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状況説明です

「ごめん、咲姉。お菓子、どれ出していいの?」


 とてつもなくマイペースにお茶をいれて来た暁峰のその言葉で、黄原姉弟のプロレスはようやく終わった。


「あ、そう言えば、仕上げだけ終わってない状態だったわね。ごめん、夕美ちゃ、いや、智之手伝って」

「え、なんで俺? 来てるの俺の友達なんだけど」

「ハンドミキサー、さっきから調子悪いのよ。生クリーム緩く泡立てるだけでも、男の方が早いでしょ」


 そう言われると、仕方なさそうな顔して立ち上がった。


「ごめん、ちょっと手伝ってくるね~。くつろいでて」


 黄原姉弟がリビングから出ると、暁峰が飾り棚から写真立てを持ってきた。

 なんだろうとそれを見ていると、にっこり笑って、


「状況説明をしようと思ってさ。さっきの様子だと、あいつ言ってないみたいだったし。気になるでしょ、咲姉の異様な喜びの理由とか」


 と言った。

 それって、あの挨拶練習とかの話だよな…。

 家に誘われた時も思ったけど、あまり広めたい話ではなさそうだけど。

 そう思って、暁峰の方を見ると、視線や表情でわかったのか、


「いや、智のプライドより、そこの二人の意味不明感を少しでも取り除いてあげた方がいいでしょ。もう、家に呼んじゃった時点でしょうがないって諦めるべきだから」


 と言った。

 思わず深く頷いて同意する。いや、改めて考えると、白崎や貴成からしたらものすごく意味不明だしな。

 そして、手元に握りこんだ写真立てを見下ろしてから話し始めた。


「今はなんとか取り繕ってるかもしれないけど、智ってさ、元々ものすごく人見知り激しいのよね。慣れない人だと、緊張しちゃって、何にも話せなくなるくらい。そのせいで、それがもっと激しかった幼稚園の時に、女の子たくさん泣かせちゃって。それに怒った咲姉の指導によって、今では女の子相手ならどうにかなるんだけど、男子相手は今でも駄目で。しかも、女子モテもスゴいもんだから、男友達がずっといなかったのよね。……んで、高校こそはって思ったみたいなんだけど」


 写真立てをひっくり返して、俺たちに見せた。


「中学生の智です」


 黒髪の爽やかなイケメンがそこに写っていた。チャラさなんてどこにもない、いっそ真面目そうな容姿。

 今の茶髪で、軽そうな容姿とは驚くほどかけ離れていた。

 高校デビューとは知ってたけど、え、ここまで!?


「…ずっと、真面目だったのに、高校受かった直後に茶髪にしてさ。まあ、この時点でかなりびっくりしたんだけど、普通に高校デビューかなと思ったのよね。…でもさぁ」


 深く深いため息が漏れた。


「鏡の前でひたすら百面相、十時間。誰もいない部屋で、ひたすら挨拶し続ける。もしくは、口調を変えるためなのか知んないけど、ハイテンションで喋ってる。チラシの裏に、友達が出来た時のあだ名候補をひたすら書いてある。もっとオシャレにって、ファッション雑誌読んで、結果的にチャラ男になる。友達が出来た時に行くために、ありとあらゆる場所を1人で行ってみる。…私、ゲーセンの二人用ゲームを1人でやるのは違うと思うの」


 遠い遠い目でつらつらと語ってから、大きく息を吐いて続けた。


「以上、智の家と私の家で共有された奇行の数々でした。……努力は認めるけど、努力の方向が明後日過ぎんのよ、あの馬鹿!」


 ちょっと沈黙が降りた。

 挨拶は知ってたけど、そっか、他にもあったのか。そういや、すぐに呼ばれたな、あのあだ名。用意してたのか。

 白崎を見る。とても優しい目をしている。

 貴成を見る。滅多に見ないような穏やかな顔だ。

 俺も頷く。黄原、お前、残念過ぎんだろ!


「…咲姉の異様な喜びの理由がわかったかなと思うので、智のフォロー、ちょっとだけするわね」


 俺らの顔を見て、クスクス笑っていた笑顔が曇ったような気がした。


「智がさ、あそこまで必死に友達づくりしようとした切っ掛け、多分だけど、一部は私なのよね」


 写真立てをいじりながら、少し苦笑する。


「さっきも言ったみたいに、智の人見知りってひどかったからさ、中学の終わりまで殆ど私といたのよね、アイツ。私も、面倒掛かる弟みたいに思えちゃってたし。だけどさ、んー、智って一応見た目はイケメンだから、モテるのよね。そしたら、私のこと気にくわない人もいるわけでして。嫌み言われてる時に、智とかち合っちゃったのよ」


 …それは、キツいな。

 

