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反省だけじゃ進めません ~桜宮視点~

「おーい、桜宮?」


 篠山君にそう呼び掛けられて、ハッと我に返る。

 隣を見ると、プリントを持った篠山君がちょっと困った顔でこっちを見ていた。


「あっちの方足りないみたいだから、余ったプリントまわしてもらっていい?」


 その言葉に慌てて頷いて、プリントを篠山君から受け取った。

 授業中なのに、ぼーっとし過ぎだ。

 プリントをまわした後、慌てて、ノートと板書の内容を見比べて確認する。

 そこまで、板書の内容が増えていた訳でも無かったので、そんなにも長くぼーっとしていた訳ではないらしい。

 ホッとして、慌ててノートを取り出すが、つい、さっきまで考えていたことを思い出してしまう。

 数日前、赤羽君言われてようやく気付いた、自分のどうしようもないような言動。

 自覚無く篠山君を馬鹿にして、赤羽君に嫌われているという、ものすごく自業自得な話。

 赤羽君に本当に悪いことをしたなと思う。それはそれは私のことがうざかっただろう。

 それに……。


 キーンコーンカーンコーン、とチャイムの音が響いて、ハッと我に返った。

 慌てて前を見ると、板書はすごく進んでしまっている。

 どうやら、またやってしまったらしい。

 慌てて写し始めるが、途中まで写した所で、日直の子が、「もう良いかー?」、と言って消し始めてしまった。

 席が後ろの方なので、咄嗟に待ってということも出来ず、消えていく板書と書きかけのノートを見て、アタフタしていると、


「…見るか?」


 ちょっと呆れたような声がかけられる。

 顔を上げると、篠山君が苦笑いしながら、自分のノートをひらひらと振っていた。

 一気に、頭が真っ白になって、言葉が出てこなくなる。


「…あ、えと…」

「一応、読めないような字じゃないと思うぞ」


 そう言って、差し出されたノートを受け取って、慌てて口を開く。


「あ、ありがとう…」

「どーいたしまして」


 ニカッと笑って、そう返してくれる篠山君に、顔が赤くなるのを感じた。

 それを誤魔化すように、必死になってノートを写す。

 篠山君のノートは綺麗にまとめられていて、流石は凛ちゃんが借りるだけあるな

と思う。

 ノートを写し終わり、隣の席に向き直って、ペコリと頭を下げた。


「ノート、本当にありがとう。助かりました」

「今日、なんかすごくぼーっとしてたもんな。次からは気をつけろよ」


 からかうようなその言葉に、前は普通に言い返していたのに、今は何故か言葉が詰まってしまう。

 何事かをもごもごと呟いた私に、篠山君が首を傾げた。


「…なあ、桜宮」

「あ、は、はい!」

「俺、お前に何かした?」


 固まってしまった私に、ちょっと申し訳なさそうにしながら、篠山君は口を開いた。


「いや、最近、なんか、俺に対して様子がおかしいし。もし、なんかやらかしちゃってたなら謝りたいんだけど。それか、なんか言いたいことあるなら、言ってくれてかまわないから」


 …言いたいこと、かぁ。

 思わず、浮かんだ言葉を慌てて、打ち消して、口を開く。


「ち、違うよ。篠山君は何にも悪くないの。えっと、むしろ、私の問題だから、気にさせちゃってごめんね」


 そう言うと、納得いってなさげな顔ながらも、「あー、そう?」、と言って退いてくれた。

 ホッと息を吐いた所でチャイムが鳴って、前に向き直る。

 教科書を開き、ノートを取ろうと、シャーペンを握った所で、さっき思い浮かんだ言葉を思い出してしまう。

 言える訳、無いよなあ。

 篠山君は、私のこと、どう思ってるの? なんて。

 今まで、色々と迷惑かけて、失礼な態度を取って、更に、彼の親友には思いきり嫌われている。

 どう考えても、好きになってもらえる要素がない。

 赤羽君にちゃんと話しかけて、自分のことを嫌っていると言われて、ショックだったのと同時に気付いたのだ。

 篠山君のこと好きだって、自覚して、こんなにも話せなくなってしまったのは、意識しちゃって恥ずかしいのもあるけど、多分、怖いから。

 篠山君は優しいから、普通に接してくれているけど、嫌われてるんじゃないかって、不安で、怖くて。

 話しかけて、どう思われるのか、どう思われてたのか、知るのが怖くて、口ごもって、挙動不審になって。

 でも、優しい篠山君にドキドキして、浮かれて、凹んで。

 本当に、びっくりするほど、駄目駄目だ。

 









