ちょっと進んだか?
「さて、会議を始めたいと思います」
「ちょっと待て」
黄原に放課後話があるから一人で残ってくださいと懇願され、仕方なく残ったらいきなりのイミフ発言だった。
「話ってなんだ?会議ってなんだ?最初からよーく落ち着いて説明しよう」
「それはもちろん、俺が男友達をつくるにはどうしたらいいかの話で会議に決まってるじゃないか!」
「…帰っていい?」
どや顔と謎のピースサイン付きで勢いよく言われ、帰り仕度をしだした俺は悪くないだろう。
すぐさま、すみません、調子に乗りました、と謝られたので、一応は止めたが。
「というか、その話題だったら、貴成いても良かったことないか。貴成に紹介ぐらいしたぞ」
「ふっ、篠やん。俺がほぼ初対面に近い男子と普通に会話ができると?」
こいつ、本当に残念なんだが。
一応、乙女ゲームの攻略対象者なんだよな。
前世の妹よ、これの何がかっこよかったのか俺に教えてくれないか。
「入学してからもう二週間もたってんじゃん……」
俺もある程度周りと話すようになったが、金持ち校ということで俺が想像してたようなやな奴は居らず、気のいい奴らばかりだった。
そして、何より落ち着くよな。モブ仲間!
「二週間たっても何も変わってないから、相談してるんだろ~」
「というか、なんで女子とはしゃべれんの?」
女子とは仲良く談笑している姿をよく見る。
というか、それしか見てない。
こいつの本性を知らなかったらまんまチャラ男である。
「女の子は、何を言ったら喜んでくれるとか、わかるから。男子は、今までに付き合いが無さ過ぎて、何しゃべったらいいのかわからないんだよねー」
ああ、なるほど。それで女子としかほぼしゃべらなくなって、男子に遠巻きにされると。
「話題なんて、面白かったテレビ番組とか、好きなスポーツチームとか、そんなんでいいから、まず話しかけてみろ。お前は、話せば必ずボロが出て印象が変わる」
「ボロって何? ボロって」
「いや、お前の性格の残念さと言ったら、モテることに対する嫉妬を上回って脱力するレベルだ。自信を持て。大丈夫。お前は変だ!」
「それ、誉めてないよね!?」
うん、いい反応である。
というか、実際しゃべれば結構おもしろいやつだから友達できると思うんだよな。
いじりやすいし。
問題はこいつのへたれであったりする。
なぜ、女子に話しかけるよりも男子に話しかけるほうが、勇気がいるのかはまったくわからんが。
まあ、頑張れと肩を叩きぐちゃぐちゃ言ってる黄原を放って家に帰った。
んで、翌日なのだが。
「おはよう!」
「…おはよう?」
黄原が適当な男子を捕まえて話しかけているが、あまりの勢いに軽く引かれていないか。あれ。
「………」
「黄原君、あのさ、何かあるの?」
「あ、うん、えーとな。うん、ちょっと待って」
しかも挨拶をして早々に詰まっている。
……ヤバい。どうしよう。
ぶっちゃけ言って見てられないのだが。
残念過ぎるぞ、あいつ。
かと言って、俺が口出し過ぎんのもな。
どうしようかねー、と考えていると
「おはようございます、黄原君」
おおう、ヒロインが声をかけてきた。
ニコッと笑いながらの挨拶は非常に可愛らしく、見ていて眼福な感じではあるのだが。
……黄原がキャパオーバーを起こしている。
うん、女子にそつない対応をしながら、男子と交遊を深めるなんて、芸当できるわけ無いよな。
だから、友達いないんだもんな。
……駄目だ、人事ながら気の毒になってきた。
しょうがないので、助け舟を出すことにしよう。
「桜宮、黄原、山口、おはよう」
声をかけた瞬間、桜宮は少しだけ驚いた感じで振り向き、黄原は救いを見るような輝いた目でこちらを見つめ、山口はホッとしたように息をついた。
実に、対照的な反応である。
まあ、山口はさっきから黄原に話しかけられ、困惑しまくっていたので気持ちはわかるが。
「桜宮、数学の予習やった?」
「え、数学?」
「名簿的に今日あたるの俺らだから、確認で答え合わせしたいんだけど」
「…ご、ごめん!ちょっと、用事が!」
すぐさま、席に戻って教科書の問題を必死に解き始めた。
桜宮はあまり、勉強が得意ではないらしく、よく授業中当てられては、答えられなくて涙目になっている。
席が名簿順で近いため、ときどき見かねて答えを教えてやったりすることもある。
なので、今桜宮を追い返すには効果てきめんだったらしい。
「山口、昨日のサッカー見た?」
「あ、見た。すごかったよな、あれ!」
「ブラジル今年、いいんだっけ。黄原、ブラジルのサッカーチームファンだよな」
「あ、うん」
「マジ!? どこ好き?」
「えっと……」
会話が乗り始めた時点でそれとなく席に戻る。
それにしても
「俺は何をやってんのかね」
思わず小声で呟いた。
なんだか、幼なじみといい、黄原といい、思わず手を出してしまい巻き込まれてる感が半端ない。
俺の目標は平和な高校生活のはずなのだが。
遠い目をしてしまう。
ふと、前の席に目をやると桜宮がまだ問題に悩んでいた。
数学は一限なので、そろそろ解けていないとまずい。
「…桜宮、これはこの公式」
「あ、本当だ」
「だから、答えはこうなる」
「あ、ありがとう」
…まあ、今の状況は多分というか絶対この困ってるやつをほっとけない性分からきているのだろう。
我ながら損な性分である。
ため息つきながら席に戻ると、桜宮が小さく何か呟いたような気がした。
何?、と聞いてもなんでもないと言われたので席に戻る。
ああ、前途多難な気がしてならない。
***
「モブのクセに頭いいなんてズルい……」
黄原がようやく、男友達作り進みましたね、っていうタイトルです。
なんか残念過ぎるよね…‥…。