語ってみました
お、お久しぶりです。
受験生真っ只中なのですが、文化祭中で勉強する気が起きないので、ついでに執筆活動してみました。
また、ものすごく空きます。詳しくは、活動報告で。
「重度の貧血ね~。無茶しちゃ駄目よ」
保健室に連れていくなり、白崎は茜坂先生に問答無用で寝させられた。
それ見たことかというような香具山さんの視線が向けられたのは俺じゃないけど痛い。
「うーん、この時間だったら、早く帰って休んだ方がいいわね。あまり歩かない方がいいんだけど、家に誰かいる?」
「…母が」
「じゃあ、ちょっと職員室で電話してくるわね。連れてきてくれた二人はありがとうね」
そう言って、茜坂先生はニコッとこちらに笑いかけて、保健室を出て行った。
にしても、この前との別人さがとてもヤバいんだが。どこで切り替えてるだろう。
思わず、そう考えこんでしまった時に、
「白崎君」
なかなかに冷たい声に現実に引き戻された。
絶賛、お怒り中の香具山さん、めちゃ怖いんだが。
「すみません、倒れてしまって、迷惑かけましたね」
「そこじゃ無い」
「はい?」
「私は迷惑かけられたとか、そんなことじゃなくて、苦しいとか、体調悪いとかそういうことをちゃんと言わなかったことに怒ってんの! その口は何の為に付いてるの? それくらいちゃんと言いなさい!」
うっわ、保健室だからか、声は大きく無いのにド迫力。
女子を見た目で判断するのもう止めようと決意して、怒られてビビってるだろう白崎を見た。
「え?」
思わず驚く。
白崎は、ビビってるとかそういう感じではなく、何とも言えない苦笑いを浮かべていた。
「…そうしたら、約束守れないでしょう?」
その言葉に香具山さんが、表情を変える。
「そういうことを言ってるんじゃ無いでしょう!!」
枕元まで詰め寄って行って怒鳴る香具山さんを慌てて止める。
「ちょっ、相手病人なんだから、落ち着いて」
「だって、そういうことじゃ無いでしょう?!」
「…随分、賑やかね?」
いつの間にか戻って来ていた茜坂先生が苦笑しながら、入り口に立っていた。
「心配なのは分かるけど、うるさくしたら体に障るわよ。今日は、もう帰りなさいね。篠山君、送ってあげなさい」
「すみません、でも…」
少し落ち着いた香具山さんが白崎にちらりと目をやりながら口ごもる。
それを見た茜坂先生は真剣な顔をして、
「…ひょっとして、篠山君と2人っきりは嫌?」
「へ?」
「ちょっと、篠山少年、いくらモテないからと言って女の子に変なことしちゃダメでしょう!」
「ちょっ、そんなことする訳無いでしょ! つーか、いきなり何の話ですか?!」
「地味なフツメン、三つ編みがキュートな文学美少女。二人の間に何か問題があるなら、全て地味なフツメンが悪い!」
「理不尽! 何様だよ!?」
「かおるちゃんです!」
白崎も香具山さんもポカンとしていたが、香具山さんがハッと我に帰る。
「い、いえ、篠山君に何も問題はないです!」
「なら、問題無いわね。気をつけて帰ってね」
にっこり笑う茜坂先生に、何が目的でこんなことをやり始めたか気づいた香具山さんはばつが悪そうな顔をして頷いた。
「じゃあ、白崎君。お大事に」
「はい。篠山君も香具山さんも今日はありがとうございました」
「おお、お大事に。白崎」
「はい?」
「香具山さんと同じことは俺も思ってるからな」
何とも言えない顔をした白崎に手を振って保健室を出る。
あまり人気の無い廊下を二人で歩く。
ポツリと香具山さんが口を開いた。
「今日は、頭に血が上っちゃってすみません」
「あ、うん。びっくりしたけど、別にいいよ」
「二回目なんですね、白崎が倒れるの見るの」
その言葉に驚く。香具山さんは、ため息混じりに言葉を続けた。
「前は図書室に行ったときに、偶々だったんですけど、その時も大丈夫ですばっかり言って。私、その時から白崎君のこと、」
言葉の途中に小さく息をこぼす。
俯いていた顔を上げて、再び口を開いて、
「…スッゴいイライラするんですよね」
「…イライラ?」
「はい。イライラしません? 何を気にしてるのか知りませんけど、何かあるならさっさと言えばいいのに」
うん、話の流れを勝手に想像した俺が悪かったのかもだけど、続いた言葉にびっくりです。もっと、こう、恋愛っぽい言葉がくると思っちゃったよ。
