君達と同じクラスの人にちゃんとした情報網はってたら、そういうのやらかさないと思うのに、間抜けというか馬鹿というか」

「へ? ウチのクラスのヤツだとなんかあるんですか?」

「……あー、うん、自分で気付きなさい。本当にもう」


 よく分かんない発言に思わず質問してみると呆れたように微笑まれた。

 さっきの染谷といい何なんだ。


「えーっと、じゃあ、犯人に目星はついてるってことですね」

「うーん、それは微妙で。何というか、月待さんがファンクラブの色々をかばってるみたいでね。具体的に誰がみたいな情報あんまり無いのよ」

「え」


 貴成にファンと公言して良いかと頼みこんだという話を思い出す。

 そのせいで婚約者と言う噂が立ってしまったと言っていたが、もしそれが自分の立てた噂だったら?

 自分の立ち位置をしっかりさせて、周りの女子にライバルを潰させるということも考えられるのか?

 そんな事を考えていたら、ため息を付きながら茜坂先生が口を開いた。


「でも、月待さんはそう言う事やるタイプじゃ無いと思うのよね。だから、本当に色々と情報が手詰まりで」

「え、それは確かに?」

「そうよ。会ったら分かると思うんだけど、本当に真面目で風紀とか向いてそうな子なのよね。よく体調不良の子の付き添いで保健室に来るわよ。周りからも頼りにされてるみたい」


 そういや、その子のこと昔から知ってる貴成も嫌いじゃないって言ってたな。

 うーん、ちょっと怪しいけど違うのか。分かんないな。


「まあ、私が知ってるのはこれくらいね。早く戻んないとお昼食べる時間な無くなっちゃうわよ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 そう言われて時計を見ると思ったよりも時間が経っていた。

 急いで教室に戻るといつもの面子が俺に気付いて、手を振ってくる。


「お帰りなさい。遅かったですね。混んでましたか?」

「いや、ちょっとな」

「ご飯先に食べ終わっちゃったよ~。デザート皆の分って持たされたから、これ篠やんの分」

「サンキュー。…これ、ゲテモノでは無いヤツ?」

「俺らが食った限りでは大丈夫だった。お前の分は知らん」

「最近は姉ちゃんあんまりやってこないから大丈夫だと思う、よ、うん」


 そんな感じで喋りつつ弁当を急いで食べながら、ふと尋ねる。


「なあ、貴成。月待さんってどんな子?」


 貴成は不思議そうな顔をしたが、素直に話し出す。


「真面目なヤツだと思うぞ。親に言われて始めた習い事は全部極めてるらしい。それと、相手の家とか見た目とかで態度を一切変えたりしない所には好感がもてるな。俺と話す時も変にベタベタしようとしたことは一度も無いし、以前体調が悪かった時も早く抜けられるように気遣ってくれたぞ」

「…普通に良い子そうだな」

「そうだと思うぞ。月待だから、あの話も普通に了承したんだ」


 うーん。茜坂先生が言ってたこととあんまり変わらないな。じゃあ、本当に普通の良い子なのか。


「どうしたの~急に月待さんのこと聞いて」

「いや、前に婚約者云々の時で名前は聞いたけど、そう言えばあんまり見たことないなと」

「あんまり男子と関わったりするタイプじゃないそうですもんね」


 その時、教室のドアが開く音がして貴成がちょっと驚いた顔をする。


「…タイミングが良いな。アイツだ」


 その言葉にドアの方へ視線を向けると、いかにもお嬢様といった美少女が立っていた。

 全体的に色素が薄く、透き通るように白い肌に茶色の目。柔らかそうな髪をハーフアップにしている、上品そうな女の子だ。

 貴成に気付くとぺこりと会釈をする仕草もどこか洗練されている。

 貴成が立ち上がって彼女の元へ歩いて行った。


「どうかしたか?」

「美術部のことで佐藤さんに連絡があるのですが、今は教室にいないでしょうか?」

「ああ、いないみたいだな。伝えておこうか?」

「ありがとうございます。今日の放課後の集まりは来週に変更になったと伝えてください。彼女のスマホが壊れているらしく、連絡が通じなくて」

「了解した」

「お願いしますね」


 本当に伝達事項だけを述べるとまたぺこりと会釈をして去っていった。


「…前言ってた通りにしつこくしたりしないのな」

「だろ。正直本当に助かる。他の女子もあんなんなら良いのに」


 ため息をつきながらの発言に苦笑いしながら返しつつ、あんだけ貴成に対して普通ならあの推測は違うかなと思った。








 数日後、久々に成瀬先生に雑用を頼まれたせいで遅くなり、小走りで昇降口に向かっていた。

 あの先生、優しそうな顔して本当に人使い荒い。

 まあ、おわびといってもらったケーキは本当に美味しかったから良かったけど。

 …あれ、俺、餌付けされてる?

 そんなことを考えながら暗くなった昇降口にたどり着く。

 部活がある連中も部活棟での活動のため、この時間は本当に人気がない。

 自分の下駄箱に向かおうとした所でウチのクラスの下駄箱の前から足早に去っていく人影が見えた。

 外の電気に照らされて見えた横顔は、最近見た上品そうな女の子だ。


「ん?」


 クラスの下駄箱の前にいってみると、ひとつだけ半開きの下駄箱があった。

 ロッカーも下駄箱も鍵をつけることができるが、面倒なのでつけてるヤツはあんまりいない。

 桜宮は最近ロッカーの鍵はつけるようにしたようだったが、そう言えば靴箱のことは言ってなかったなと開いている下駄箱の名前を確認する。

 案の定、そこには桜宮 桃とあった。


「…だから、色々気にして気をつけろと」


 思わずそんな言葉が漏れるが、それよりも。

 

「月待さんか…」


 ちょっと気にする必要がありそうだ。



 

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