 授業が終わって、篠山君が黄原君に呼ばれて席を立った。

 黄原君と赤羽君と楽しそうに騒いでいるのをボンヤリと見ていると。


「お悩みですか?」


 声をかけられて、びっくりする。

 慌てて振り返ると、白崎君が穏やかに笑って後ろに立っていた。


「驚かせてしまってすみません」

「あ、ううん、大丈夫だけど。えっと、その」

「あ、いえ。最近、篠山が桜宮さんの様子がおかしいと悩んでまして。桜宮さんが篠山君のことを嫌ってる訳ではないということは、見てれば分かったので、失礼ながら、ちょっと微笑ましく観察させてもらってたんですけど。ここ数日、前と違って、ずっと落ち込んでたのでどうしたのかな、と」

「う、えぇっと、あの…ええ?!」


 言外に私が篠山君のこと好きなの気づいてると言われて、思いきり動揺する。

 白崎君はそんな私に、すみません、ともう一度謝って、口を開いた。


「でも、本当に、落ち込んでるようだったので心配だったんですよ。桜宮さんには、前から良くしてもらってますし」


 その言葉に、前のことを思い出して、罪悪感で胸が痛む。

 ゲームと混同して、体調があまり良くなくても、絶対に無理をしてしまうと分かっていながら、シナリオに沿った色んなことを言った。

 私が彼の悩みを解決させてあげようなんて、びっくりするほどの上から目線で。

 端から見たら、普通に話しかけていただけ。

 だけど、本当は、すごく酷いことをしていた。


「…違うよ、むしろ、迷惑かけてただけだよ。体調悪いのに、わざと白崎君に気にさせるようなことを言って、無理させてた。そんな風に、赤羽君にも迷惑かけまくって、嫌われて。…篠山君にも、きっと…」


 そこまで、言って、慌てて口を閉じた。

 ウジウジ悩んでるだけの弱音。こんなこと言われても、白崎君には迷惑だろう。

 慌てて、誤魔化そうとすると、


「違うと思いますよ」


 白崎君が静かに言った。


「桜宮さんは前も謝ってくれましたが、普通に嬉しかったですよ。僕は休みがちなので男子には遠巻きに腫れ物に触るようにされて、喋りかけてくれる女の子達の賑やかなおしゃべりもちょっと苦手で、中々クラスに馴染めなかったんです。でも、桜宮さんは、僕の好きな本の話を楽しそうに沢山してくれて、嬉しかったんですよ」


 その言葉に何故か泣きそうになった。

 ゲームのシナリオに沿った、ヒロインの言葉を沢山言った。だけど、好きな本の話とかは、普通に私の言葉だった。


「それに、篠山に関しては、彼、本当に何も気にして無いと思いますよ」

「…でも」

「基本的にびっくりするほど心が広いんですよ。ある程度は、まぁいいかで流しますし。…それに、もし本当に嫌ってたら、あんな風に接しませんし…」


 芝崎先生に対する、あの雰囲気が本当に……、とちょっと遠く見ながら呟く。


「……まあ、赤羽は、ちょっと、いえ、かなり強情な所がありますけど、すごく誠実な人なので、しっかりと謝れば許してもらえると思いますよ。それこそ、篠山を見習うって感じで」

「えっと、どういう…」


 その言葉に不思議そうな顔をした私に、白崎がにっこり笑って口を開く。


「びっくりするくらい前向き一生懸命なんですよ、篠山は。一緒にいると、励まされるんです」


 そう言って笑う白崎君はどこか自慢気で、本当に大好きな友人なんだなと思った。

 その時、チャイムが鳴った。

 席を立っていた人達が慌てて席に戻り出す。

 席に戻る白崎君に、慌ててお礼を言う。


「あのっ、相談に乗ってくれてありがとう!」


 白崎君は振り返ると、ちょっといたずらっぽく笑って口を開いた。


「いえ、篠山と香久山さんの真似をしてみただけですので」




 馬鹿みたいに後ろ向きになって、後悔してばっかりいたけど。

 白崎君に悪いことばかりじゃないって言ってもらえたような気がした。

 取り敢えず、と、息を吸って気合をいれる。

 赤羽君にしっかり謝ろう。

 それで、篠山君のことを聞いてみよう。だって、絶対に赤羽君は白崎君みたいに篠山君のこと大好きだろうから。

 そして、まだまだ怖くて恥ずかしいけど、頑張ってちゃんと話しかけてみよう。

 詩野ちゃんの言ってた通り、怖がって、恥ずかしがってばっかりじゃ、進めない。

 上手くやれないかもしれないけど、それでも、前向きに。

 篠山君を見習って、頑張ってみようかな。

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