やっぱり普通なはずなのです
今日から更新再開します。
よろしくお願いします。
放課後、いつもならすぐに生徒会に行くが、今日は掃除当番だ。
担当場所の掃除を終わらせて、生徒会室に向かおうとすると後ろから声をかけられた。
「あ、正彦君!」
「あ、桜宮か。お疲れ」
少し遠くから声をかけていたようだが、俺がそちらを振り返ると小走りで俺の横に来た。
「うん、お疲れ様。今から生徒会? 私も今から手伝いに行く予定だったから、一緒に行っていい?」
「もちろん」
そう返してから生徒会室に二人で歩き始める。
いつもは大抵他のメンバーもいるので、桜宮と二人で生徒会室に向かうのはちょっと珍しいなと感じる。
「あ、クリスマスパーティーの話なんだけど、皆に聞いたら参加出来るって! 多分、土曜日の方がいいみたい」
「お、良かったじゃん」
「ね! 生徒会室に着いたら、青木君にも伝えなきゃね。青木君が誘ってくれるのすごく珍しいから、良い感じにしたいよね」
桜宮はそう言って、すごく嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔にもう少し前の話になってしまった学園祭を思い出す。
……そうだよな、桜宮は結構友達想いで、友人といる時はいつだって嬉しそうだ。
あの時は妙なテンションだったからか、やけに印象に残っているけど。ミサンガをあげた時の笑顔も、ダンスの時の楽しそうな顔も、やっぱりいつもと同じだったのだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、肩を軽くつつかれた。
「正彦君!」
「え、何?」
「もー! やっぱり聞いてなかった! ボーっとし過ぎ!」
「うわ、悪い!」
むくれた顔の桜宮に慌てて頭を下げる。
二人で歩いている時にこれはかなり失礼だ。
「えっと、何の話だった?」
「プレゼント交換用のプレゼント、どうしようかなって話! 女の子だけじゃなくて、今回は男子もいるでしょう。だから、どんな感じが良いのかなって。消え物にするにしても、個人の細かい好みとかあるしなあ。コーヒーよりも紅茶派とか。お風呂はシャワー派だから入浴剤はいらないとか。結構難しいよね」
「ああ、それは確かになあ」
男女兼用の誰に当たってもそれなりになるプレゼント。
正直、俺もあんまり得意じゃない。
中学の時にもこういう集まりあったけど、分からな過ぎてお菓子に逃げたからな。
クリスマスコーナーにあった詰め合わせ。当たった奴に定番過ぎるって、笑われたな。
しかし、今回のメンバーは確実にお洒落な物を選んできそうな面子である。
流石にもうちょっと頑張った方が良いよな。うん、確かに悩むな。
「……俺もあんまり思いつかないんだよな、そういうの。大抵、お菓子とかに逃げてるな」
「あ、やっぱり? そうなんだよね、ちょっと可愛い小物とかにしても女子ならともかく男子にも大丈夫なものか分からないんだよね」
「あー、それは俺もだな」
「ねー。これは大丈夫か、大丈夫じゃないか、誰かに教えて欲しい感じ。皆絶対センス良いしなあ」
そう言って小さくため息を吐く桜宮を俺は身長の関係で少し見下ろしている。
朝、跳ねていた髪は綺麗に直っていた。
自分で気づいたのか、他の誰かが言ったのか。
長かった時から変わらず綺麗な髪が揺れて、項が少し覗く。
前の髪型も似合っていたけど、俺的にはこちらの方が好みで可愛いと思う。
そんなことを考えながら、桜宮の言葉に相槌を打った。
「同感。……いっそ、一緒に行ってプレゼント選ぶか?」
「え?」
桜宮が驚いた顔でこちらを見上げてくる。
徐々に赤くなってくるその顔を見ながら、俺は自分が言った言葉を頭の中で繰り返す。
今、誘ったよな、桜宮を。
この感じだと多分、二人きりで。
……え、マジで?
自分で言った事なのに、ちょっと信じられない。
母親以外の女子と二人で買い物に行くとか、今まで誘ったことなんて一度もないし、誘われたこともない。
グループで出かけた時に別行動になることもあったけど、これは違う気がする。
なんか、如何にもデートっぽい……いやいやいやいや!?
