お説教の時間です
まあ、そんなこんなで講演会は無事成功した。
俺も一時間ほど遅れて講堂に入り聞いたが、かなり良かった。流石は、有名な教授の講演会なだけあるな。
そして、これのおかげで時間がもう遅いので、帰りのHRは免除で、自由解散なのである。
つまりは、紫田先生によるまったく楽しくない質問会がすぐ迫っている…!
…行きたくねえ!
帰りたいけど、帰ったら確実に明日からが怖すぎる。
「貴成。今日、用事あるから先帰ってて」
「…了解。まあ、そこまで無茶はしなかっただろうし。説教くらい受けてこい」
…すごく察しのいい幼なじみでありがたい限りである。
最近何度目かわからないため息をつきつつ、校舎裏に向かう。
うん、呼び出されたのは空き教室とかでは無く、校舎裏。
怖すぎると感じるのは、俺だけでは無いだろう。
指定された場所で木に寄りかかって待っていると、紫田先生がやってきた。
「悪い。待たせたな」
いや、ぶっちゃけ言って来なくていいと真剣に思った。
喉元までそうでかかったが、すんでのところで止めて曖昧に、いえ、と答える。
「それじゃあ、事情を聞かせてもらおうか」
その笑顔は、脅してるようにしか見えねえぞー。
軽く愛想笑いが引きつったわ。何しても、基本無駄だな、これは。
…もう、開き直って正直に話すか。
「朝、なんとなく事情を察してから、成瀬先生に突撃して状況を聞き出して、怪しいと思った芝崎に特攻を仕掛けました!」
「…おい、突っ込み所がヤバいんだが。成瀬先生に突撃って何やった? 特攻って何したら、あの人あんなにキレさすんだ」
「いや、成瀬先生には、普通にごり押ししまくって、情報しゃべってもらっただけですよ? 芝崎は、探ってみたら明らかに怪しかったんで、挑発してファイル奪いました」
「…何やってんだ、お前は!」
軽くキレつつも、呆れつつと言った表情で怒鳴ってくる。器用だな。
「お前、上手くいったから良かったものの、教師に喧嘩売るとか普通に馬鹿だろう! もし、芝崎先生が犯人じゃなかったらどうしたんだ。それに、ファイルの中にあの書類があるなんてわからないだろうが。ああ、もう、お前総じて馬鹿だ!」
思いっきり怒鳴られた。
すっげえ迫力満点であるが、言っている内容は俺を心配してのことでだんだん申し訳なくなってくる。
「すみません、でした」
「まったくだ。もうやるんじゃねえぞ」
いや、もうやらないとは…ぶっちゃけいって言えないんだけど。
軽く気が抜けていたせいで、思いっきりそう思ったことが顔に出たらしい。紫田先生が、軽く半目になって睨んできた。もう、笑顔を取り繕うことすらしないのな、いいけどね、別に!
「おめー、ガチで反省してねえよな。人の話、聞いてんのか、おい」
センセー、ガラ悪くなってんだけど!
これか?! 成瀬先生が言ってたやんちゃだったって。え、何? 元ヤンとかそういうこと?
「先生、言葉使い、悪くなってますよ…」
そういうと、ハッと気づいたような顔をした。
気まずそうにこっちを睨んでくる。
「おめーのせいだろうが。ったく」
「まあ、そうなんですけど。というか、先生、普段の態度と、俺としゃべってる時って全然違いますよね」
前々から気になっていたことを言った。普段は丁寧すぎるくらいに、丁寧だ。
「ああ、そうだな。普段は、芝崎先生みたいに俺を敵視してる先生に睨まれないように丁寧に接するように心掛けてるな。…それに」
一瞬、言葉を止め、言うか迷ったようだが小さく呟いた。
「成瀬先生、丁寧で、落ち着いてる感じだろ」
へえー、なるほど。憧れの先生を見習っての態度だったと。思わず生暖かい目で見てしまうな。
「でもまあ、結構疲れるしなぁ、これ。芝崎先生見てると全然効果なかったみてえだし、もう地でやろうかね」
「いいんじゃないですか。女子とかへの対応もズバッと言っちゃった方が楽ですよ」
「だな。それに、クラスに普通に見えて結構な問題児がいることがわかったし」
あ、うん、なんか、すみませんね。
「と言うか先生、なんで呼び出し校舎裏だったんですか。普通、空き教室とかじゃないんですか」
それ以上言われると、気まずくなってくることこの上ないので、話を変える。やぶ蛇はつつかないに限るのだ。
「ああ、講堂からこっちの方が近いだろ。篠山も、わざわざ上の階の空き教室とかに行くよりこっちの方が楽だろ」
結構、普通の理由だった…。
「まあ、もう遅いし、そろそろ帰れ」
「はーい。あ、そういえば、桜宮ってどうしたか知ってます?」
「桜宮? ああ、確か家の用事とかで早退したぞ」
マジか。じゃあ、これイベントなんじゃないかっていう俺の悩みは意味なかった訳か。
つーか、あの奇行はなんだったんだよ。
…考えても、よくわかんないな。保留で。
「んじゃ、先生。さようなら」
疲れたし、早く帰って寝よう。
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「どういうことなんだろう…」
篠山と紫田先生が立ち去った後で、近くの茂みの陰に座った桜宮はポツリと呟いた。
思い出したゲームの知識によると、今日の講演会は紫田先生の性格が変わってしまう出来事のはずだ。
確か、重要書類を盗まれてしまい、そのことがきっかけで紫田先生の立場が悪くなってしまうのだ。
そして、そのことを利用して学園長に信頼されていた成瀬先生が学園から追い出されてしまう。
紫田先生本人は学園長の親戚ということで何もなく、それがきっかけで全てに投げやりになっていたところを一年後、私が二年生の時に救われるというシナリオだったと思う。
だけど、そんなの絶対おかしいし、成瀬先生すごくいい人だし、元々、紫田先生は逆ハーにしにくい攻略対象だしで、早退したふりをして書類を探して回っていたんだけど。
偶然聞いてしまった話を聞く限り、どうやら篠山君がこれを解決してしまったらしい。
篠山君は、ゲームではいなかった赤羽君の幼なじみで、なぜか黄原君いわく親友で、ムカつくくらい地味にいろいろ出来るクラスメイトだ。
なんで、調理実習前は食べるの専門って言ってたくせに、マドレーヌあんなにキレイに美味しく焼けるんだ、詐欺だろう。…じゃなくて。
何だか、イレギュラーな行動ばかりしている。
逆ハー邪魔されるかもしれないし、
「要観察ってことかなぁ」
そう言ってから、時計を見るともう結構遅くなっている。
明日の予習もやらなきゃだし、もう帰ろう。
カバンを抱えなおして、そっと学校から出て行った。




