もうちょっとしっかりしてほしいです
本当に久々の投稿ですみません。
二話連続投稿です。
余ったパンフレットなどを詰め込んだ段ボールを倉庫にしまう。
大きく伸びをして、呟いた。
「終わったーーー」
「…えと、お疲れさま、です…」
俺の後ろにいた青木が律儀にぺこりと頭を下げながら返事を返してくれた。
今日は前々から準備していた校内見学会の日だった。
短い冬休みが始まって早々に呼び出されて、朝から笑顔を貼り付けて外部受験の生徒達の案内をしたのだ。流石に疲れた。
「うん、青木もお疲れ。これで後は、入試の案内とかだけだな。放課後居残り解消だ」
色々とやることの多い係だが、入試の案内や入学式などは学校でしっかりとやり方が決められているため、係の山場は校内見学会である。
これでもう、放課後に何日にもわたって残ったりする必要はない。
「…はい、ちょっと、寂しくなります…」
小さくそう呟いた青木に思わず目を瞬かせる。
「あ、いえ、…その、篠山先輩達と色々と喋りながら作業するの、楽しかったから…、つい…。俺のせいで、今日の打ち上げの予定も急にキャンセルになってしまいましたし…」
今日少し打ち上げのようなことをしようと言っていたのだが青木に今晩急に予定が入ってしまったようで中止になったのだ。見学会が始まる前にスマホで通話してた青木が済まなさそうにそう告げてきた。
少し気まずそうにそう言う青木の肩をポンッと叩く。
「可愛いこと言ってくれるね、先輩冥利につきるわ。おし、冬休み終わる前に一旦お疲れ様会やろうって言おうと思ってたんだけどそれは俺がおごってやろう。桜宮の方も片付け終わった頃だし、スケジュールのすり合わせしようぜ。始まる前、ごたごたしててやれなかったんだよな」
「あ、えと、…ありがとう、ございます」
嬉しそうな顔になった青木を微笑ましく見ながら、近くの教室で同じく片付けをしていた桜宮達に声をかけた。
二人にお疲れ様会の話をすると二人とも嬉しそうな顔をする。
「本当ですか! 絶対やりたいです!」
「そうだよね、やりたい!」
「おし、いつぐらいにする? 俺は大晦日にちょっと父さんと母さんの実家に顔出すくらいだけど」
「あ、ちょっと待って、スケジュール帳見てみる」
桜宮がそう言ってカバンの中を探り出すが、ちょっとして首を傾げる。
「あれ、ここに入れたと思ったんだけど…」
カバンをひっくり返しそうな様子であさったがやはり見つからないようだ。
「大丈夫ですか? 桜ちゃん先輩」
「うん、ごめんね。ちょっとラインで親に直接確認してみる」
「まあ、そのうち見つかるって」
「うん、そうだよね。おかしいなあ、終業式の朝までは絶対ここにあったし、その後は触って無いと思うのに」
そう言って首を傾げながら、呟く。
相も変わらず少しそそっかしいなと思いながら、みんなでスケジュールのすりあわせの続きをした。
まあ、そんなこんなで祖父ちゃん祖母ちゃんに会ってほのぼのとしたり、打ち上げやって楽しそうな後輩達にほっこりしたり、貴成ところの新年パーティーに顔出してみたり、久々に中学の時の友達と遊んだり、いつものメンバーと遊びに行ったりしていたら、短い冬休みはあっという間に終わってしまった。
今日はもう眠たい目をこすりながらも新学期の始まりである。早い。
まあ、今年は平穏無事にいってほしいものである。
「うわー、新学期の始まりって、すっげえ眠い。冬休みやっぱりもう一週間はいるって…」
「お前、冬休み中なにかしらの用事で動き回ってたから、あんまり変わらないだろ」
「いや、だからいるんだってもう一週間」
「俺はもういい。新年パーティーだの顔出しだの面倒なことこの上ない。学校始まったら、学業を言い訳に断れる」
「お疲れー。金持ちは金持ちで辛いな。それ、宿題とか大丈夫だったか?」
「あの程度ならそう時間はかからんぞ。一日で終わった」
「……へえー、なるほど」
「そう言うお前は?」
「るっさいな。お前と違って毎日コツコツやってなんとか終わらせましたー」
「ああ、なるほど、お前らしいな」
そんな感じで貴成といつものように駄弁りながら教室に入る。
短い冬休みでは周りもそう代わり映えしない、と思ったら何故か桜宮が涙目になっていた。
「…はよー。どうかしたか?」
「あっ、おはよう、篠山君! えっと、生徒手帳が無くて…」
「あー」
納得の相づちが出る。
うちの学校では始業式などの区切りのところで持ち物検査や服装検査をする。生徒手帳はチェック対象だ。
普段はわりと緩いのだが、この時だけは厳しくて怖い先生が担当なので、皆気をつけるのだ。
まあ、黒瀬はガン無視らしいが。
確か、桜宮も一回やらかして半泣きになってた気がする。また、やらかしたのか。
「忘れたのか?」
「ううん。始業式とか絶対持ち物検査やるから、忘れないように学校に置いといたはずなのになんでか無くって」
「ええ、持ち帰ったの忘れてるとかじゃ無く?」
「ううん。定期とかの学割でいるのに使った後、学校が開いてる時間に自分の机に置きにきたから絶対あるはずなんだけど」
「え、わざわざ置きにきたのか?」
「だって、前やらかした時、先生すごく怖かったんだもん! 忘れない自信無いし!」
そう言って、すでに涙目だ。
それにしても、それならなんで無いんだろ? 部活とかで机動かしたときとかに、他のヤツの机に紛れ込んだとかか?
