家族は大事にしなきゃいけないのです
今日は、黄原の家に行く日だ。
黄原の言ってた通り、夏休みが始まって、すぐに決行された訳である。
と言っても、追試期間が夏休み前からあり、追試の無い生徒は早く夏休みになるという制度のおかげで、早めに夏休みが始まっているのである。
まあ、なかなかにシビアな制度と言えるが、進学校なのでこんな物なのかもしれない。
因みに、成績はテスト返し前に答え合わせした感じによると、貴成が一番良く、白崎と俺がどっこいどっこい、黄原がうっかりミスし過ぎで、俺らのちょっと下という感じだ。
と言うか、貴成はほぼ満点だった。
…学校が追試期間設けるほどレベル高いテストでそれとか、うん、本当にチート。
考え事をしていたら、いつの間にか目的の駅に着いていて、貴成に小突かれた。
「扉が閉まる。動け」
「おー、悪い」
電車から降りて、改札の前に向かう。
今日は黄原の家に一番近い駅の改札前に集合だ。
白崎が先に来ていて、軽く手を振ってきた。相変わらず早い。
「こんにちは、篠山、赤羽」
「ああ」
「こんちは。お前、早いよな」
「そうでもないですよ」
そう言ってから、俺ら二人を見てクスリと笑う。
「二人はいつも一緒に来ますよね」
いや、まー、そりゃ
「家、隣だしな。一応」
「だな」
貴成の家は高級住宅地にあるがとてもデカイ。
そのせいで、裏口が高級住宅地の外れに有り、そこは俺の家からすぐそこだ。
貴成は高級住宅地の中を突っ切る必要のある表の入り口が好きではないらしく基本裏口を使う。
行き先一緒、移動手段一緒となると普通に出る時間被るのだ。
女子のようにわざわざ待ち合わせたりしてないぞ、流石に。
まあ、時々寝坊した時とかは貴成が起こしに来てくれたりするが。
……あれ、これはよくあるギャルゲーとかの幼なじみのテンプレ……。
いや、考えるのはよそう。ちょっと、男友達と何やってんだって虚しくなる。
そんなことを説明したりなどしたりして、時間を潰してたら黄原がやってきた。
俺らを見て転けそうなほど急いでいる。
集合時間には、まだなってないから大丈夫なのだが。
「ごめん! 遅れた!」
「いや、大丈夫だぞ」
「ですね。まだ、5分前ですし」
「だな。それよりも落ち着け」
時計を見て、本当だと驚いたような顔をしている。
「家出る時、ドタドタしてて時計見る時間無かったから絶対遅れたと思ってたよ。じゃあ、家に案内するね。」
黄原の家は駅から十分くらい歩いた所にあった。
貴成の家のようにthe豪邸という感じではないが、オシャレなデザインで結構大きく立派な家だ。
しかも、隣の家と調和して更に洗練された感じになっている。
「カッコいいな。……隣の家と合わせたデザインなのは気のせい?」
「あー、隣の家も俺の家も親父デザインなんだよ。なんか昔からの友人で家建てる時期が重なったから、こんな感じになったらしいよ。家族ぐるみで仲良いしね」
「へー、すごいセンスいいな。カッコいい」
「黄原と言えば、有名な建築デザイナーだしな」
「そうですね。確か、海外からも注文を受けるほどの方らしいですし」
貴成と白崎に説明されて、なるほどと頷く。
これを見れば確かに納得である。
流石、黄原が攻略対象者なだけあるわ。
「家では、普通の親父だけどね。………じゃあ、家に入るけどさ。…………先に謝っとく、ごめん」
思わず、は? と言いそうになった俺らに構わず、ドアを開けた。
「姉ちゃん、ただいまーー」
家の奥の方から、走ってくるような音がして、女の人が顔を出した。
20才くらいだろうか。何故か酷く強張った顔をしているが、黄原の姉なだけあり、華やかな顔立ちの美人さんだ。
挨拶しようと口を開いた時、いきなり出てきたお姉さんに手をガシッと捕まれて驚く。
「あ、あの」
一瞬、パニックになり慌てて声をかけるが、それには構わず今度は自分の頬を思いっきりつねった。
思わず、後ずさる。ごめん、意味わかんねえ。
ひきつった顔で彼女を見守っていると、ポツリと呟く。
「痛いわね、…うん、痛い、夢じゃない」
やがて、じわじわと顔の強張りがほどけ、満面の笑みになり、こう叫んだ。
「………存っ在したーーーーーー!!!!!」
思わず、黄原の方を振り向く。
諦めたような顔で、小さくごめんと呟く黄原に思いっきり突っ込みたくなった。
お前、本当、家で何した。
 




