前に進んでみましょうか ~桜宮視点~
数時間前にも投稿しています。まだ読んでいない方はそちらからお読みください。
掃除当番も終わり、掃除用具をロッカーに片付けながら、今日も学校終わりだなと思い、思わずため息をついた。
「全然、上手くいかない…………」
赤羽君に謝ろう作戦、全く上手くいかないまま、本日も早くも放課後だ。
前向きに、取り敢えず、頑張ろうと決めたけど。
話しかけても、全くの無視。私の存在をシャットアウトしている。謝りの言葉は多分、耳に届いてもいない。
篠山君のことを口にすれば、反応があるけど、すごく睨まれる為、逆効果なような気がする。
おそらく、赤羽君に近づく為に、篠山君を利用しようとする、最悪な女認定を受けているのだろう。
びっくりするくらい嫌われている。
なんでこんな状態まで悪化させた自分。本当に、何を考えて………、いや、何も考えてなかったんだろうなぁ。
何かもうため息しかでない。本当に自業自得だ。
でも、頑張らなくちゃいけない。
だって、赤羽君がここまで怒ってるのは、篠山君のことを大好きだからなのだから。
だから、ちゃんと認めてもらいたい。
…それに、この状況で篠山君にアプローチをかけようにも、赤羽君にここまで嫌われてて上手くいく未来が全く見えないし。
また、大きなため息をついて、掃除用具入れのドアを閉めた。
数日後、帰りのHRが終わり、篠山君や黄原君達が掃除当番や係で足早に教室を出ていく。
いつも、朝や休み時間に話しかけに行っていたが、チャンスだろう。
赤羽君の冷たい視線を思い出して、すくみそうになる足を必死に奮い立たせて、赤羽君の所に向かう。
「あの、赤羽君…」
「桜宮、ちょっと良いか? 外で話したいんだが」
話しかけた所、本当に珍しく反応があった。
びっくりして、赤羽君の顔を見て、ビクッとした後、後悔した。
ずっと無視されてきたけど、反応を返してもらえて、本来なら嬉しいのかもしれない。
だけど、私に声をかけた赤羽君は思いきり目が据わっていた。
…取り敢えずは話し合いからと、前みたいにしつこくしまくるのは避けながら、何度も話しかけては、謝りに行っていたけど、やり方間違えたかもしれない。
そんなことを思いながら、逃げたくなるのを抑えて、必死に頷いた。
連れてこられたのは、広い学校の為、普段使われることの無い教室だ。
教室がドアを閉めた赤羽君はこちらを振り返る。
目が据わっていて、ピリピリした雰囲気を纏った赤羽君は完全にキレていた。
「何のつもりだ?」
怒りを如実に伝えてくる声に思わず涙目になる。
必死に何か言おうとするけど、言葉に出来ない私には構わず、赤羽君は言葉を続けた。
「俺は前に言ったよな。お前のこと嫌ってるって。なのに、何度も話しかけにきて何のつもりだ」
…ああ、やり方失敗だったなあ。赤羽君がすごくすごくキレている。
そんなことを現実逃避に考えながらも、必死に口を開く。
「ち、違うの。その、嫌な思いをさせてたことをちゃんと謝りたくて…」
「その上、正彦のことを何度も話すよな。前にも言ったが、もし、正彦を利用して俺に取り入ろうとしているなら、ふざけるなよ。正彦がそんな風にされて嫌な思いしないと思ってるのか」
私の言葉には一切構わずにそう言った赤羽君は、何かを思い出すような顔をしていて、ひょっとしたら、前にも篠山君を利用して赤羽君に近付こうとした女の子達がいたのかなと思った。
きっと、篠山君は困ったように笑って流しちゃうから、赤羽君が本気で怒って。
そして、自分のせいで、親友にそんな思いをさせたことに傷ついていたのかもしれない。
だけど、どうしよう。
ごめんなさいも、私は違うよも、全然届かない。
「もう、二度と話しかけてくるんじゃねえ」
そう言って、立ち去ろうとする赤羽君に、慌てる。
どうしよう。どうしたら伝わるの?
思ってること言わなくちゃ、何か、何か。
「………仕方無いでしょ。本人に話しかけられないんだから」
「は?」
思わず零れた言葉に、赤羽君が立ち止まった。
そのままの勢いで何を言ってるのかも分からないままいい募る。
「好きだって自覚したら、恥ずかしくて、怖くて、話しかけられなくなっちゃったんだから仕方無いでしょう!! だって、わかんないんだもん!! 攻略本もシナリオも何にも無くて、今までのこと思い出したら多分印象なんて最悪に近くて。でも、話しかけたくて、近くにいたくて! だから、せめて好みとかそういう情報欲しかったの! 篠山君の好みの私になったなら声かけられるもん。好きなもの知ってたらアプローチできるもん。ちょっとは自信もてるもん。そう思って、赤羽君に色々聞いて見たかったの。それだけだよ! それと、前にまとわりついて、失礼なこと言って、嫌な思いさせてごめんなさい! 何度だって、謝るから、聞きにくるから、話聞いてよ、馬鹿!」
赤羽君が呆然とした顔で、口を開いた。
「お前、正彦のこと…」
「好きよ! 悪い!?」
そう叫び返して、ハッと我に返った。
ちょっと、待て。
え、私、今、何やった?
