ヒロインに物申します
お久しぶりでございます。
無事合格しましたが、なんか色々と忙しく更新遅くなって申し訳ございません。
また、読んでいただけると嬉しいです。
ちょっとシリアス回です。
授業が終わった後、桜宮に声をかける。
「桜宮、HR終わった後にちょっとだけ話せる?」
「…えっと、別にいいけど。赤羽君と帰らないの?」
「アイツは、今日から掃除当番だから先帰っていいって言われてんの。じゃあ、校舎裏の記念碑の横で」
「え、あの、なんの用事…」
桜宮が聞こうとした瞬間に、成瀬先生が入ってきたので、慌てて前を向く。
ちらっと、桜宮を見る。
勉強が苦手で、ミーハーでイケメンに弱いけど、それなりにクラスに溶け込んでいて、女子の友達もそれなり沢山いるクラスメート。
…気のせいだったら、いいんだけどな。
HRが終わった後、荷物を片付けて2人で校舎裏に向かう。
記念碑の周りは、石畳になっており、雑草が生えにくいので、秋に落ち葉が大量に出ない限り掃除する人がいない。
そして、記念碑の後ろに行けば人目も着きづらい。
…まあ、ぶっちゃけ言って、告白スポットとして有名なので先客が居れば大抵の人は気を使って避けるという場所だ。
はい、正直言って、恋愛感情持ってない女子呼び出すのに使いたくなかったです! まあ、しょうがないが。
何から話そうと迷っていると、居心地悪そうな桜宮がおずおずと口を開く。
「…えっと、あの、篠山君。よ、用事って」
「あー、安心してくれ告白じゃないぞ」
そう言うとほっとした顔をする。
…桜宮、露骨に顔に出し過ぎです。まあ、いいけどさ。
「ま、意味わかんないかもしんないけど、真面目な話」
そう言うと不思議そうな顔をした。
「桜宮さ、白崎が体弱いの知ってるよな?」
「え、うん。もちろん。クラスメートだし」
「…俺、席近いじゃん。だから、白崎と桜宮の話、よく聞こえたりするんだけどさ。…白崎によく言うよな。待ってるから、絶対に明日、学校来てね、って」
「あ、うん。私、白崎君とクラスメートとして仲良くしたいし」
にっこりして言う桜宮に内心で苦笑いをする。
「…それは、白崎が体弱いせいで、休みがちなの考えて言ってる? 白崎が学校休んだら、その約束を気にするってことも。もし、約束守ろうと頑張ったら、体調滅茶苦茶悪化するってことも」
「…え」
「もし、気付いてなかったなら、アイツそういうの滅茶苦茶気にしちゃうから、気をつけてほしいんだよね。でも、もし、漫画とか小説とかに影響されてそういうこと言ってるなら止めた方がいいと思う」
単に軽い口約束のつもりなのかもしれない。
でも、学校休んだせいで、駄目になってしまった約束っていうのは少なからず気になるものだろう。
まあ、普通は、数日後に果たせばいいものだが。
でも、白崎は明らかに約束を守ることに固執していた。
無表情が出てしまうほどに体調悪くても、無理してしまうほどに。
普通、おかしいのは白崎で、何の気なしに約束を言っている桜宮は悪くないのだろう。
でも、知っていて言っているなら。
講演会の時、深く考えずに流してしまったが、紫田先生が担当って知っていたのはやっぱりおかしいのである。
もし、桜宮が俺と同じ転生者で、白崎のトラウマを知っていてそれを利用して仲良くなろうとしているなら。
体の弱いクラスメートという人間としてではなく、攻略対象者というキャラとして見てるなら。
それは駄目だろうと思うんだ。
だって、これは現実だ。
ゲームでは、数行のセリフで終わってしまう倒れてしまった事実も、倒れた白崎はとても辛いし、体調だって更に悪化させているのだ。
白崎も、白崎の家族も、周りの人を巻き込んで、辛いんだ。
「…どういう、こと?」
「物語と混同しない方がいいってこと。現実は物語のように上手くはいかないもんだし。な?」
ぽかんとした桜宮に、なるべく優しげに見えるように笑いかける。
「…何よ、それ。変なこと言わないでよ! 地味顔、背景溶け込み男のくせに! 意味わかんない! ばーか!」
そう言うと、走って行ってしまった。
「案の定…か」
もし、気付かず言ってしまっていただけなら、怒るだろうし、転生者なら、素直に認めて言うこと聞くはずなんて無い。
でも、もし、これで気をつけてくれるなら、ちゃんと俺達と俺の大事な友人を人間としてみてくれるなら。賭けてみたかったのである。
「乙女ゲームに関わんないが、本当に行方不明だなあ」
思わず苦笑してしまうが、俺の人生、好きなように生きると決めているのだ。
しょうがないだろう。
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走って、その場から遠ざかり、人気がいなくなったところで思わず座り込んだ。
「何よ、ばかー」
思わず、呟く。
白崎君のルートは、白崎君の過去がとても関係している。
白崎君は、体が弱くて、学校も休みがちで周りから少し遠巻きにされていたが、親友がいた。
だが、その親友が親の都合で海外に引っ越すことになり、その直前に約束をする。この町で俺が一番好きな景色を見せてやるから、引っ越しの前日いつもの公園で、と。
白崎君は、絶対に行くつもりでいた。
しかし、その日に限って体調が悪かった。それが家族にばれたら、出かけることさえさせてもらえないと、出かけることさえ家族に隠し、家を抜け出して公園に向かうが途中で倒れてしまう。
白崎君が目を覚ました時には、もう翌日で、親友は飛行機に乗ってしまった後だった。
携帯を見ると、沢山の着信と一件のメールがあった。
そのメールには、こう書かれていた。
『来れなくなったなら、せめて連絡くらいしてくれよ。大事な約束も守れない、お前なんて親友じゃない。嘘つき』
ちゃんと謝れたなら良かったのだが、海外に引っ越すにあたって、その子からのメールで新しいメールアドレスなどを知らせるということになっていたので連絡も取ることが出来なかった。
その時から、白崎君は約束というものに固執するようになる。また、破って嫌われてしまわないように。
白崎君のルートでは、約束という言葉をなるべく選び、ちゃんと待ってるし、もし守れなくっても大丈夫という姿勢を示すのがポイントである。
そして、日本に帰って来ていたその子と和解させるのだ。
私はそれを知っているのだ。
白崎君が、その子と和解するシーンはよく覚えている。早くさせてあげたいと思って何が悪いのだ。
現実は物語のように上手くいかない、なんてことは無い。
ちゃんと私は、上手くやれている筈だ。
皆がしっかりと幸せになれる逆ハーエンドをちゃんとつかみ取れる筈なのだ。
だけど、頭がぐるぐるする。
篠山君は、やっぱり何かを知っているのだろうか、ひょっとして、何かやらかしてしまっているのだろうか。
「何よ、篠山君の馬鹿」
もう一度、呟いて立ち上がる。
早く家に帰ろう。
家に帰って、のんびりして、いつも通りに頑張るのだ。




