席替えは学生の重大イベント
「あれ、久しぶり」
たまたま校門の前で会った黄原が教室に入るなりそう言った。
「どした?」
「いや、白崎が来ている」
白崎、っていうと、最近ずっと休んでた攻略対象者のやつだよな。
全然学校に来ないから地味に心配していたのだが、来たのか。
女子生徒達が遠巻きに、騒いでいる。
…貴成のファンクラブと言い、朝から元気だな。
にしても、なんか前と印象が違う気がするけど、なんだ?
「白崎君、休んでた間大丈夫だった?」
「ええ、大丈夫でしたよ。ご心配ありがとうございます」
周りの女子に対する受け答えも、前といっしょで丁寧だしな。
最近、見てなかったから気のせいか?
「皆さん、おはようございます。HRの時間ですので席についてくださいね」
あ、成瀬先生が来た。穏やかな声での注意に、立っていた女子生徒達が慌てて席につく。
…そーいや、桜宮は今日は珍しく貴成に絡んでなかったな。チラリと、前の席に座っている桜宮に目をやる。
コイツって、やっぱり転生者だったりするのかな。
前はよくわかんなかったけど、最近はときどき変な行動したりするし。
もしかしたらっていうのがあるけど、聞いてみて違った場合、俺は中二病か電波なやつの汚名を着せられる訳でして。
なんとも確かめづらい問題である。
「この席順のままで随分たつので、今日は席替えをしましょう。クジを引いて、前に書く番号のとおりに席を変わってください」
って、おお。席替えか。
成瀬先生の言葉にクラスが軽く騒ぎ出す。
うん、俺も流石にテンション上がる。
地味だが、男子高校生にとって非常に重要なイベントである。
「時間はあまりないので、なるべく静かに手早くお願いしますね」
穏やかににっこりする成瀬先生に、クラスのみんなが静かになり、大人しくクジを引き出す。
何なんだろう、あの穏やかなんだけど言うことを聞こうと思ってしまう成瀬先生の笑顔は。
かくいう俺もあの笑顔で手伝いを頼まれ断れずにいるので、非常に気になる謎である。
俺の番になったので、クジを引く。
どこだろう、個人的に廊下側の後ろの方がいいんだけど。
黒板を見て席を確認する。
一番後ろで、窓際から二番目。窓際は眠くなりやすいけど、一番後ろなのは嬉しいな。
荷物を持って席を移動する。
まだ、両隣の席には人がついていない。誰だろ、隣のやつ。
「あ、篠山君」
桜宮が近くに来ていた。隣の席に荷物を置く。
って、隣の席か!
「…また、近くの席、よろしく」
「…おう」
なんとなく、ヒロインと連続で近くの席ってどうかと思う。そう言うの攻略対象者とやれよ。
つーか、もう一方の隣誰だ。
そっちを見て、軽く固まった。
今日、久しぶりの登校でクラスの女子生徒を騒がせた攻略対象者の白崎である。
うわー、俺、ヒロインと攻略対象者にはさまれんの?!
もう、いろいろとあってヒロインや攻略対象者と関わらないっていうのはほぼあきらめたけど、これはない!
「よろしくお願いしますね」
「…よろしく」
にこやかな白崎の挨拶に、顔が引きつらないように答えるのが精一杯であった。
「みなさん、さようなら」
おしっ、1日終わった!
成瀬先生のHR終了の言葉に心内で思わず、ガッツポーズをした。
一日目だからかわからないが、今日は謎に疲れた。
ふと、隣の席の白崎を見る。
朝感じた違和感と言うか、なんか違うというのは何だったんだろう。
今日は、久しぶりの学校だったにも関わらず、小テストで満点をとっていたところは流石だと思ったが、とても和やかな感じだった。
違和感を感じてしまう、俺が申し訳なくなるくらい。
今も周りに、にこやかに挨拶をして…
「あ、」
気づいた瞬間に、思わず声が出た。
朝見たときも、一瞬だったから、なんか違和感としか思わなかったけど。
会話が途切れたほんの一瞬、朝の時も会話に加わらず遠巻きに見ていたから、わかったのだろう。
しゃべっていた人がいない方を何気なく向いた、白崎の顔は、しゃべっていた時や普段と違って。
どこまでも無表情だった。
貴成が帰るぞ、と声をかけてくるまで俺は考えこんだまま固まっていたらしい。
こういうのって、どうすりゃいいんだろ。
俺の気のせいだったら、いいんだけど。
なんとなく、気づいてしまった攻略対象者の表情にぐるぐるとした気持ちになりながら家に帰った。