自分の今の言動を思い出す。
赤羽君に話を聞いてもらいたくて、何か言わなくちゃと思って。
今、思ってることを、完全完璧に逆ギレしながら叫びました。
状況把握をした瞬間、ドバッと汗が吹き出した。
さっきとは、違う意味で涙目だ。
待って、待って、待って。
謝らなきゃと思ってたのに、何この言い草。
かつ、篠山君への気持ちの大暴露。
どうしよう。無い。これは無い!
赤羽君は呆気に取られたまま、固まってしまった。
重い。沈黙が重い。
時を戻す方法を教えてください、なんて、現実逃避していると、赤羽君がため息をついた。
ビクッとしながらも、次の言葉に身構える。
「…正彦の好みだが」
「へ?」
「可愛い系の良い子がいいなって言ってた。それと、ショートボブが好みらしい。趣味はバイクだ。金が無いから買えないがいつか絶対自分のバイクを! ってよく騒いでる。そんで、ちょっとマイナーなバイク雑誌もよく買ってるな。あと、体を動かすのが好きで高校に入るまで、空手もやっていた」
ポカンとしながら、赤羽君の顔を見上げると、ため息と共に口を開いた。
「…聞きたかったの、こういう話だろ」
「…怒ってないの?」
「前までは怒ってたし、本当にうざかった。さっき、いきなり叫び出した時も驚いたしな」
「え、えっと、じゃあ、なんで?」
思わず尋ねると、また、ため息をついた。
「驚いたけど、形振りかまってなくて、本気だって分かったからな。お前の言ったことや、やったことは、本当にうざかったし、怒ってた。……だけど、本気で正彦のこと好きで話を聞きたかったなら、反省して謝ろうとしてたなら、話も聞かずに無視し続けて悪かったなと思うからな。それだけだ」
白崎君が言った、すごく誠実な人だと言う言葉を思い出す。
どっからどう見ても逆ギレな、私の話を信じてくれて、私が悪い所ばっかりだったのに、自分が話を聞こうとしなかったことを謝ってくれた。
思わず、深く頭を下げる。
「赤羽君、迷惑かけて、嫌な思いさせて、本当にごめんなさい。それから、本当にありがとう!」
赤羽君は、返事はしないが、ちょっと頷いてくれた。
それにもう一度深く頭を下げて、そして、教室を出る。
嬉しくて、びっくりして、早足になる。
教えてくれたことを頭の中で繰り返す。
可愛い系の良い子。
取り敢えず、ファッション紙読んで、可愛い系ファッション研究して。
…良い子はちょっと分からないけど、いつもニコニコ親切にを心掛けて。
それと、ショートボブ…。
歩いてるせいで、ひるがえる長い髪をちらりと見る。
真っ直ぐな黒い髪は、よく色んな人から綺麗だって誉めてもらえて割と気に入っていた。
それに、このヘアスタイルはヒロインのチャームポイントで、色んな攻略対象者から誉められるシーンがある、ヒロインとしての大事な要素の一つだった。
髪をじっと見つめて、少し考える。
そして、出てきた結論に頷くと、パタパタと小走りで、目的地に向かった。
次の日の朝、教室のドアの前で、深呼吸をしていた。
ドアの前から動かない私を他のクラスの人が不思議そうに見ながら、通りすぎていく。
もう一度深く深呼吸をして、おし、と呟き、ドアを開けた。
教室に入ると、仲の良い子がこちらを見て、びっくりした顔をする。
その子に挨拶をしながらも、席の方を見ると篠山君はやっぱりもう学校に来ていた。
覚悟を決めて、席の方に向かう。
プリントの整理をしている篠山君は、まだ、こっちに気付いてない。
もう一度を息を吸って、口を開いた。
「おはようございます、篠山君!」
私の声に篠山君は顔を上げて、ちょっと驚いた顔をした。
「おはよう。髪バッサリいったな」
その言葉にちょっと緊張する。
軽くなった頭と、肩に触れる髪の先に、まだ慣れていない。
「うん、気分転換でショートボブにしてみたんだけど、…へ、変かな?」
そう聞いてみると、篠山君はちょっと笑って、
「いや、桜宮、そういう髪形似合うな」
と言った。
嬉しくて、ドキドキして、体温が上がる。
頭がまっ白になりそうになるが、ちょっと息を吸って、落ち着かせる。
ねえ、篠山君。
あなたを好きになって、私は色んなことに気付いたよ。
自分が本当に考えなしだったこと。
臆病なこと。
結構、テンパりやすくて、何やらかすか分からないこと。
本当に駄目駄目なことばっかりで、ちょっと大分落ち込んだ。
だけど、それでもね、頑張りたいと思うから。
ヒロインらしさなんて捨てて、あなたの理想に近付きたいと思うから。
怖くて、恥ずかしくて、逃げたくなっちゃうけど、慣れない髪形で自分の背中を押してみよう。
しゃべれなくなる前と同じように、にっこり笑って、返事を返した。
「…ありがとう!」
失敗したら、反省して。
駄目な所は直して。
そして、いつかは、あなたの隣を歩けるくらいに素敵な女の子になりたいです。




