トラブル発生しました
今日は、講演会当日である。
あの、ハードスケジュールを乗り越えて来たと思うと感慨深いな。
そして、明らかに仕事多すぎだっただろ、あれ。
唯一の救いは講演会の仕事は各クラスの文化係で一回ずつだから、もう講演会の仕事はまわってこないことだな。
まあ、後は仕事が無いので今日はのんびりしよう。
「篠山、すまない。ちょっと、いいか?」
紫田先生に呼び出された。
何だ?
「お前の持ち物にファイルが紛れ込んでたりしなかったか?」
「ファイル? 自分の以外ありませんでしたけど。どうかしましたか?」
「いや、ちょっとな。なんでも無い。気にするな」
いや、気にするなって言われても、朝の最後の仕事終わった後に、わざわざ聞きに来られたら、さすがに気になるぞ。
にしても、ファイルか。
………何か嫌な予感がするんだが。
「すみません、そのファイルってこないだ重要書類入れといてって言ってたファイルじゃないですよね」
言った瞬間、紫田先生の目が泳いだ。
わかりやすくて何よりだが、
「ちょっ、書類紛失!?」
紫田先生は頭に手をあてて、なんでこんなに察しがいいんだ、と呟いた。
「ちょっ、ヤバくないですか!それ」
「かなりヤバいな」
講演会は今日の午後からだ。
今は、最終確認のために早めに学校に来ているので、講演会までにあと五時間くらいあるが探し出すには、ギリギリといった感じである。
「俺も探します」
「授業はどうするんだ」
あ、授業のことが頭から抜けてた。
でも、1日くらいならなんとか……
「お前は特待生だろう。勉強を疎かにするな。そもそもミスした俺が悪いんだからな。余計な心配かけさせといてあれだが、これでも一応教師なんだ。生徒に迷惑かけるようなことはしない。」
そーだけどな。
これ解決できなかったら絶対にいろいろ言われるんだろうことは予想できる。
ここ最近一緒に仕事してきたから分かるが、本当に一生懸命やっていた。
尊敬してる先生に任せられた最初の仕事だからと。
文句あり気な顔になった俺に先生は苦笑した。
「ありがとな」
そのまま、急いで行ってしまった。
「納得いかねー」
思わず一人言がでた。
たとえ、個人のミスだろうが、自分一人で抱え込むのは絶対よくない。
かといって、ここは乙女ゲームの世界である。
今まではあんま気にしてなかったが、これがイベントの始まりだったりしたら、俺に出来ることなんてないだろう。
「おはよう。……深刻な顔してどうした?」
顔を上げると幼なじみが立っていた。
もう、こんな時間になってたのか。
「いや、ちょっと納得いかないことがあってな」
「…お前らしくないな」
ん?
幼なじみの顔を見ると思いの他、厳しい顔をしている。
「小学校、中学校と納得いかないことは周囲巻き込んででも、無理やり解決してきただろう。何を気にしているのか知らないが、あれはお前の良さだ。納得いかないんだったら、いつも通り首を突っ込めばいいだろう。それに、俺だって出来ることなら全力で協力する」
幼なじみの言葉に、少し驚く。
そうだよな、俺は今までだったら、全力で首を突っ込んでいた。
2度目の人生、後悔しないようにと。
「…そーだな。あんがと、貴成」
どうせ、乙女ゲームに関係の無いモブなんだから、自由にやればいいんだよな。
「ちょっと、首突っ込みに行ってくるわ」
珍しく、ニッと笑った幼なじみに、いつもに戻ったな、と笑われた。