でも、うちの学校やたらと立派な部活用の建物あったはずだよな。部活見学した時に感動した覚えあるし。結局、やりたいこと色々あるからのんびりでいっかで部活入んなかったが。
うーん、分からん。
「まあ、近くの席のヤツに紛れ込んでないか聞いてみて、無かったら諦めるしか無いんじゃねえ? 確か事務室に言って再発行してもらえたはずだろ」
「…だよねえ。ううー、やだなあ」
「まあ、気の毒だから、あとでなんか甘いもんでもおごってやるよ」
「えっ、本当! やったあ!」
途端に嬉しそうになる桜宮を見て、ちょっと呆れる。
そういや、打ち上げの時もやたらと嬉しそうに甘いもん食ってたなあ。好きなんだな、食べるの。
「でも、気をつけろよ。前もスケジュール帳無くしたとか言って無かったけ」
「…あ、うん」
そう返事してちょっと目を逸らす。
「ん? どうした?」
「いや、その、他にもなんかペンとか資料集とか無くしてて」
「マジか。お前、それ大丈夫なのか? 嫌がらせとかで物隠されてるとか無い?」
「ううん、大丈夫、それは無いと思う。最近、色々あってぼーっとしてる自覚は有ったからなあ。気を付けるね」
そう言ってあははと笑う桜宮にため息をつく。
まあ、本人こんな感じなら本当にただのうっかりか。なんか今まで色々有ったからか思わずそっち方向に思考がいってしまったが、まあ何事も無いなら何よりである。
「あ、おっはよー! 篠やん、桜ちゃん! ひっさしぶり~だね!」
「はよー、ちょっとテンション落とせ、うるさい」
「ひどい!? だって久しぶりでテンション上がるじゃんか!」
「数日前に一緒に遊んだだろうが」
「あはは、黄原君、おはよう」
「うん、おはよう。あれ、赤っちは?」
「あー、あっちで白崎と喋ってる」
「じゃ、あっちにも挨拶してくるね~」
黄原のちょっとうざめのテンションに、ああ学校始まったなあとしみじみしてるとチャイムがなり、始業式のために急いで体育館に向かった。
放課後、掃除当番で庭の掃除をしていた。
こう言うのが始まると本格的に休みが終わってしまったなあという感じがする。
冬の庭掃除は寒いので皆作業が早い。さっさと終わらせて、ゴミ捨てを俺がやって流れ解散だ。
ゴミ捨て場につくと、ゴミが変な風に積み重なってこちらに雪崩れそうになっていた。
多分、前に捨てたヤツが適当にゴミを放ったのだろう。
しょうが無いなとゴミ捨て場の扉を開けて、ゴミを奥の方に置き直しているとゴミの底から深い紺色が出てきた。
制服と同じ色に金色で校章が刻まれたそれはどこからどう見てもうちの学校の生徒手帳だ。
嫌な予感を感じながら、それを拾い上げ、なぜか足跡のついた表面を払う。
中を開くと、そこにあったのは『桜宮 桃』という名前だった。
思わず深いため息が出る。
「どこが大丈夫なんだよ、あの馬鹿」
どうやら、新年早々にトラブル発生である。
今朝の大丈夫だよと笑ってた桜宮を思い出し、苦々しく眉をひそめた。
次の日、登校してきた桜宮を人通りの少ない廊下に呼び出し、昨日見つけたものを手渡した。
足跡がついて、見るからに薄汚れた生徒手帳に桜宮が目を見開く。
「昨日、ゴミ捨て場に落ちてたのを見つけた。…多分、見るからに嫌がらせだと思う。それで、悪いが何か心当たりはあったりするか?」
衝撃を受けてる桜宮を刺激しないようになるべく穏やかな声でそう聞く。
桜宮は汚れた生徒手帳を見つめたまま、首を横にふった。
さっきから、顔を上げようとしない。
やっぱり、朝にいきなり言ったのは失敗だったな。こんなことされてたって気付いたらショックだろう。
多分、事情を言ったら保健室で休ませてもらえるだろう。茜坂先生はクセはかなり強いがこう言ったことにはかなり親身になってくれるはずだ。
そのことを言おうと口を開き、
「い、イベントみたい…! 本当にあるんだこんなの」
桜宮のいかにも感動したと言う感じの呟きに口を閉じた。
