お祭り騒ぎの幕開けです
今日はとうとう文化祭当日だ。
クラスの出し物の喫茶店は念入りに準備しただけあって、自分達で言うのもあれだがかなりいい出来になったと思う。
ウキウキしながら最終準備をしていると貴成が声をかけてきた。
「…楽しそうだな」
「こういうお祭りって雰囲気、楽しくねえ?」
「…俺は今からのことを思うと楽しくない」
貴成は周りの雰囲気とは反対にげんなりとした表情で項垂れている。
俺のクラスは喫茶店なので、食事や飲みものを用意する裏方と、ユニフォームを着て接客するやつらに別れており、俺と貴成と黄原と白崎は接客班だ。
服装は俺と同じく、SFに出てくるような喫茶店用の近未来風ユニフォームなのだが、同じ服とは思えないほどに着こなしている。
現にクラスの女子も貴成の方を見てはキャーキャー言っており、女子に騒がれるのは確実だろう。俺とか最早空気だし。
そんな感じでげんなりしている貴成に近くにいた白崎と黄原が苦笑しながら声をかけた。
「まあ、赤羽は午前からのシフトですし、一般のお客さんは午後に比べると少しは少ないと思いますよ」
「そーそー、赤っちは午前乗りきればなんとかなるって。後は篠やんと遊べるしいいじゃん」
因みに、白崎と黄原は午後からのシフトだ。
出来れば友人同士で同じシフトに入りたかったが、めちゃめちゃモテる客寄せを固めておくとか馬鹿だろというクラスの主張により別れた。
黄原とかはちょっとむくれていたけど、ぶっちゃけ当然の主張かと思う。
そんな感じでぐったりしてる貴成を笑いながら見てると、白崎が俺の顔を見てにっこりという感じで笑った。
うん? どうした?
「えっと、白崎、なんかあった?」
「あ、すみません。篠山が元気になったなと思ったら、つい」
その言葉にちょっと虚をつかれた。
「あー、そうだよね。一時期悩んでそうだったし、マジで良かった!」
「だな。そっちの方が正彦らしい。悩み事はもう大丈夫そうなのか?」
「えっと、どうしたいかは分かったかな。…心配かけたみたいでごめん。ありがとな」
黒瀬のことは、染谷のおかげでまた会ったら迷わず突撃してみようと思って、ちょっとスッキリしたのだが、どうやら一時期悩んでいたのが思ったよりも心配をかけていたらしい。
なんか照れながらもお礼を言うと、当たり前のことだろと流される。
本当にいいヤツだよな、コイツら。
そんな感じでほんわかしてたら、文化祭開始15分前の放送が流れた。
皆各々の分担に動き出す。
おっし、頑張りますか!
「…貴成、生きてるか?」
「……帰りたい」
文化祭が始まって数時間、そろそろシフトが終わる頃なのだが、貴成が死にかけている。
ちらっと廊下を見るとズラッと並んだ女子の列。廊下の窓から、チラチラと貴成を見つめている。
…イケメン効果をなめてましたよ、はい。
最初は内装の格好よさとかで男子の客が多かったのだが、スイーツにつられた女子が貴成のコスプレを触れ回ったせいでこんなんになったらしい。
クラスで色々と頑張って準備したものだからと、貴成も絡んでくる女子に邪険な対応を取れず、ぐったりしている。
…うん、めちゃめちゃ女子苦手なのに、よく頑張ったよ、お前。
そろそろ限界っぽいので、交代まだか?!、とドアの方をチラチラ見てたら、交代要員のヤツらが入ってきた。
同じくコスプレした黄原と白崎を見て、女子達が黄色い声を上げている。
それに対して、黄原はノリよくウインクして返し、白崎はちょっと困った感じに笑ってから、とても綺麗なお辞儀をして見せた。
貴成と違って、ソツなく対応していけそうで、安心する。
軽く引き継ぎのようなことを行うと、二人とも貴成を見て苦笑いして、お疲れ様と言って接客に移って行った。
貴成は着替える為にウチのクラスが取った控え室用の教室に着いた途端にぐったりして椅子に座り込んでしまった。
本当に色々と限界だったらしい。
「大丈夫か? なんか食いに行く?」
「…すまん。もう、回る元気が無い。俺はここで休んでるから、クラスのヤツと一緒に回って来てくれないか?」
「…了解。なんか食いたいの言って。買ってくるわ」
「…じゃあ、焼きそばとか有ったら頼めるか? ありがとな」
無理をさせるのもいけないので、言う通りにゆっくり休ませることにする。俺も残っても良いが、多分、コイツ気にするしな。
同じシフトだったクラスのヤツに事情を説明して合流すると、なんとも言えない顔で頷いた。
「そっか。売り上げの為とか言って、やっぱり無理させ過ぎたかな?」
「赤羽、本当に女子苦手だもんな。俺達もなんか買ってくか」
そんな感じで他のクラスを冷やかしつつ、食べ物系を物色して行く。
そろそろ結構な量になったので戻って食うかという話になった時に、後ろから勢いよくぶつかられた。
思わずつんのめるが、食べ物は落とさなかった。
何事だと思って振り返ると、ピンクのソフトモヒカンと言った独特な髪型が目に入る。
つい最近見た見覚えのある髪型に固まっているとソイツにギロッと睨まれる。
「邪魔なんだよ、角でこそこそしとけ!」
そう言って俺を軽く蹴りつけてから、歩き去って行った。
ちょっと見ただけだったけど、多分、間違い無い。
前、街で黒瀬に会った時にアイツと喧嘩してたヤツじゃないか?
嫌な予感に固まっている俺を心配して、クラスのヤツらが声をかけてきた。
「篠山、大丈夫だったか? 蹴られてたよな」
「あんな柄悪いのにぶつかるとか運悪いな。つーか、あっちって何の展示も無い方だよな。何しに行ったんだ?」
そうだ、ウチの学園は広いから文化祭でも全部の場所を使わなくても良いからと使わない区域がある。
アイツが向かったのはその区域。
…場所を使うヤツがいないからと俺達が主に看板とかを置いていたのと同じ区域。
そこの裏庭とかきっと普通、誰も行かないだろう。
嫌な予感に唾を飲み込んだ。
気のせいかもしれない。何もないかもしれない。それでも、
「…悪い」
「ん? 何か言った?」
「悪い! ちょっと忘れ物したから取って来る! 貴成の所に飯持ってくの頼む!」
「あ、おい!」
今回の人生は後悔しないように、思うように生きるが目標なんだから、しょうがないだろ。




