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最初からマイナススタートです ~桜宮視点~

割とシリアスめな話です。桜宮さんが踏んだ地雷の話。





 詩野ちゃん達に相談した次の日。

 朝、教室に来て、目的の人物が来ているか確認する。

 いつも篠山君と一緒に早目に来ているので、多分もう来てるかなと思うんだけど……、いた。

 そして、篠山君は他のクラスの男子に呼ばれ、教室を出て行った。チャンスである。

 よし、と気合をいれる。善は急げだ。

 最近はあまり話しかけることは無くなっていたけど、1学期とかはよく話しかけまくってしまったから慣れている。

 鞄を置いてすぐに彼の席に向かい、話しかけた。


「おはようございます。赤羽君」


 なるべくにこやかに挨拶するが、チラリともこちらを見ないでガン無視だ。

 …うん、いつも通りの反応だなぁ。ゲームでも初期はずっとこんな感じなんだよね。なんかちょっと懐かしい。

 だけど、今日はちゃんと会話を成立させて、篠山君のことを聞きたいのだ。

 気合を入れ直して、再び口を開く。


「最近、ちょっと涼しくなってきたよね」

「………………………」

「暑いの嫌いなので嬉しいんだよね。赤羽君は夏と冬のどっちが好き?」

「………………………」


 いきなり言い出すのは変かなと世間話を振ってみるがやはり無視である。

 それでも必死に話をつなぐ。


「し、篠山君は暑い、暑いってよく文句言ってたから、冬のが好きそうだよね」


 そう言うと、ピクリと赤羽君が動いて、こちらを見る。

 反応を返してくれたと嬉しくなって、更に踏み込んだ。


「篠山君の趣味とかって何かなぁ?」

「はあ?」


 ようやく返ってきた返事の声のあまりの低さにビクッとする。

 恐る恐る赤羽君の顔を見上げると、本気で苛立った顔でこちらを睨んでいた。


「なんでお前にそんなことを教えなくちゃいけないんだ?」


 低くて冷たい声は明らかに私のことを拒絶していた。

 固まってしまった私を見て、赤羽君は視線を逸らし、いつも通りに戻る。

 成瀬先生が入って来て、HRの開始を告げた所で、ようやく動き出して自分の席に戻った。

 授業が始まり、教科書やノートを開くけど、さっぱり内容が頭に入ってこない。


 入学式の時、赤羽君が新入生代表の挨拶をしているのを見て、前世の記憶を思い出した。

 そして、思い出した記憶の乙女ゲームの世界に、そして、私がヒロインだと言う事実に浮かれまくった。

 それで、一番好きだった攻略対象である赤羽君に話しかけまくった。

 篠山君に言われて、冷静になった今では迷惑だっただろうなと思うし、そもそも女嫌いの赤羽君が私のことを苦手に思うのは当然だと思っていた。

 だから、篠山君のことを赤羽君に聞いてみて、ちょっとでも関係の改善を図れないかなと思っていたのだ。

 …だけど。

 さっきの冷たい声を、心底苛立った顔を思い出す。

 私は赤羽君にあそこまで嫌われていたのか。

 











 その日の放課後、HRが終わったすぐ後に赤羽君を追いかけた。

 今日は赤羽君は掃除当番だから、篠山君達とは別行動だ。

 人気がなくなった所で、赤羽君を呼び止めた。


「あのっ! 赤羽君!」


 赤羽君は振り向かないがちょっと歩調を緩めたのをみて、必死に続ける。

 きっと、前の私の行動のせいで不愉快な思いをしていたのだ。しっかり謝らなくちゃいけない。


「前に、嫌がってたのに散々話しかけてて、本当にごめんなさい! これからは気をつけるから、…その、普通にクラスメイトとして接しますので…」

「……違う」


 しどろもどろになりつつも、必死に言葉を繋げていたが、冷たい声で遮られた。

 思わず、ビクッとするがその言葉に少し驚く。違うってどう言うことだろう。


「…えっと、違うって?」


 思わず尋ねると更に不愉快そうに眉をひそめられた。


「俺がお前を嫌っている理由はそれじゃない」

「…え」


 どういうことか分からずに混乱する私に、赤羽君はため息をついて口を開いた。


「『篠山君なんか』だっけか?」

「……え」

「お前が入学してすぐの時に俺に言った言葉だ。確かに、お前が俺に馴れ馴れしく話しかけてくるのにも苛ついていた。だけどな、会ってすぐのヤツの表面だけを見て、人の親友に対してそんな失礼なことを言うヤツは心底腹が立つし、そんなヤツと関わりたいなんて欠片も思わないんだ。…もし、正彦を通じて俺に取り入ろうとしているなら、本当に不愉快だ。今すぐ止めろ」


 そう言うと赤羽君は私には目もくれずに立ち去って行った。

 ようやく頭が動き出す。


「…何、それ?」


 私、そんなこと言ったの?

