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女子は強かです

「篠山、そっちの金槌取って」

「おー」


 トンカントンカンと音がする。

 今日は夏休みに登校しての文化祭準備の日だ。

 うちのクラスは前決まった通りに喫茶店なのだが、コンセプトが近未来風ということで、いろいろな飾り付けを行う。

 時間が沢山ある、かつ、人数が多いということで、ものすごい本格的だ。

 機械的な置物を作ったり、ピタゴラスイッチのような仕掛けを作ってみたりといろいろとやってる。

 正直、めちゃくちゃ楽しい。

 いや、今年の夏休みは、黄原達といろいろな所に遊びに行ったり、短期のバイトで稼いだりと、かなり充実しているな。

 メタリックな塗装が施された飾り板に仕上げの飾りを施そうとするが、必要なテープが足りない。


「おーい、銀色のテープ何処やった?」

「ん? ああ、確か看板班のヤツらが持って行ってたぞ」

「了解ー」


 確か、中庭の方でやってたな。

 取ってこよう。

 小走りで移動して中庭に向かう。

 中庭で作業してた黄原が真っ先に気付いて、手を振ってきた。


「ヤッホー、どうしたの? 篠やん」

「備品取りにきた。銀色のテープってここにあるよな?」

「あ、あるよ。ちょっと待ってて」


 塗装やってたヤツらに声をかけて、テープを取ってくれた。

 帰ろうとした時、黄原が思い出したように、もう一度顔を上げた。


「あ、篠やん、ごめん。さっき、塗装した板そろそろ乾いたと思うんだよね。そこまで大きくないから、ついでに教室まで持っていってもらっていい? 木に立て掛けてあるから」


