気付くことがありました
茜坂先生に絡まれて少し遅くなってしまったので、急いで教室に戻った。
多分、貴成、帰るの待ってるだろうしな。
教室のドアを開けると、
「篠やん、掃除お疲れ~! じゃ、行こっか!」
黄原にテンション高く声をかけられた。
見ると、白崎も貴成といっしょにいて、二人にもお疲れと声をかけられる。
あれ? なんか、用事あったけ?
…可能性はあるな。俺、朝とか考え込んでたし。
「お、おう。」
とりあえず、笑顔で頷いておく。
とりあえず、合わせる。これ、大事。
「…正彦、朝の話聞いてなかっただろ」
ソッコー貴成にバレた。半目で睨まれる。
うん、ごめん。
そういえば、昔っからお前にはすぐバレてますね。
「ごめん。朝、考え込んでて聞いてなかった。…何の話?」
「ったく。白崎が図書室に詳しいと言うし、俺達はあまり行ったこと無いから案内してもらおうという話だ」
あー、そんな話してたような。
うん、普通に失礼だから、今度から気を付けよう。
「あー、ごめん」
「いえ、いいですよ」
「うん。気にしないから、行こ~」
二人にも謝ると、朗らかにそう言われる。
…お前ら、本当いいヤツ。ガチごめん。
図書室に着くと、黄原が、おー、と小さく歓声をあげる。
どうやら、本当に初めてらしい。
貴成は、俺について来たことがあるので、そこまでの驚きは無いが、白崎にお勧めなどを聞いている。
白崎、本当に色々な本知ってるもんな。
俺も読む方だが比べものにならない。
さて、俺もなんか読む本探すか、と図書室を見て回ろうとすると、
「あ、篠山君。借りてる本が一冊、期限今日までだけど、持ってます?」
司書の先生に声をかけられた。
あ、そういえば、あれまだ返してなかったか。
確か、後で図書室行こうと思ってロッカーにいれたまま忘れてたわ。
「すみません、ロッカーにいれたままなので、取ってきます」
「わかりました。気を付けてくださいね」
貴成達に声をかけて、教室の前のロッカーに向かう。
教室に向かう廊下を歩いていると、
「あ、篠山君。こんにちは」
振り返ると香具山さんが立っていた。
相変わらず、見た目は楚々とした文学少女である。
本当に、人は見た目によらないな、と考えながら挨拶を返すと、にっこり微笑まれた。
「…なんか、良いことあった?」
挨拶してきてから、ずっとニコニコしてたので聞いてみる。
「あ、分かっちゃいました? あのですね、すっごく可愛い女の子と友達になったんです!」
そりゃあもう嬉しそうに笑いながら、報告してくれた。
うん、あなたも可愛いと思います。
「なんか、悩み事相談? みたいなことをしたんですけど、その時の反応が可愛くて。言われたことに涙目なったかと思えば、真剣な顔して頷いて、終わった後に、嬉しそうにお礼言ってくれて。表情がすごくよく変わって、素直で可愛くて、いい子なんだなって思ったんです。だから、終わった後に友達あんまりいないから、友達になってなんて言っちゃて」
最後の言葉に、ん? と思ってしまったのが分かったらしい。
恥ずかしそうに笑いながら、
「…本当は、普通にいますよ? だけど、素を出した上で仲良くしてくれそうだったから、絶対友達になりたかったんです。だから、つい」
と言った。
うん、安心しました。
「まあ、良かったな」
「はい。本当に可愛いんです。多分、篠山君もあの可愛さに気付いたら、好きになっちゃいますよ」
その言葉に、思わず苦笑しながら、はいはいと頷くと、香具山さんははしゃぎすぎていたのに気付いたようで、恥ずかしそうに黙った。
「じゃあ、また」
「おー、また」
香具山さんと別れてから教室前のロッカーに行き、本を取り出す。
さて、図書室に戻ろうと思い歩き出すと、
「篠山君!!」
呼び止められて振り返る。
そして、驚いた。
桜宮が息を切らして、そこに立っていた。
