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今日は出会う日です ~桜宮視点~

夜、連続投稿しようと思ったら寝落ちしてしまったので、今投稿。

本日二回目更新です。

 あちこちで、金槌やミシンの音が響く中を、私は両手にテーブルクロスを持って走っていた。

 この文化祭とかの独特の雰囲気が好きだ。

 クラスの子がデザインしたカッコよくてお洒落なデザインのテーブルクロスを見るとわくわくする。

 私はあまり器用な方ではないが、ハサミで布を切ったり、こうして物を運んだりといった面で頑張ろうと決めている。

 教室に着いて、声を掛けながら、ドアを開ける。


「すみません、テーブルクロス持ってきました!」


 すると、たまたま手が空いていたらしい白崎君が受け取りに来てくれた。

 そのまま手渡す。

 教室内は組み立て途中の物が置かれていて、蹴って位置をずらしてしまったら大変だから、なるべく入らないようにしている。


「ありがとうございます」


 にっこり笑ってお礼を言ってくれる。

 いえ、と言いながら笑いつつ、ちょっとときめく。

 …ミーハーと言ってもいいです。イケメン好きなんですよ。

 篠山君に言われてから、乙女ゲームの設定どうりに物事を押し付けていくのは止めたが、イケメン観察して普通に仲良くくらいは許されるはずです!

 

「テーブルクロス届きましたよ」

「おー、サンキュー。模様見せて」

「…ほら、やっぱ、模様もっと細かいじゃん。教室全体で合わせるなら、壁の装飾もっと細かくした方がいいって」

「逆に、テーブルクロスが細かいのである程度簡略化しても大丈夫じゃないでしょうか?」


 皆、真剣に作業している。

 すごいなあ、と思いながら、教室を見渡すと赤羽君が真剣に作業しているのを発見する。

 …やっぱ、カッコいいなあ。

 王道の王子様系のイケメンで、正直、タイプど真ん中だ。

 ふと、その横で作業してた男子が顔を上げた。

 …篠山君だ。

 …楽しそうに作業するなあ。目がキラキラしてる。

 最近気付いたけど、笑うとちょっと幼くなるのだ。

 地味顔と言ったらそうだけど、勉強中とか真剣でキリッとした顔をしているし、笑うとちょっと可愛い。

 なんだかボーッと見つめてしまって、ハッとする。

 いけない、早く作業に戻らなくちゃだ。

 ドアを閉めて、ミシンとかを使っていた教室に向かう。

 すると、途中ですごい音と、きゃあ、と言う声が聞こえた。

 見に行ってみると、壁に立て掛けてあった段ボールが廊下に散乱しており、側で女の子が困った感じで立っていた。

 …倒しちゃったんだなあ。

 側に行って、声をかける。


「大丈夫? 戻すの手伝おうか?」


 すると、その子が振り返った。

 照れくさそうに笑いながら、口を開く。


「あ、ごめんね、ありがとう。…良かったら、お願いできる?」


 その顔を見た時、思わず声を出しそうになって、慌てて押さえる。

 暁峰 夕美ちゃんだ!

 夕美ちゃんは、黄原君ルートのライバルキャラである。

 その性格はライバルキャラによくある嫌な人と言った感じではない。

 黄原君を心配して、いろいろと声をかけてくる、面倒見のいいキャラだった。

 ヒロインに対してもいろいろと試すようなことを言うが、最終的に応援してくれる。


『智のこと分かって好きでいてくれたみたいで安心した。こんなこと、私が言うのは変かもだけど、智をよろしくね』


 最後にそう明るく笑い、去って行くシーンは感動した。

 割りと人気のあるキャラで、私もけっこう好きだった。

 せっかくだから、会いたいなあと思っていたけど、初エンカウントです!


「…どうしたの?」

「あ、ごめん。なんでもないよ。戻そっか」


 ちょっと行動停止してしまっていたようで、訝しげに声を掛けられた。

 慌ててごまかして、片付けに入る。

 戻すと、かなり大量の段ボールは廊下の半分近くまであった。

 これは倒しちゃうかもなあ。

 戻し終わって、ふう、と息をついた時、くう、とお腹がなった。

 思わず顔が真っ赤になってしまう。

 いやぁ! 恥ずかしい!

