皆でわいわいやるのは楽しいです
学園祭が終わって数か月。11月に入り、肌寒くなってきた。
今日もいつものメンバーで生徒会業務だが、あの時とは比べ物にならないくらい穏やかな空気である。
黄原がエクセルを打ち込みながら、楽しそうに口を開いた。
「やっぱり学園祭の修羅場を潜り抜けただけあって、業務も慣れてきたよね~。それなりに仕事はあるのに結構、楽に感じる!」
「何度か聞いたけど、本当に忙しかったんだね。皆お疲れ様です」
桜宮がしみじみとそう返す。
あの学園祭の後、桜宮は以前と同じように生徒会に手伝いにくるようになった。
久しぶりに来てくれた時は、ちゃんと仲直り出来たと感じて大分嬉しかった。
左手には腕時計と一緒にダンスの前に贈ったミサンガがつけられている。学園祭の次の日からずっとだ。
因みに、あのダンスの時に裏庭に引っ込だのは生徒会メンバー、主に貴成に文句を言われた。
まあ、生徒会メンバーもちゃんと参加して盛り上げるって話だったのに、速攻消えたからな。
実は怒られるかもって思ってました。
案の定、俺がいなくても他の生徒会メンバーがいることで盛り上がってたらしいが。
最初のダンスは暁峰さんとか月待さんとか、桜宮と仲が良いいつもの女子たちを誘ったが、当然のごとく一回じゃ終わらず次々と踊ったらしい。
ダンスの時間の終わりにひょっこり出てきて合流したら、皆からすごくもの言いたげな顔をされた。
まあ、裏庭だが桜宮とちゃんと踊ったと言ったらそれはそれでかなり突っ込まれたが。
生徒会メンバーの打ち上げの際には何故か紫田先生にも、散々聞かれたしな。
ダンスに誘ってもらえたから、いい機会だしちゃんと謝って仲直り出来て良かったと返し続けていたら、全員に微妙な顔をされて、触れられなくなったが。
ただ、ミサンガに関しては意外にも話題に出されたことがない。
この前、暁峰さんが「桃、それ可愛いわよね。どこで買ったの?」と聞いていたのに、「えっと、従兄弟にもらったやつだから」と答えているのを見ると、何故か仲が良い友達にも俺が贈ったことは伝えていないらしい。
まあ、好きな奴がいるので、男からもらったものって言わないのは正しいと思うが。
「そう言えば、今日の飲み物担当は誰でしたっけ?」
「……あ、僕です。……家にあったジュース持ってきたので、好きなものをどうぞ」
「あ、私もクッキー持ってきたので、どうぞ」
青木が出してきたのは見るからに高そうなジュース達。
……うん、相変わらず、すごいね。
この飲み物担当は学園祭の後から出来た習慣だ。
よく手伝ってくれる桜宮に俺らからもちゃんとお返ししたいと俺から言ったら、なら飲み物は俺らで用意して桜宮に振る舞うということになった。
お菓子とかに関しては「桜宮の差し入れはやりたくてやってると思うので、邪魔しない方が良いと思う」と皆から言われたので、相変わらず時々差し入れてくれるものを有難くいただいている。
しかし、このメンバーは結構な金持ちばっかりなので、飲み物担当は毎回高級そうなものが用意されてたりする。
白崎なんてかなり高級な日本茶の茶葉持ってきて、その場でいれてくれたからね。めちゃくちゃ美味かったです。お茶って入れ方であんなに味違うんだね。
俺は新作ジュースとかを持ってきてるが、ちょっと心苦しい。まあ、皆結構喜んで飲んでるので良いっぽいが。
「お、美味しい。お高い味がする。……私のクッキーとかじゃ大分見劣りしないかな」
「いや、お前のクッキーも美味いし、有難いって。……昔みたいならともかく」
「その節は本当に酷いものをごめんなさい!」
「いや、そこまで気にしなくていいから」
ジュースを飲んで目を輝かせたと思えば、しゅんと落ち込み、慌てて顔を赤くして全身で謝る。
相変わらず、すごく表情がクルクル変わって、面白いなあと思う。
……やっぱり、普通にできてるな、俺。
学園祭の時、あの祭り特有の雰囲気に当てられたのか、ちょっと頭がふわふわするような変な感じになってた。
しばらくはやっぱり変な感じがしたけど、今は普通に平常心だ。
桜宮には好きな奴がいるし、大事な友人だから、今まで通りに出来て良かったと思う。
他のメンバーの奴らの誰だとしても幸せになってほしいし。
そんなことを考えながら、桜宮の持ってきたクッキーをつまむ。
うん。やっぱり美味くなったよな。
他の皆も和やかに休憩の雰囲気になった頃、青木がおずおずと手をあげた。
「……その、……えっと、皆さんに、提案があるのですが」
「どうした? 何でも言ってみろ?」
貴成が真っ先に真剣な顔で問いかける。
普段、あまり発言をしたがらない青木の言葉に他のメンバーも姿勢を変えた。
青木は顔を赤くして、緊張した様子で再度口を開く。
「……く、クリスマスパーティーを、……やりませんか?」
思わず目を瞬かせた。
クリスマスパーティー。まだ11月の始めだが、スーパーなどは既にクリスマスモードに入っている。
しかし、黄原ならともかく青木からこういった誘いが出るとは少し意外だった。
「……その、……次のメンバーのこと、紫田先生から聞いて。……もう、こんな時期かって。生徒会になってから、思ったよりもあっという間だなって。……来年は先輩達受験生になるから、……誘えなくなりますし。今のうちに、……そう言ったイベントを先輩たちと遊んでみたくて。……早く誘わないと、赤羽先輩とかは社交がらみのパーティーの予定が入ってしまうかな、と思いまして。……勿論、桜宮先輩や倭村さんも誘って。……ど、どうでしょうか」
「え、良い提案だな、やろうぜ!」
思わず食い気味にそう答える。
一生懸命自分の主張を話すのは控えめな青木にはすごく珍しい誘い。だけど、中等部時代に今以上に話すのが苦手で、同級生から係や課題を押し付けられていたのを見ていたから、この誘いがすごく嬉しい。
他のメンバーも嬉し気な顔で頷いている。
「篠やんの言う通りだね、すっごく良い! て言うか、俺も提案しようかなって思ってたのに先越されちゃった~」
「そうですね。楽しそうです。香久山さん達も喜ぶと思いますよ」
「なら、黒瀬も誘うか。今なら社交の予定も空いてそうだしな。いつぐらいがいいか、各自確認取ってくるか」
「そうだね。私も皆に声かけてみる。誘ってくれて、ありがとう、青木君!」
青木は皆の返答にホッとした顔で嬉し気にぺこりと会釈した。
わいわいと和やかに、楽し気な雰囲気で話が進む。
ああ、やっぱり、こういう感じが良いなと思った。