ドジやりました
鼻が痛い。
えーと、授業抜け出すために軽く怪我をしたフリをして保健室に向かうフリをしようと思っていたんだけど!
普通に、ドジった。
やっぱり、悪いことを考えるもんじゃないのかね。
キャッチボールしてたら、隣のペアのボールがガツンと顔面に。
演技する必要無かったわ。
「失礼しま~す」
「はーい。うわあ、すごい鼻血ね!大丈夫!?」
うん、なんか美人な若い保健室の先生に見られんのすげえハズい。
ああ、保健室向かうフリして空き教室やらゴミ捨て場やら見ようと思ったんだけどなー。
「何やらかしたの?」
「体育でドジやりましたー」
軽くしゃべりながらも、手際よく手当てをしてくれる。
「ほい、止まった。気をつけなよ~、顔にデカいバンソウコウじゃ彼女も出来ないよ」
「先生に言われるようなことじゃないと思うんですけど」
「あ、先生じゃなく気軽にかおるちゃんって呼んでくれていいわよ」
「先生でお願いします」
そっかー、とか言いながら、ケラケラ笑ってる。
この人、確か、茜坂 薫って言ったっけか。
大人っぽい感じの思わず、振り返っちゃう感じのすげえ美人なのに、何つーかちょっと変わってんな。
にしても、手際がいいおかげで結構早く終わった。
授業の残りは、あと四十分くらいなので、終わる十分前くらいに戻ることを考えても探しに行けそうな感じである。
「失礼しました」
「はいはいー、気をつけてね!」
保健室を出ようとして、ふと思いついて足を止めた。
「先生、紫田先生のファイルって見てませんかね?」
「へ? 見てないけど、どうしたの?」
「あ、いえ。講演会の準備中に、紫田先生のファイルに俺のプリント紛れ込んだままどっかいっちゃったみたいで」
やっぱり、そんな上手くはいかないらしい。まあ、一応だけど、ごまかしておこう。
「ありゃー。………あれ、講演会の担当の先生って紫田先生?」
「ん?そうですけど」
「今って、5月よね?」
「ですけど。どうかしました?」
「あ、ごめんね~。私、保健室の先生だからそこらへん疎くて、意外だっただけだから」
ニコッと子供っぽく見える感じに笑う。
「それじゃあ、失礼しました」
「はーい、次は怪我しないようにね~」
扉を閉めて、とりあえず近くの空き教室に向かう。
時間も無いし、とりあえず探しますか。
ああ、思った以上にキツそうな感じだな、この探し物。
なるべく、音を立てないように気をつけながら校舎の中を全力疾走で走った。
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「ファイルに入った書類紛失か盗まれたってところかしら。紫田先生ったら、そうそうに苦労してるわね」
先ほど、生徒に見せた笑みとは別人のような、大人っぽい笑みを浮かべてポツリと呟く。
「ふふふ、面白そうな生徒よね。篠山君」
楽しそうな密やかな笑い声が一人きりの保健室に響いていた。