 入学式くらいの時、私は確か…

 








 

 入学式の時、私ははしゃいでいた。

 小さい時に学園祭に連れて来てもらってから、ずっと憧れていた学園に入学できたのだ。

 学費は高いし、入試はとても難しいことで親にはしぶられたけど、ずっと昔から行きたいと言い続けたのと、受験勉強を必死に頑張ったので許してもらえた。

 辛い受験勉強を乗り越えたこともあって、尚更色んな物が輝いて見える。

 …それに、なんとなくここの制服や校舎は懐かしい感じがするのだ。

 そんなことを考えながら、ぼーっと入学式の話を聞き流していると、周りがざわついた。

 なんだろうと顔を上げ、壇上に上がった生徒の顔を見て息を飲んだ。

 一見、すごく優しそうで整った王子様みたいな顔立、だけど、どこか不機嫌そうな表情のせいで近よりがたい雰囲気を持っている。

 ざわつく会場を意にも介さず、つまらなさそうに原稿を読み上げるその姿や、声は……!

 その瞬間に色んな記憶がよみがえり、私はこの世界が前世で大好きだった乙女ゲームの世界だと理解した。



 その後は思い出した記憶に呆然としている内に入学式が終わっていた。

 教室に戻る時にようやく我に帰る。

 それにしても、まさかあのゲームの世界なんて…!

 シンプルなストーリーだったけど、スチルや声、キャラが良くて大好きだった乙女ゲーム。

 ……“前”の私が最後に過ごした病院でも、ちょっとでも明るくしていようと思って、何回もプレーした。いや、そんな暗くなりそうなことを考えるのは止めよう。

 それよりも大事なことがある。

 私の名前、“桜宮 桃”ってヒロインのデフォルトネームと一緒だよね。しかも、私の外見もパッケージのヒロインのイラストとそっくりだ。

 つまり、私がヒロインってことだよね!

 だったら、私はあの大好きだった乙女ゲームの攻略対象者と恋愛ができるんだ。

 うわー、どうしよう。やっぱり、ルートは逆ハールートかな。

 このゲームの逆ハールートはそこまで露骨な感じじゃなかったと思うから、多分、現実でも大丈夫だろう。それに皆幸せな方が絶対良いし。

 ゲームの始まりは二年生の時だったと思うけど、今はまだ一年生。しかも、攻略対象者の中で四人も関わることができる。

 よっし、今から頑張って攻略を進めちゃおう!



 そんな感じで攻略対象者達と関わり始めて数日。

 私はあることが気になりだした。


「…なんで赤羽君に幼馴染なんているの?」


 乙女ゲームでは孤高の天才生徒会長だった赤羽君にはあんな風に仲が良い幼馴染がいるなんて設定はなかった。

 しかも、イベントで解消するべき悩みのいくつかをあの幼馴染が普通に解消させちゃってるし。

 …隠しキャラとかでは絶対無いよな。

 あの幼馴染の男の子は見るからに地味な見た目でどう見てもモブキャラだろう。

 この数日の言動を見ても、一般家庭の普通の男の子だし。

 気になって、気になって、いつも通り話しかけに行った時に赤羽君に尋ねたのだ。


「どうして篠山君なんかと仲が良いの?」


 と。







 思い出した瞬間、思わず頭を抱えた。

 

「…なんで忘れてたの、私」


 呟いた声は涙声だ。

 これは無い。どう考えても最悪だ。

 赤羽君が怒るのも当然だろう。

 会ったばかりの人に小さい頃からの親友をそんな風に言われたら、私だって怒る。

 しかも、その後、女嫌いなのに話しかけ続けたのだ。

 好感度低いどころじゃないだろう。


「なんで私、そんなこと言ったの…」


 思わず呟いたけど、答えは分かってる。

 ここが乙女ゲームの世界で、そして、私がヒロインということがわかった私は、はしゃいで、調子に乗って、色んな物を見落とした。

 そして、ここは現実なのにゲームと混同しまくりの行動をした。

 だから、あんな発言をして、赤羽君を怒らせてるのに、ゲームと同じ反応だとか言って、能天気に話しかけ続けた。

 上辺だけを見て、篠山君に対してあんなことを言った。

 攻略対象者達を完全にゲームと同じように見て、迷惑かけた。

 それでも、ずっと不思議で気になったから。

 篠山君を観察して、けっこう色々すごい人なんだなって気付いて。

 私の駄目な所を指摘されて、そのおかげで自分のことにも気付けて、詩野ちゃん達とも仲良くなれて。

 篠山君を好きになった。


 だけど。

 さっきの赤羽君の、大好きな人の親友の冷たい目を思い出す。

 完全完璧に私のせいだけど、私の恋は、上手く話せないどころじゃなくマイナススタートだ。







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