「…桜宮さん?」
「あ、ごめん! なんか現実感無いというか、ゲー、…前に見た漫画の嫌がらせのシーン思い出しちゃって、思わず。本当にやるんだね、こんなの」
あまりの緊張感の無さに思わず脱力した。
「で、でも、何でなんだろ? ゲ、…前に見た漫画だとファンクラブが犯人だったけど、今は狙われるようなことしてないしなあ」
心底不思議そうに首をひねっている。
「…まあ、とりあえず、結構悪質な嫌がらせっぽいから気をつけろよ。今日も体育とかあったから教室にはなるべく物は置かないで鍵のかかるロッカーに入れといた方が良いと思う。置き勉とかも止めた方が良い。あと、香具山さん達に相談して、放課後とか一人にならないように気をつけた方が良いんじゃないか」
「う、うん、ありがとう」
「それと、もうちょい色々気にしろ。本当に、マジで」
「うん、ごめん…」
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教室に戻って、篠山君に言われたように、置き勉していた教科書とかをロッカーに持っていこうとすると声を掛けられた。
「多いな。手伝おうか」
振り返ると赤羽君でちょっと意外で目を丸くする。
私が固まってる間に赤羽君は教科書を持って廊下にいってしまった。慌てて後を追う。
私のロッカーの前で待っていてくれていた。
「鍵はなくしてないか?」
「あ、うん、大丈夫」
教科書を持たせているので急いでロッカーを開け、ロッカーの中のスペースをあける。
必死で作業をしていると、ポツリと声が掛けられた。
「正彦から聞いた」
「…あ、うん」
「…大丈夫か?」
静かな問いかけに私は思わず、さっきから思ってたことを彼に伝えた。
「す、すっごい、びっくりした! 絶対、私のうっかりかと思ってた。こんなこと有るんだね!」
「…本当に?」
ちょっと眉をひそめて、心配そうに問いかける赤羽君に力強く頷く。
「いや、だって、最近、篠山君と係が一緒だとか、打ち上げ何着てこうとか、勉強頑張らなきゃとかで頭いっぱいだったから。割と素で色々やらかしてて」
そう言うとさっきの篠山君みたいに呆れたように半目になった。
なんか色々と申し訳無い。
「でも、今までは気付いてなかったにしても、今日言われて気付いたらショックは受けただろ。無理にそういうの隠さなくて良いと思うぞ」
「あ、うん、ちょっとショックだったし、怖かったんだけど…」
イベントまんまの汚れた生徒手帳に思考が飛んだのである。いや、本当に嫌がらせイベントの実写という感じだった。まあ、靴箱汚されたりはしてないけど。
そのせいで一気に現実感を感じられなくなったのも大きいが、それより何より。
「し、篠山君が本気で私のこと心配してくれたの嬉しくって、そういうの飛んじゃって」
私の言葉を聞いた赤羽君はため息をついて呟いた。
「お前、本当に阿呆だな」
「…ご、ごめん」
「まあ、心当たり有ったなら相談しろよ」
その言葉にそうだよなあと内心で呟く。
ゲームだと犯人は赤羽君のファンクラブだったのだが、現在の私は赤羽君にアプローチをかけていたりしない。
それに好きなのは篠山君だし。
そこまで考えて、はっとした。
ひょっとして、犯人は篠山君のこと好きな子!?
いや、だって、本当に優しいし、格好良いし、絶対篠山君のこと好きな人いるよ、絶対。
でも、いくら好きだといってもこんなのは無い。
「桜宮、そろそろチャイムがなったから教室戻るぞ」
こんなことするような子、絶対篠山君に似合わない。
「桜宮?」
確かに前の私も大概だった。だけど、絶対こんなことする子には負けない。負けられない。
「おい、桜宮、聞いてるか?」
「絶対渡したくないから、頑張らないと!」
「なんの話かは知らないが教室戻るぞ」
「…あっ、ごめん」
しごく冷静な赤羽君の突っ込みに一瞬で我に返った。




