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片想い仲間を手にいれました ~桜宮視点~

 篠山君への気持ちに気づいて、どれくらい経っただろう。

 最初はとにかく駄目駄目だったけど、反省して頑張って、ちゃんと話せるようになって、同じ係に立候補して、ちょっとは、うん、ほんの少しは進んだと思う。

 だけど、


「桜宮、部活関係の書類ってどこに置いた?」

「ひゃい!」

「ど、どうかしたか?」

「いや、大丈夫、だいじょ…、痛っ!」

「うわ、すごい音したぞ!? 足、机にぶつけたか?」

「へ、平気平気! ごめんね!」


 ここ数日、思い切り後進してます……。

 いや、原因は分かってる。

 この前、篠山君が、私の頭を撫でて…

 また、あの時の篠山君の優しい笑顔と手の感触を思い出す。

 一瞬で顔が熱くなって、叫び出しそうになり、それを抑えるために頭をぶんぶんと振る。

 うん、やばい。ちょっとどころじゃ無く、かなりやばい。

 でも、でも、しょうがないと思うのよ!

 だって、私、前世から乙女ゲームとかは大好きだったけど、実際の恋愛とかは全然してなくて、篠山君は前世合わせても初恋の人なのだ。

 そんな人からの、頭なでなで。ちょっと私には刺激が強すぎます。

 でも、ちょっと私の行動怪しすぎるし、このままじゃまた篠山君との距離が開いちゃうよね。

 ……どうしよう。

 そんな感じで挙動不審なまま、悩んでいると、小さな声が掛けられた。


「…すみません、篠山先輩。……案内係の方にこの書類持ってくのと、ついでに職員室にこのコピー提出してくるので、付いてきてもらってもいいですか?」


 青木君が手伝いをお願いするのは珍しい。篠山君もちょっと驚いたような顔をしたが、ニカッと笑って了解と言った。

 二人が部屋を出てって、ちょっと気が抜けて、息をつく。

 篠山君と一緒に作業するのは、嬉しいんだけど、ちょっとここ数日は心臓によろしくなかった。

 でも、青木君が篠山君を頼ったのは、良かったなあ。

 最近、篠山君がよくちょっとした事でも、褒めて話しかけるようになったからかな。

 青木君が自信なさげに否定するたびに私や倭村ちゃんも巻きこむから、ちょっと困惑ぎみなんだけど、うつむきながらもちょっと嬉しそうだったし。

 ゲームでも、人一倍気遣いの出来る子だったけど、人に頼るの度下手だったからなあ。

 でも、すごく挙動不審なせいで心配掛けちゃってたから有り難かったかも。

 そんなことを思った時、あることに思い当たり、固まる。

 えっと、私は今日思い切り、篠山君に対して挙動不審で、そうしたら、青木君が珍しく篠山君にお手伝いを頼んで……。

 うん、完全に気を遣われた。

 いや、実際ちょっと落ち着きたかったからすごく有り難いんだけど、…すごくいたたまれない。

 ちょっと自分の駄目さ加減に思わずため息をつく。

 すると、同時に私の後ろからもため息が聞こえて思わず振り返る。

 倭村ちゃんとばっちり目があった。


「あ、えっと、すみません! お腹空いちゃって。桜宮先輩もですか?」


 そう言って、えへへと笑うがそれにしては深いため息だった。

 

