何者ですか?
「あら、かおるちゃんでいいのにー」
茜坂先生は、笑いを止めてそう軽くむくれた。
何でこの人は、生徒にそこまでのフレンドリーさを求めるんだろう。
一度、それやったら、俺のせっかくの猫がはがれそうな気がするぞ。
まあ、成瀬先生はもう手遅れだが。
「だから、それは遠慮させてください」
「あら、そー? あ、傷大丈夫?」
「傷の心配するんだったら、叩かないでくださいよ。結構痛かったです」
「あ、痛かった? ごめんね~」
ケタケタ笑いながら謝られ、軽く脱力する。
「まあ、それは置いといて。もうすぐ、授業始まっちゃうわよ。一年生は、講演会だから講堂でしょう? 時間かかるわよ」
うっ。
いきなり叩いてきて何なんだと思ったら、これは親切か。
気持ちは非常にありがたいのだが、今はその親切激しくいらねえ!
「えーと、まあ。大変に切羽詰まった事態が発生しておりまして、出席したい気持ちはこの上ないのですが。自主的休講とさせていただきたい所存です」
「…サボリ?」
「いえ、この上ない事情による自主的休講です」
キッパリと言い切る。こういう時は押しが大事なんだよ。
茜坂先生は、うーんと首を軽く傾げた。
「…まあ、サボリは学生の特権だからね~。そのこの上ない事情によっては、見逃してあげてもいいわよ」
マジか!? 軽くOKでるとは思わなかったぞ!
「あ、ただし、嘘はダメよ」
そう言って、手を取られ、手首の動脈の所に手を当てられた。
「えっと、これは、簡易的嘘発見器では?」
「保健の先生っぽいでしょう?」
わあ、一筋縄ではいかねえ。
「…大事な探し物がありまして。講演会が終わるまでに絶対見つけなきゃいけないんです」
仕方ないので話すしかないだろう。
明らかに、そんな探し物怪しすぎるが。
「…嘘はついてないわねえ。探し物の内容は…さすがにプライバシーよね。じゃあ、それはあなたの物?それとも、他人の物?」
「他人の物です」
「あなたって、特待生よね? 授業中出歩いてるのバレたら普通にヤバいわよ。どうして、他人の為にそこまでするの?」
茜坂先生の笑顔は、何故だか先程と比べてとても大人っぽい。
もともと、大人っぽい美人なだけあって迫力がすごく呑まれそうだ。
しかし、どうしてって言われても、そりゃあ
「自己満足です!!」
「へ?」
茜坂先生が呆気に取られた顔をした。
「ただ単に、俺の頑張ってる人が困ってるのを助けたいっていう自己満足で、押し付けがましいお節介です。言うなれば、俺の為です!」
まあ、本当にそれに尽きるんだよな。
紫田先生だって、生徒にここまでやられても困るだろうし、こんなことして欲しいなんて絶対言わないだろう。
だから、本当に俺がなんか嫌だ、それだけの理由である。
「ぷっ」
茜坂先生は、固まってたと思えばいきなり吹き出し、勢いよく笑い始めた。
「アッハハハハハハーー!!あー、もうおっかしい!!」
「…何がですか?」
自分でも、変なこと言った自覚はあるがここまで大笑いするほどだろうか。
「あのねー、普通はね、そこまでハッキリ言わないわよ。普通はね、その人の為ですって言うのよ。他人の為に頑張れちゃう優しい自分が好きなのね。でも、自分の為ですって。いや、おっかしいわぁ」
おおう、何だろう。この人、黒いぞ、絶対黒いぞ!
「あー、楽しい。そういうこと言われたら、軽くイラってするからわざと先生方のよく通る道教えてあげようと思ったんだけどね~」
「おい! ひどくね、それ!」
やっぱ、黒い。めっちゃ黒い!
「まあ、結果としてやって無いんだから、いいでしょ。探し物頑張ってね、時間無いでしょう?」
ハッとする。しゃべっていたのはそんなに長く無いが、時間が無い状態では一分一秒が惜しい。
「あ、じゃあ。サボリの黙認ありがとうございます。」
「うん、いいわよ~。面白かったし。あ、そこの植木の横は本当に先生来ないわよ」
「…どーも」
教えられた道の方へ走り出す。
「あ、それとね。大事な物は、普通はずっと持ってる物よ。特に、人に見られたらマズい物は学校なんていうどんな人が来るかわからない所に置いといてられないわよね」
ん!?
思わず、振り返る。
茜坂先生は、軽く手を振って、さっさと歩き出してしまっていた。
えっと、助言かな?
どこまで知ってんの、あの人。
思わず、固まってしまった俺は悪く無いと思う。