「…あ、えっと、どうした?」
「…あ、のね、…篠山、君に言い…たいこ、とが」
「ごめん、桜宮。息整えてからしゃべって。ゆっくりでいいから」
息を切らしながら話しているため、途切れ途切れの言葉に思わずつっこむ。
必死に息を整えてる桜宮に、思わず首を傾げた。
最近避けられまくっていたし、こんなに必死に言いに来るようなことがあると思えないのだが。
ようやく、落ち着いたようで顔を上げた桜宮に問いかける。
「大丈夫か? なんでそんなになってんの?」
「あ、図書室から走って来たから」
「え! 本当になんで?」
ウチの教室から図書室までは地味に遠い。
桜宮は運動神経はあまりよろしく無いようだし、走るのは大変だっただろう。
「朝、黄原君達が、図書室に行こうって話してたの聞こえたから、白崎君と篠山君もいると思って。行ってみたら、白崎君は居たけど篠山君いなかったから」
「…そのまま、待ってれば良かったんじゃない?」
「ううん、少しでも早く言いたかったから」
そう言って、まっすぐ俺を見る。
「白崎君に謝ってきたの。…考え無しに自己満足押し付けてごめんなさい、って」
その言葉に思わず、目を見開く。
「…白崎君は、そんなこと無いって言ってくれたし、多分そう言うんだろうなって思ったんだけど。でも、言うべきだって思ったの」
一瞬だけ決まり悪そうに目線を逸らしたが、また、まっすぐ視線を向けてきた。
「自分は良いことしてるんだって自信満々に、自覚無しに白崎君にひどいことをしてたの気付いたから。…病気なのは、辛いの自分も周りもだって知ってたのに、それすら気付いてなかったの」
その言葉に思わず、ほっと息を吐く。
良かった、気付いてくれたんだ。
「そして、篠山君にも」
「…俺?」
最近、避けられていた以外に彼女に何かされた覚えはない。
「…私が、駄目駄目だったの、教えてくれたのにひどいこと言った。…本当にごめんなさい。そして、ありがとうございました」
その言葉に思わず、ぽかんとその顔を見つめてしまう。
そうして、無言になった場の状況に段々と耐えきれなくなってきたのか、桜宮が顔を逸らし、
「え、えっと、そんな感じです」
と言って、ぺこりと頭を下げ、……………振り返って歩きだそうとした所で、教室のドアに足をぶつけた。
ガンッ、となかなか大きい音がして、桜宮が声もなく悶絶して足を押さえる。
「……………」
「……………」
更なる沈黙が降りた。
「………ぷっ」
何故だか段々おかしくなってきて、吹き出してしまった。
そのまま、笑いを止められず笑いだしてしまった俺に、桜宮は顔を真っ赤にして、
「と、とにかく、ごめんなさい、ありがとうございました! それじゃあ、さようなら!」
脱兎のごとく逃げ出した。
そのまま、笑いながら呟く。
「あー、そういうことか」
桜宮がどんな性格かわからなかった理由がなんとなく分かった。
ここは乙女ゲームの世界で、彼女は、桜宮桃だ。
俺は、気にしないと言いながらも、そういう風にあいつを見てた。
だけど。
同級生の俺に、説教くさいこと言われて、腹をたててしまうのは当たり前なのに、ちゃんと自分で考えて。
そして、有耶無耶にせずに、白崎に、…攻略対象でも何でも無い俺にも謝りにきた。
つまりは、まあ、
「結構、良い子じゃん」
攻略対象者として見るなと言いつつ、俺もあいつのことヒロインとして見てた。
俺だって、本当にまだまだである。
笑えないのに、何故か止まらない笑いを必死に止める。
「…戻るか」
あまり遅いと貴成達が心配する。
そう呟いて、図書室に小走りで駆けて行った。
翌日、登校すると桜宮と目があった。
なんとなく気まずそうにしながらも、前のようにこう言った。
「…おはようございます、篠山君」
最近無かった挨拶に、少し笑いながらこう返す。
「おはよー、桜宮」




