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階段で遊んではいけません

「だから、保健室行っとけって!」

「大丈夫だから!」


 えっと、ただ今、ヒロイン、桜宮の腕を掴んでにらみ合い中です。…なんでこうなった。

軽くため息つきながら、数分前のことをつらつらと思い出した。


* * * * * * * *


 放課後、成瀬先生に頼まれて授業で使った地図を資料室に運んでいた。あの時以来、成瀬先生は俺をやたらとこきつかってくる。なんでも、どうせ、何かやらかすんだったら、いろいろと働いてもらう、とのことらしい。まあ、別に異論は無いがな。


「おー、篠山じゃないか。どうした」


 振り返ると、予想通りに紫田先生が立っていた。

言葉使いは俺としゃべっていた時以上にくだけ、格好もしっかりとスーツを着ているが、今までのピシッと音がでそうな感じではなく、ネクタイピンなどの小物でおしゃれをしている。

 何が起こった、と結構な勢いで噂になったのも記憶に新しい。


「地図戻しにきただけですよ。…というか、ここ数週間、噂すごかったんですけど」

「だろうなぁ。まあ、成瀬先生には、今までの方が少し違和感があったと言われたがな」


 軽く苦笑しながら、あっけらかんとそう答える。


「ま、無駄に頑張って疲れるより、楽にしてたほうがいいしな。…それに、俺のために無茶してくれる生徒もいるし、グチ聞いてくれる人もできたことだしな」


 後半の言葉はやけに、小さくて聞こえなかったが、なんか嬉しそうで何よりである。


「ま、仕事あるから行くわ。せいぜい、頑張って、成瀬先生にこき使われてくれ」

「はいはい、一言多いですよ~」


 笑って手を振る、紫田先生に適当に答えて、資料室に入り、地図を戻す。

さて、今日は幼なじみは用事あるから先に帰ってるし、のんびりしながら帰るか。

そう思って階段を降りていると、桜宮が階段を登ってくるのが見えた。

何の気なしにすれ違う、その瞬間、パチリと目が合い、…桜宮が足を滑らせてこけた。


「ちょっ!?」


 慌てて駆け寄り、腕を掴んで立ち上がらせる。


「いったあ…」

「だろうな。どうした?」

「いや、ちょっとぼーっとしてただけ。大丈夫」


 いや、階段でぼーっとするなよ。危ないから。

ふっと目を下にやると、桜宮の膝が擦りむいて血が出ていた。


「おい、怪我してるぞ」

「あれ、ほんとだ」

「しょうがないな、保健室行くか」

「え、やだ」


 ん?

即返ってきた返事に、相手の顔を見る。


「えっと、傷たいしたことないし、行かなくっても、大丈夫かな」

「いや、血が流れて靴下汚れてるぞ。普通に、行った方がいいから」


 にっこり笑いながら言っても、明らかにそれは駄目だろ。傷結構大きいから、絆創膏持ってても、サイズ合わないだろうし。


「私、保健室には行かないっていう信条があって」

「いや、意味わかんないから」


 なんとなく離すきっかけがなく掴んだままだった腕を軽く引っ張る。足を踏ん張って、拒否された。


「おい」

「大丈夫だから」

「大丈夫じゃないから」

「平気だって、私丈夫だから」

「いや、そういう問題じゃないから」

「大丈夫だーかーらー!」

「大丈夫じゃないから!」


* * * * * * * * * *


 …そんなこんなでお互いヒートアップして今に至る訳か。

何だろう、ここまでくると軽く意地になってきてる感半端ないな。


「お前、なんで、そこまで保健室行きたくないの?」


 なんかもう疲れてきて、軽くぐったりしながら聞く。


「怖いもん!」

「ガキか!!」


 理由すっげえくだらないんだけど!


「ガキでいいから、行かない!」

「あー、もう。勝手にしろよ!」


 さっきから掴んでいた腕を離す、と急に手を離したからか、桜宮がバランスを崩した。

 やばっ!

咄嗟に庇おうとするが、やはり階段であるので踏ん張りがきかず、桜宮の下敷きになったような状態で階段を数段滑り落ちた。


「いった…」


 あんま、高いところでしゃべってなくて良かった。


「…え、どうしよ、だ、大丈夫!?」

「あ、うん、大丈夫だから、とりあえずどいてもらっていい?」


 思いっきり慌ててる桜宮が俺の言葉を聞いて、今の状況を思い出したらしい。顔を赤くしながら、バッと音がでそうな様子で飛び退いた。

 それを見て、軽く苦笑いしながら立とうと、手を地面に置こうとして、


「うわ…」


 袖をまくっていて露出していた腕を思いっきり擦りむいているのに気づいた。結構、派手に擦りむいたな、これは。

 そして、それを見つけたらしい桜宮が血の気を引かせている。


「ど、どうしよう。ごめん、私のせいだよね、えっと、」

「桜宮、とりあえず、深呼吸。いきなり手離した俺も悪いから」

「え、でも、私のせいだよ!」


 軽く泣き出しそうだ。え、やばい、泣かれるのは止めてほしいんだけど。


「桜宮、とりあえず、落ち着k「保健室行こう!」


 ものすごく見るからにパニック状態のまま、そう言いだした。


「お前、さっきまであんなに行きたくないって…」

「だって、私のせいだもん! や、ヤンデレライバルキャラくらい、平気だし」


 なんか、話の後半、すごく泣き出しそうな涙声でぼそぼそと呟いたから聞きとれなかったんだけど、ものすごく悲壮感が漂っていた。

え、何? そんなに怖いの? 保健室。


「行こう、篠山君!」


 そのまま、擦りむいたのと反対の手を引っ張って保健室の方に歩きだした。

 意味わかんないけど、まあ、とりあえず、桜宮を保健室に行かせることは成功したな、うん。

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