「まあ、私みたいに思ったことなんでも言うような人ばっかりじゃ無いのはわかってるんですけどね。篠山君もこんなのだと思わなかったでしょう? 性格キツい自覚はあるので、普段はなるべく大人しくしてるんです。なんですけど、時々、暴走しちゃって」
はあ、とため息をつく。
そのまま、無言で歩いていると昇降口についた。
「それじゃあ、また」
「ああ、また。送んの大丈夫?」
「まだ、明るいですし、家も近いんです。それに、私合気道有段者なんで」
にっこり笑う。…うん、勇ましいな。
出る門が違うので、昇降口のところで別れる。
「香具山さん」
声をかけると振り向いた。
「まあ、確かにすっげえ怖かったけど、白崎のことすごく心配してたのは俺にもアイツにも伝わってるから」
そういうと、くすりと笑って軽くおじぎをした。
香具山さんを見送ってから、歩き始める。
…また、乙女ゲームに首突っ込んでるのかねえ、これは。
「ま、いっか」
俺はやりたいことやってるだけである。
次の日、少し早めに学校に来た。
教室で予習をやっていると白崎が入ってきた。
やっぱり、来る日は早いな。
「はよ、白崎」
「おはようございます、篠山君」
「ちょっと話あるから、教室出てもいい?」
「…はい」
苦笑いで頷いた白崎を連れて、朝は人が来ない教室に移動する。
「昨日のお説教の続きですか?」
…そういう笑顔で眼鏡を直すんじゃ無い、腹黒に見えっぞ。おっと、思考がずれた。
「いや、怒るって訳じゃない。ただ、言いたいことがあっただけ」
不思議そうな顔をした白崎に言葉を続ける。
思ったことが間違ってるかもしれないし、独りよがりなお節介かも知んないけど。
『お前、また今度、また今度って言って、全然俺らとの約束守んないじゃん。俺らと遊びたくないなら、もういいよ!』
忘れらんない前世の記憶。
俺がまだ小学校低学年の頃、家がゴタゴタしてて、妹は本当に小さくて。遊びたかったけど、毎日早く家に帰った。
その時に友達にそう言われた。
今なら、小学校低学年のガキに同級生の複雑な事情を悟れって無理あるし、ソイツも俺と遊びたかったのかなって思えるけど、言われた時は辛くて悲しかった。
白崎は病弱で学校休みがちで、近寄り難い見た目のせいで遠巻きにされているけど、いいヤツだと思う。似たようなこと言われてきたならどうにかしてやりたい。そう思うから。
「小さい頃ってさ、あんま周りの事とかさ本当にはわかんないだよな。それにわりかし、今日や明日のことしか実感が湧かねえの。だから、また明日とかの約束って大事だったりすると思うんだ」
驚いた顔した白崎にちょっと笑って続ける。
「でも、俺たちは、もう高校生だろ? ラインとかもあるし、また今度って言われたら、結構待てんの。それに、それくらいで俺は、いや、香具山さんも、それに黄原たちだって友達止めたりしねえからな」
うん、ちょっと語ってしまった。
視線を軽く逸らす。ヘタレという無かれ。これが勘違いだったりしたら俺はものすごくイタい。
「ぷっ。ははははは!!」
「はい?!」
急に白崎が笑いだした。それも、今まで見たことも無い程の爆笑。
怖いって感じるの俺だけ?
「す、すみません。いえ、自分に笑えてきまして。小さい頃の事をいつまで引きずってんだと。…そうですね、もう高校生になってましたね」
笑いを止めて、こちらに向き直る。
「ありがとうございます。篠山」
あーあ、そういう笑顔は女子に向けろよ。心の底から、嬉しそうな笑顔を見て思う。
「どーも」
まあ、今度こそ胸張って友達になれた気がするからいいか。
「そういえばさ、前から気になってたんだけど、お前時々すっげえ怖いレベルの無表情になってるぞ」
教室を出る前に前から気になっていた事を聞いてみる。
どうせ勇気出したんで、今なら重い理由でも頑張って受け止めてみよう。
「あ、なってました? すみません。昔から、体調悪いとすごく無表情になってるらしくって。怖いって言われるので、なるべく笑うようにしてるんですけど」
思わず、きょとんとする。
「理由そんだけ?」
「はい、そうですよ?」
思わず脱力してしまう。うん、まあ、普通に考えたらそんな感じか。深刻な心の傷がとか悩んでた俺が馬鹿なの?
でもまあ、結局は、
「…そんなになるまで、我慢してんじゃねーよ。ばーか」
これに尽きるわな。
すみませんと言う白崎の背中を軽く叩いて教室に戻る。
教室には桜宮とかも来ていた。
…さて、やることは後一つかな。




