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事件以上のインパクト

「白崎、昼いっしょに食わねえ?」


 そう言って、白崎に声をかけると、白崎は少し驚いたような顔をしてから、首を横に振った。


「すみません、少し用事が」

「そっか、わかった」


 そう言ってから、ペコリと頭を下げて白崎は教室を出て行った。


「うーん」


 白崎とは大分仲良くなったと思うのだが、未だ壁を作られている気がする。昼の誘いとかは、大概断るし。まあ、一人の時間が好きなだけかもしれないけど…。班に誘った時の嬉しそうな顔見る限り、そうとも言えないような、…ぶっちゃけ言ってよくわからん。


「篠やん~。空中見つめて何かあった? 地味に怖いんだけど」

「…いや、何でもない。ちょっとぼーっとしてただけ」


 黄原に怪訝な顔で呼ばれて、ハッとする。

 まあ、その内どうにかなるだろう。とりあえず、飯食べに行こう。


 






 放課後、図書室に行こうと思い貴成にそう告げて、文句言われる前に逃げる。

 …つーか高校に入って貴成の性格をよく知らない女子に囲まれるからといっしょに帰っていたが、流石にもういいだろう。朝は貴成が迎えに来るので仕方無いが、もういい加減に一人で対処してほしい。

 俺は、保護者じゃないんだぞ。

 図書室のある棟に向かう。ここの図書室はなかなかに品揃えがいいのだが、何も五階にしなくて良かったんじゃないだろうか。まあ、五階のほぼ全部図書室なので広くて嬉しいけど。

 そんなことを考えながら階段の方へ歩いていると、曲がり角で勢いよく誰かとぶつかった。


「…あ、悪い」

「いえ、私が急いでいたので」


 ぶつかった相手に謝ろうと、顔を上げ、思わずまじまじと見てしまう。

 黒い髪を三つ編みにして、眼鏡をかけた大人しそうな女の子。ただ、顔がスッゴく可愛い。両手に本を抱えていて、ぶつかったからか、ちょっと恥ずかしいそうにしている。

 つまり、文学少女と言うフレーズがとてつもなく似合う美少女である。

ちょっと謎の感動さえ覚えていると、黙ってしまった俺に不安になったのか、声をかけてきた。


「…あの、どこか痛かったりしますか?」

「いや、全然大丈夫。俺もぼーっとしながら歩いてたし、ごめんな」


 そう言うと、ホッとしたような顔をする。

 うん、可愛いらしい。ぶっちゃけ言って、美少女と曲がり角で激突とかなかなかに美味しい状況に文句なぞ無い。俺も精神年齢が高いとは言え、男子高校生、こういうのに憧れが無い訳無いのである。


「えっと、それじゃあ」


 そう言って、階段を急ぎ足で駆け上って行ってしまった。

 目的地はさっきの両手の本を見る限り同じだろうな。

 そう思いながら、のんびりと階段を上って図書室に向かう。

 この前、白崎が言ってた本を借りようと、目当ての本を探していると本棚の角の所で白崎を見つけた。

 よく来るって言ってたもんなぁ、と何気なく声をかけようとしてから、あることに気付き開いた口を閉じる。

 いや、ねえ。

 白崎は一人じゃ無くて、他の生徒と話している。

 それが、クラスの男子とかだったら普通に話しかけるだろうが。

 さっき俺がぶつかった文学美少女と話していた。

 しかも、彼女が一生懸命何かを白崎に話しかけており、かなり親しげ。

 …うん、さっきのあれで何かを別段期待した訳では無いのだが、世知辛さと言うものを噛みしめておこう。大丈夫、貴成の関係でかなり慣れている。

 まあ、とりあえず目当ての本だけ借りてさっさと退散しよう。

 何故なら、俺にはあの間に挟まれたら最後なかなかに遠い気分にさせられるだろう状況に突っ込む勇気など無い。

 運良くすぐに目当ての本を見つけ、カウンターに向かおうとした時、


「白崎君?!」


 焦ったような、図書室には似つかわしくない音量の声が聞こえた。

 とっさに、持っていた本をその場に置き、さっきの場所に走る。


「っ、おい、白崎、大丈夫か?!」


 本棚の角を曲がったところで見えた状況に、息をのむ。

 白崎が、顔色最悪な状態で本棚にもたれて座り込んでいた。

駆け寄って、声をかけると、ぼんやりとした感じで目を開いた。


「あれ、篠山君…」

「大丈夫か? とりあえず、保健室に…」

「いえ、大丈夫です。心配をおかけして申し訳ありません」


 そう言って、ずれていた眼鏡をかけ直し、立ち上がろうとする。その危なっかしい状態に、制止の言葉をかけようとした時、


「白崎君、ちょっといいかな?」


 文学少女な彼女が何故か嫌に静かな声色で話し出した。


「あ、香具山さん、おすすめの本結局駄目で申し訳ありません」

「その話は、今はいいです。とりあえず、白崎は保健室に行って休むべきでしょう? 私達も付き添うから」

「いえ、迷惑かける訳にはいきません…」

「ねえ、白崎君。私、さっきから体調悪いんだったら、さっさと帰れって何回も言ってたよね。それに大丈夫だからって、無理して倒れたお馬鹿はどこの誰だと思う? つーかな、迷惑かけたくないんだったら、大人しく保健室行って病人やってろ、これ以上心配かけるんじゃねえ、コノヤロウ」


 …沈黙が降りた。

 大人しそうな見た目で、しかも笑顔で、先ほどのセリフを言った彼女は、こちらを振り返って有無を言わせない口調で


「白崎君、了承したみたいだから、歩く時にフラつかないように付き添ってもらっていい? 私、荷物全部持つね」


 ちょっと、呆気に取られながら頷くと、彼女は白崎の方に向き直り、トドメを指した。


「白崎君、話はついたから保健室行こっか。…文句は無いよね?」


 文学少女な見た目で、どこぞの不良以上の威圧感を醸し出す彼女に思わず思考が飛んだ。

 中身、どこか残念な桜宮と言い、腹黒まっ黒な茜坂先生と言い、この学園の美少女は中身と外見が伴わないんだろうか。

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