 違うんです。お昼近くだし、ちょっといつもよりもよく動いてたし、近くでどっかのクラスがメニューの試作品作ってるみたいでいい臭いするからで、食いしん坊と言う訳じゃないんです!

 夕美ちゃんは、私の真っ赤になった顔を見ると、クスッと笑って、自販機とベンチのある方を指さした。


「手伝ってくれてありがとね、アイスおごるわ」

「いえっ、大丈夫です!」

「そう? 私、すっごいアイス食べたい気分なんだけど、一人じゃ寂しいの。お願い、付き合ってくれない?」


 笑顔で手を合わせてお願いされて、思わず頷く。

 クスクス笑って、良かった、と言う姿は私よりもずっと大人っぽい。

 茜坂先生は年上だし、お色気キャラだからと思っていたけど、このライバルキャラの大人っぽさは何?

 私が子どもっぽいの?

 自販機のアイスを買って、二人でベンチに座って食べる。

 一口かじって思わず、頬をほころばせてしまった。

 やっぱ、暑い季節にアイスは美味しいなあ。甘い物大好きである。

 同じように、アイスをかじっていた夕美ちゃんが口を開いた。


「そういや、まだ名前聞いてなかったわね。私は、2組の暁峰 夕美って言うの。あなたは?」

「あ、7組の桜宮 桃です。よろしく、暁峰さん」

「夕美でいいわよ」

「あ、じゃあ、私も桃でお願い。夕美ちゃん」

「ん、了解」


 名前を呼んだら嬉しそうに笑ってくれた。

 ひょっとして、お友達になれる感じかな。

 嬉しくなって、こっちも笑うと、声を掛けられた。


「あれ? 夕美、サボり?」


 振り返ると、長い髪を下の方で二つに纏めた女の子が立っていた。

 腕に風紀の腕章と、クリップボードを持っている。

 不良キャラの黒瀬くろせ けい君ルートのライバルキャラ、染谷 凜だ。

 夕美ちゃんと仲良かったんだ。


「息抜きよ! さっき、段ボール倒しちゃって困ってた時に助けてくれた桃に付き合ってもらってるの」

「そうなの? 可愛い子だね、よろしく。私、染谷 凜って言います」

「あ、私、桜宮 桃です」


 明るく声を掛けられて、咄嗟に挨拶を返す。

 原作では、内申点とか言って、黒瀬君に絡んできて攻略の邪魔だったけど、普通にしてたら良い子そうだ。


「凜、可愛い女の子にちょっかい掛けない」

「えー、可愛い子は愛でようよ。それは置いといて、倒しちゃった段ボールって何処?」


 夕美ちゃんがちょっと離れた所の段ボールを指さすと、眉をひそめた。


「廊下の三分の一以上占める荷物置くのは禁止ってあったのに、ルール違反ね。何処のクラスだろ」


 夏休み期間中の作業はどうしても先生が少なくなるので、生徒会と風紀委員が取り仕切っている。

 クリップボードの書類を覗きこんでそう言う姿にちょっとびっくりした。

 仕事ちゃんとやってるんだあ。

 いや、普通に考えてそうなのは分かってるんだけど、原作の内申点って言いまくってる姿を思い出すとね。

 なんか意外な気がするのですよ。本当にお邪魔虫って感じのキャラだったし。


「ちょっと確認してくるわね。じゃあ」


 そう言い残すと、さっさと行ってしまった。

 原作と同じく忙しない感じである。

 しかし。


「…黒瀬君か」


 小さく小さく呟く。

 この世界は、乙女ゲームの世界だけど、私達にとっては普通に現実である。

 そう思うと、黒瀬君に関わるのは少し躊躇してしまうのだ。

 …だって。


 黒瀬君、攻略対象者の中で一番、事情が重いキャラだし。



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