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朝に揚げ物はキツい

「篠やん、赤っち、助けて!」


 朝、教室に入るなり言われた黄原の言葉にギョッとした。

 え、何?!


「…なんかあった?」


 普段、テンション高めに絡んでくるけど、ここまで切羽詰まった黄原は初めて見る。真剣な表情で聞き返すと、黄原がタッパーを突きつけてきた。

 は?


「頼む、食べるの手伝ってください!」


 そこには、ドーナツだろうか?、山盛りのお菓子が入っていた。

軽く脱力して、黄原の顔を見ると、ものすごく真剣な表情だった。


「…朝から、人騒がせなことを言うな」


 幼なじみも、軽く心配したのだろう。呆れた声で文句を言ってた。


「いや、もう。本当に助けて。姉ちゃんが、お菓子作りにはまったんだけどさ…」


 黄原が暗い顔で語ってきた。


「自分で食べると太るからって、俺に食わせてきてさ。ここ数日、姉ちゃんのお菓子しか食べてないんだよね。…しかも、途中からアレンジレシピとか言って変なもの入れだして…。今日も、朝から早起きしてなんか作ってると思ったら、一口ドーナツの中に色々詰めたの作ってて。食べたくないから、早く出ようとしたら、朝ご飯として持たされたんだよね~。当たりは、ジャムとか入っていて美味しいよ。ハズレに、辛子やらなんやら入ってるけど…」


 うわあ、朝からロシアンルーレットなドーナツ。なかなかにキツそうである。


「つーか、なんで、今? 昼休みとかで良かっただろうに」

「…冷めると、ハズレのやつがさらにマズくなるんだよね。しかも、昼は昼で、昨日のケーキの残りだよ」


 黄原の顔が死んでいた。


「来た人から摘まんでもらえるように頼んでんの。少しでも減らしてくれると、本当に助かる」


 あまりのことに軽く同情し、適当に摘まむ。

隣の幼なじみも、普段は女子の手作りとか断りまくっているというのに、同じように摘まんでいた。まあ、これは流石に同情するわな。

 一個目は、チーズだった。普通にうまいな。

大丈夫そうかなと、二個目に手を伸ばす。

口に入れたものを噛んだ瞬間、ものすごくヤバい味に吹き出しかける。

 なんだろう、この独特の風味と感触。ものすごく覚えのある味なのだが、明らかにこれに入れるべきものではない。…あ、これ納豆か。

 口を抑えて、吐き出しそうなのを耐えていると、黄原が慌ててペットボトルのお茶を差し出してきたので受け取って口の中のものを流し込む。

 

「大丈夫ですか、篠山君。口直しいります?」


 今日も早く来ていた白崎が、チョコレートを差し出してきた。

 礼を言って口に放り込む。にしても、


「黄原、これ当たりとハズレの差がヤバすぎる」

「…姉ちゃん、どうせ俺が食べるからって遊ぶからなぁ」


 遠い目をした黄原に何も言うことが出来なくなる。桜宮のアップルパイ並みの破壊力だが、見た目が良かったのと、最初のやつがうまかったので、心構えが無さ過ぎたのが敗因だな。

 幼なじみは、当たりだったようだが、俺の様子を見て、顔色を青くし、摘まむのを止めた。


「…白崎も食った?」

「僕は、一つ目から辛子を引きました。持ってきたチョコレートにここまで感謝した日はありませんね」


 遠い目をした白崎を初めて見た。


「おはようございます。…なんかあったの?」


 桜宮が登校して来て、首を傾げた。


「桜ちゃん、おはよう、助けて!」

「ええ?!」


 桜宮が黄原の説明を聞き、苦笑いしながら、一つ摘まんだ。美味しいと言っている様子を見るに当たりだったらしい。


「白崎君、赤羽君、おはようございます」


 ふわりと笑ってから、こちらに向き直り、


「おはようございます。篠山君」

「はよ」


 なんかこれもいつものことになったな。幼なじみと一緒にいると女子には基本スルーされるので、少し嬉しいものである。


「すごいね、黄原君のお姉さん」

「ですね」

「…お前が、それ言う?」


 前の調理実習のアップルパイとどっちもどっちな味だったぞ、あれ。


「篠山君、うるさい」


 軽くむくれてから、白崎の方に寄り、白崎と話し始めた。

なんつーか、子どもっぽい行動に少し苦笑する。


「なんか前読んだ小説思い出しちゃった。白崎君、知ってる? お菓子パニックとか言うやつ」

「いえ、知りません。作家は誰ですか?」

「前、白崎君が言ってた人の短編集の話だよ。ほら、お面屋の話の」

「ああ、その人ですか。読んだことないですね」

「読みたかったら、明日持って来るよ?」

「じゃあ、お願いしてもいいですか」

「うん、待ってるから、絶対来てね」

「絶対ですか?」

「うん、白崎君と本の話するの楽しいし。待ってますので」


 なんか、近くの席になってから、よくしゃべってんな、あの二人。

近くの席なので、何気に聞こえてしまう会話を軽く聞き流しながら、黄原を見る。

 まだ、ドーナツを配っていた。

まあ、当たりは美味いし、いいかな。


「黄原、俺、もうちょっと貰うわ」

「篠やん、ありがと! マジ天使、愛してる!」

「…どーも」


 振り返った黄原のオーバーリアクションに少し引きながらも、ドーナツをほおばった。



***********************


 教室に入ったら、なんだか騒がしかった。

どうやら、黄原君のお姉さんのドーナツが原因らしい。

 そういえば、ゲームでもこういうイベントあったなと、一つを恐る恐る摘まむ。

 黄原君のお姉さんは良い人なのだが、弟へのいじりが時々すごい。

 食べたドーナツは当たりだったようで、ホッとしてさり気なく、離れる。ゲームだったら、面白いエピソードだが、現実にはハズレのドーナツは食べたくない。

 白崎君としゃべっていたら、教室の真ん中あたりがまた騒がしくなったので振り返る。


「また、ハズレなんだけど! これ何?!」

「俺にもわかんないんだよ!」


 篠山君が黄原君とギャーギャー言いながら、ドーナツを摘まんでいた。

 なんか楽しそうで、周りの男子も寄って来て摘まんでは盛り上がっている。

 普通は、あんなの一つ食べたら、食べないだろうに。

 計算なのか、天然なのかわかんないけど、周りを盛り上げて、着実にドーナツを減らしていた。

 珍しく、赤羽君も笑っている。


「楽しそうですね」


 白崎君がちょっと笑って、そちらに歩いて行った。


 にしても、アップルパイの時も思ったけど、味音痴って訳でも無いのに、よく食べるものである。

今も、少し顔色が悪い。

あの事件から、ちょくちょく観察していたが、篠山君はやっぱり


「スッゴいお人好し」




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― 新着の感想 ―
[一言] 食べ物を粗末にするのはそりゃ良くないことだけど、押しつけられた物なら捨てちまってもいいと思う。
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