「まあ、私、智と違ってコミュ力普通だから、友達とかもいっぱいたし、嫌いな奴に何言われようと気にしないから問題無いのよ。だけど、それ以来、学校じゃ徹底的に避けられて、あの明後日な努力しまくり。本人否定するんだけど、ちょっとあれのせいかなって思っちゃうのよね」


 ……だろうな。

 黄原は大事な人が自分のせいで理不尽な目に会うのを放っておけるような性格ではない。

 暁峰に頼らずにいいように頑張ったのだろう…、やった行動は残念だけど。


「高校でもそれが続いてたから、友達づくりどうなってるか、わかんなかったのよね。でも、普通に仲良さそうな友達できてて良かったわ。それに」


 俺の方を見てニヤリと笑う。


「篠山君辺りは、智の残念結構知ってたみたいだし。安心して保護者任せられるわ!」

「おい、保護者て」

「いや、私のポジションは保護者でしょ。ま、と言う訳で、私は名実共に保護者卒業って訳でして。さっきの話でわかったと思うけど、行動と言うか思考回路は死ぬほど残念だけどいい奴だから。智をよろしく。じゃあね~」


 明るく笑って、手を振りつつ立ち上がる。

 何か言いたいような気もしたが、上手く言葉に出来ず、とりあえず別れの挨拶を返そうとした時、


「別によろしくされる言われはない」


 貴成が素っ気なく言いきった。

 暁峰の動きが止まり、なんとも言えない表情になった。

 白崎も少し驚いた顔をしている。

 それに気も留めず話を続ける。


「暁峰が黄原と普通に関わればいい話だろ」


 暁峰の硬直が溶けた。

 なんとなく、慌てた様子で口を開く。


「いや、でも、避けられてるし」

「俺らで、押さえられるぞ」

「いや、でも……」


 少し口ごもってから、小さな声で言った。


「……私はもういらないでしょ?」


 寂しげなその言葉に、ようやく納得した。

 ああ、そうか。暁峰の話を聞きながら感じていたのはこれか。

 明るく話す時も、暁峰はずっと寂しそうだった。


 貴成が小さくため息をつく。


「…これは、俺の話になるんだが。小学生の頃、友人が俺のせいで理不尽なことを言われているのを見て、そいつから距離をとったことがある」


 暁峰がちょっとびっくりした顔をする。

 ……黄原と同じだな。


「…そうしたらな」


 貴成が俺の方をジロリと見てきた。

 え、何?


「そんなのお構い無しに、家に突撃されて、学校ではいつも以上に構い倒されて。それが余計に申し訳なくなって、言ったんだ、俺と一緒にいたら迷惑じゃないのか、と。そうしたらな、」


 深い深いため息と共に再び口を開いた。


「『え、お前、そんな可愛いらしい性格してたの。初めて知ったわ』と、笑い飛ばされてな」


 俺の方を見ながらの言葉に、ちょっと視線を逸らすしかない。

 そう言えば、ありましたね、そんなこと。


「…まあ、そんな奴と10年以上付き合ってきた俺の言葉だが。黄原が気にするのは、仕方ない。そのために努力するアイツがいい奴なのも分かる。でも、暁峰が気にしてないのなら。寂しいと感じるなら。笑い飛ばしてやればいい話だろ」


 貴成の話を聞いて目を丸くしていた、暁峰の表情がだんだんと緩み、やがて、ぷっと吹き出した。


「それもそうね」


 軽やかに笑いながら、再び立ち上がる。


「んじゃ、そのうち、突撃しに行くから、また、今度ね!」


 そう言って、軽やかに出て行った。


 そして、途中からずっとクスクス笑ってる白崎を振り返る。


「…なんで、そんなに笑ってんの?」

「いえ」


 笑いを止めることなく続ける。


「二人は本当、仲が良いですね」


 はいはいと適当に返事を返す。

 その時、リビングのドアが開いて、ようやく黄原が顔を出した。


「ごめん! 姉ちゃんがはしゃぎまくってお菓子更に増やすの止めてたら、遅くなった。…今さらだけど、甘いの平気だよね?」


 三人でなんとなく顔を見合わせて、笑って答える。


「うん、大丈夫、大丈夫。それよりさ、黄原、夏休み中どっか遊びに行かね? 予定確認しようぜ。俺、ちょくちょく短期バイトいれてんの」

「マジ!? 行く行く! えっと、俺の予定は……、なんでみんな笑ってんの?」

「なんとなくですかね」

「なんとなくだな」


 俺も笑って同じ答えを返す。


「うん、なんとなく」















 






黄原君ルートのライバルキャラ登場回でした。

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― 新着の感想 ―
これ、主人公が原作でモブなのは友人に避けられたのがショックでそのまま疎遠になったとかなんちゃうん
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