落ち着け、俺、落ち着け!
そもそも桜宮には好きな奴がいるし、俺は桜宮のことを友人だって思ってるし!
女友達誘っただけだ! 今までそんなことしたことないけど!
本当に俺、何でこんな事言った!?
あの時は寝ぐせ直ってるなって考えてただけ……本当に何でだ!?
少しパニックになりながら、状況をどうにかしようと口を開く。
「あ、本当に変な意味じゃなくて、選んだ物を異性から見てありかなしか言って貰えたらお互い助かるかなと。まあ、プレゼント交換やる奴同士で中身知ってたら面白味がないから、全然やらなくても平気というか。そもそも、ちょっと調べたら良いのネットに載ってそうだよな。そうだな、ちょっとネットの物サイト見て、有りか無しか言ってもらって参考にするとかでもいいかな」
「え、行きたい!」
パニックから抜けられないまま、ついつい行かなくても良い理由を早口でまくし立てていると桜宮が俺の言葉を遮るようにそう言った。
さっきまで歩いていたのに、いつに間にかお互い廊下で立ち止まっている。
顔を赤くした桜宮は少し俯きながらも、強い口調で言い直した。
「私は一緒に行って選んでもらえると、すごく助かるから……正彦君と一緒にお買い物に行きたいです」
何故かすぐに返事が出来なくて、桜宮を見つめる。
少し俯いているから身長の関係で表情は見えなくて、だけど、頬や耳がどんどん赤くなっているのが分かる。
俺が返事を出来ないでいた数秒間の沈黙を破るように今度は桜宮が俯いたまままくし立て始める。
「も、もちろん、正彦君は忙しいから空いてる時間にちょっとだけで、全然良いよ! 本当に1時間もかからないくらいで! 土日とかだと約束とかあるかもだから、その、平日の生徒会の仕事が終わった後とか。ちょっと歩けば、色々とお店あるし、本当にちょっとの時間で良いから! そ、その、少しだけでも、一緒に行けないかな?」
「えっと、最近は生徒会の仕事も落ち着いてきたから、生徒会が終わった後で良かったら大丈夫だぞ。多分、来週の火曜日とかなら、仕事少ないはずだし」
「そ、そっか」
「今日行って、もう一回確認したら多分確実に分かると思う」
「う、うん。それじゃ、早く行こっか」
そう言ってお互い黙ったまま歩き出す。
生徒会室はここからそんなに遠くないのに、不思議と顔が熱い気がしてゆっくり歩く。
隣を歩く桜宮に気づかれないように軽く深呼吸をしながら、落ち着こうと心がける。
今日、やることは……委員会会議のまとめと、あと、紫田先生に学校備品の予算の確認をお願いしてたのが出来てたら、発注書を作って。
いつものように仕事に頭を切り替えると段々と落ち着いてきた。
うん、大丈夫。ただ、友人と学校帰りにちょっと買い物寄るだけ。
中学時代もよくやった。貴成となんて割としょっちゅうやってる。もちろん、他のメンバーとも。
うん、普通だ。本当に、全然普通のことだ。
そう自分で言い聞かせながら、生徒会室のドアを開ける。
「お疲れ! 遅れて悪いな!」
「あ、お疲れ様です、篠山。掃除当番、ご苦労様です。桜宮もお手伝いありがとうございます」
「……お疲れ様です。篠山先輩、桜宮先輩」
「お疲れ、正彦、桜宮。……そんなに急いで来なくても良かったぞ」
「そだね~! 走ったでしょ、なんか顔赤いし息乱れてるよ! 珍しい!」
「え、マジ?」
「マジマジ。あ、桜ちゃんもお疲れ~!」
「あ、お、お疲れ様です。あ、青木君、クリスマスパーティー、皆参加出来そう! 土曜日のが良いみたい!」
「……本当ですか!」
他のメンバーの中に入って話していると、本当にいつも通りに戻っていく。
うん、やっぱり普通だろ。
そう思って、いつもと同じに仕事に頭を切り替えた。