 なるほどと頷く。

 教室の飾り付けに使っている板などは、銀色などのメタリックな色のスプレーを使って塗装しているため外でやっている。

 量が多いため、一連のパーツずつ小分けにやって乾いたら、持って来てもらってるのだが、この場合は普通に俺がやるのがいいだろう。


「了解。あっちの大きい楓の木の方だよな」

「あ、篠山、そっち行くならついでにこれも持ってて干しといて」


 クラスのヤツから、さらっと仕事を押し付けられた。

 別に異論は無いが、一人で運べるギリギリの大きさだ。

 うん、地味に大変そう。


「OK。…人使い荒いな」

「篠山、体力あんじゃん。いけるいける」


 軽く流されて、苦笑しながら持ち上げる。

 別に重さはそうでもないのだが、乾いてないスプレーに触れないように持って行くのに神経を使うのだ。

 さほど遠くもない場所なのだが、運び終えた時にはちょっと手が痛くなってた。

 周りのヤツらに知られたら、なんとなくカッコ悪いので、誤魔化すように手をぐるりと回す。

 黄原が言ってた木に立て掛けてある板の方へ行こうとした時、ふと、違和感に気付いた。

 木の葉っぱの隙間から、制服である紺色のブレザーが覗いていた。

 下に行って見上げると、木に腰かけて寝ているっぽい。


「…サボリか」


 別段、咎めようと言う気は全くないが、場所がな。

 ここにいられると、降りる時に乾かし中の板が危なそうだ。

 心持ち大きな声で呼び掛ける。


「おーい、ここの下荷物とか置くから危ないぞ。悪いけど、今のうちに降りてきてくんねえ?」


 上の方であくびの音が聞こえる。

 数秒後、がさがさと音がしたと思うと、すたっと地面にそいつが着地した。

 おおっ、殆ど音もしない。運動神経良いな。

 着地の仕方に感心しつつ、視線を上の方に移してちょっとびっくりした。

 珍しいなあ。

 そいつの髪は、実に派手な明るい金髪だった。

 眉毛とかは黒いから染めてるんだろうが、うちの学校はお金持ち学校なだけあり、固い家柄のヤツとかもけっこういる。

 そのため、校風は割りと緩いのだが、そこまで派手な髪色にするヤツはあまり多くない。

 けっこうチャラい見た目な黄原も髪色はせいぜいライトブラウンといった感じだ。

 まあ、顔がいいせいで、無駄に似合っているが。

 イケメンは得である。

 そいつは再び大きくあくびをすると、


「悪いな」


 とだけ言ってさっさと歩いていってしまった。

 なんかちょっと引っ掛かるものを感じたが、ま、いっかとそいつのことを流して板を持って教室に向かう。

 一年生の教室の辺りに差し掛かった時、声を掛けられた。


「あ、篠山君じゃない。久しぶり!」


 振り返ると暁峰が立っていた。

 夏休みの始めに黄原の家に行って以来である。

 友達と一緒に荷物を運んでいたようで、両手に荷物を持っている。


「あ、久しぶり。そう言えば、黄原とはどんな感じ?」


 無事、仲直りは出来たのだろうか。


「ああ、大丈夫。事情は深く説明せずに、咲姉巻き込んだから。智に勝ち目ある訳ないわよ」


 クスクス笑いながらの答に、ちょっと遠い目になる。

 あのお姉さんはなかなかに強烈だった。

 あれを相手にしたら、黄原に勝てる訳は無いだろう。

 しかし、吹っ切ったら、すぐにその行動とは。けっこう強かだな。

 すると、近くにいた女の子がわくわくした感じで声をかけてきた。


「ねえねえ、仲良さそうだけど、どういう関係?」


 呆れた顔で暁峰がその子を振り返る。


「馬鹿言わないの! 幼なじみの友達よ」

「なんだ。クラスのマドンナに、彼氏登場だと話題性充分だと思ったのに」

「……あんたに言われてもねえ」


 暁峰がなんか微妙そうな顔をするが気持ちはなんとなく分かる。

 その子は暁峰に負けず劣らずの綺麗な容姿をしていた。

 下の方で二つに纏めた髪などは真面目そうな印象なのに、表情や興味深そうに輝く目から茶目っ気のある印象を与える。


「ふふ、ごめん、ごめん。どうも、私は、染谷そめたに りんって言います。はじめまして」

「あー、はじめまして。篠山 正彦って言います」


 すると、ふと思い出すような顔をして首をかしげた。


「篠山って特待生の?」

「そうだけど」


 答えると、キラキラした目で見られて、ちょっとたじろぐ。


「おおっ、あのすごく頭良い特待生の篠山君か! 初めて見たよ。もっと、真面目! な子だと思ってた!」


 そう言って褒められるが、ちょっと疑問だ。


「えっと、成績とか特待生とか何処で知った? 学校公表してないよな?」


 うちの学校は成績の張りだしとかは一切行わないし、特待生とかも基本的に言うことはない。

 学校側の配慮だろうな。


「ああ、私も一応特待生だもん。先生との面談の時、特待生で一番成績良い人って言ってたから、覚えてたんだ。すごいよね。私、風紀委員やっての内申点補填有りでギリギリだよ」

「あー、なるほど」


 うちの学校の特待生には、幾つか種類がある。

 よくある学業面かスポーツ面で優秀というものと、もう1つ。

 学校貢献というものだ。

 中学校でそれなりの成績取って、尚かつ、高校で学校に貢献する何かをやって内申点を稼ぐというもので、他の特待生よりけっこう成績とかに融通がきく。

 そのぶん申請が大変だし、かなりの勢いで雑用に駆り出されるらしいが。

 因みに、俺は無難に学業面での特待生だ。


「へー、そんなに頭良いんだ、篠山君」

「そんなでもないと思うけど」


 俺は前世からの積み重ねと言うズルがあるが、貴成はそんなもん無しに俺よりもすごい。

 ああ言うのを本当に頭良いと言うと思う。


「あはは、なるほど。あ、そう言えば、黒瀬見なかった?」

「黒瀬?」

「あ、そっか、知らない? 明るい金髪の男子。同じクラスなんだけど、授業あんまりにサボるから成績はいいけど追試らしいのに、消えちゃって先生探してるんだよね」

「あー」


 思わず声が漏れた。

 やたらとキラキラしい顔。派手な見た目にちょっと引っ掛かったが。黒瀬・・、名前に色が入ってる。

 攻略対象者か!


「あ、どっかで見た?」

「…さっき、裏の大きい楓の木の所で昼寝してたぞ」

「あ、ありがとう。荷物置いて、探してくるね」


 今にも駆け出しそうなその姿に、思わず尋ねる。


「わざわざ探してやるのな」

「んー、なんかこれ以上、先生怒らすと黒瀬大変そうだし。それに」


 力を込めてこう言った。


「先生にアピールして内申点稼がなきゃ!」


 あまりにきっぱりと言い切るので、なんか逆に清清しいな。


「じゃあね、ありがと!」


 さっさと、手を振って行ってしまった染谷を、暁峰が呆れた感じで追いかけて行った。


 うん、なんかすごい子だったな。

 ちょっと、苦笑いしてから、教室に急いだ。



 









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