「えっと、私は自分の駄目駄目さにちょっと落ち込んでたと言うか…」


 そんなことを気にしつつ返事をしたからか、思いっきり後輩にいきなり話すようなことじゃない返事をしてしまう。

 うう、なんで私はいっつもやらかしちゃうの。


「え、全然そんなこと無いですよ! 桜宮先輩、いつも優しくて可愛いですし」


 案の定、ちょっと困った顔をしつつも、私を励ます言葉を言おうとしてくれる。

 うん、すごく良い子だ。ありがとうとごめんねと言ってその話を遮ろうとした時、


「それに篠山先輩とも仲良くて、お似合いですし!」


 その言葉で、ちょっと固まった。


「え、あの、その…」

「え、あれ、桜宮先輩、篠山先輩のこと好きですよね。二人とも、優しくてお似合いで。…うらやましいなあと」


 じわじわと赤くなる頬を押さえる。

 ああ、もう私単純だなあ。お似合いと言う言葉で落ち込んでたのが嘘みたいに嬉しくなってしまった。

 えへへと笑いながら、口を開く。


「ありがとう。あ、でも、倭村ちゃんと青木君もお似合いだよ」

「いや、えっと、違います!」


 慌てたように否定する倭村ちゃんをちょっと微笑ましく思いながら続ける。


「隠さなくっても大丈夫だよ。倭村ちゃん、よく青木君のこと見てるし。二人ともすっごく良い子で、お似合いだと思うよ」


 倭村ちゃんは赤くなって、私のことを見つめたと思うと急に泣きそうな顔になった。

 その変化に驚いて、慌てた私に泣きそうな声で呟く。


「…違います、お似合いなんかじゃないです。だって、青木君、私のこと嫌ってる…」

「え!?」


 その言葉に驚いた。

 青木君が倭村ちゃんのこと嫌ってるなんて、今までそんな感じしたこと一度も無かったし、ゲームでも元気な倭村ちゃんに戸惑っていたが嫌ってるなんて描写は一回も無かった。

 おそるおそる口を開く。


「私は、そんなこと無いって思うけど、どうしてそう思うの?」


 倭村ちゃんは俯いて、ぽつりと呟いた。


「…中等部の入学式の時に迷ってたの助けてもらって、仲良くなりたいなと思ったんです。でも、困ってるの気づかずに何回も話しかけたり、あと、下の名前好きじゃないの知らなくて、下の名前で呼びたいって言ったりしちゃって」

「名前?」


 そう言えば、ゲームのイベントでも昔からかわれてあんまり好きじゃないって言ってた気がする。

 こくりと頷く。


「綺麗な字で素敵だなって思ったんです。でも、青木君困った顔するようになっちゃって。…でも、諦められなくて、三年生で同じクラスになれたから、同じ係に立候補してみたんですけど。やっぱり、全然駄目で。いっつも困った顔させちゃうんです」


 いつも明るく元気が良かった倭村ちゃんのこんな弱音は意外で。

 ゲームでもこんなの描写されてなかった。

 だけど…。

 俯いちゃった倭村ちゃんの手を握ると驚いたように顔を上げた。


「一緒だよ」

「え?」

「私も倭村ちゃんと一緒で、ううん、倭村ちゃん以上に最初にやらかしちゃって、多分めちゃくちゃ嫌われてたと思う。正直、普通に接してくれてた篠山君本当にお人好しだなって思うし」


 突然の私の話に倭村ちゃんは目を白黒させている。


「だけど、好きになって、反省して、頑張ってみようって思ったの。今でもしょっちゅうやらかしては挙動不審になって、迷惑掛けちゃうけど、諦めたくないの。だから、倭村ちゃんも頑張ろう! 絶対大丈夫だから!」


 自分でもちょっとびっくりするくらい熱くなっているが、恋する乙女の不安は一緒なのだ。好きな人に嫌われてないか悩むその気持ち、すっごく分かる。

 でも、倭村ちゃんなら絶対大丈夫だと思うんだ。可愛くて良い子で、もう青木君と二人で並ぶと見てるこっちがキュンキュンしちゃうくらいお似合いだし。

 それに、ゲームの青木君も自信を持てるようになったら、気にしないって言って、下の名前を呼んでと言うようになるんだから。

 倭村ちゃんは驚いた顔で固まっていたが、私の言葉にこくりと頷いた。

 ようやくちょっと冷静になって距離を置く。

 

「と、とりあえず、私は挙動不審を直せるようにを目標にしたいと思います」


 そう言うと、倭村ちゃんは楽しそうに笑った。


「確かにそうだけど、ちょっと面白いと思いますよ!」

「そんな事思ってたの!? で、でも、こうね、頭撫でられたりしたらドキドキしちゃうじゃない!」

「え、そんなことがあったんですか?! 良いなあ…、うらやましい。どういったシチュエーションで?!」

「えっと、この前作ってきたお菓子褒められて…」

「そっか、お菓子作り! 女子力! …私、お菓子作り苦手なんですよ」

「あ、私もすごい苦手なんだけど、友達に教えてもらって練習中なんだ。…良かったら、今度一緒に練習しない?」


 そう言うとぱあっと顔が明るくなった。


「良いんですか!?」


 その嬉しそうな笑顔を見て、思わず頭を撫でる。

 ちょっと待って、サイズ感かな、それともコロコロ変わる表情?

 顔合わせの時から思ってたけど小動物感すごい、可愛い!


「桜宮先輩、髪ぐしゃぐしゃになっちゃいます!」

「あ、ごめん、つい」

「友達もそんなこと言って、同じ事するんですよ! …でも、片思い同盟として許してあげます!」


 むーっと膨れた後、にこっと笑ってそう言った。

 うん、前々から思ってたけど、確信した。ライバルキャラ可愛すぎる!

 同じ片思いだけど、気を抜いたらあっと言う間に置いていかれるなあ、これ……

 うん、挙動不審本当に頑張って抑えよう。

 



 



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