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前半、篠山、後半、渚さん視点です。



「美味しそうなの買えたわね。高校の学園祭の割には以外とクオリティ高いわよね、これ……正彦?」

「え、あ、すまん」


 渚に声をかけられて、ボーっとしていたのに気付いた。

 さっき桜宮と話してから、上の空になりがちだ。

 そんな俺を渚はどこか困ったような表情で見ている。

 ちょっと申し訳ないからしっかりしなきゃなと思っていると、渚のスマホから着信音が聞こえた。


「あ、井藤から連絡入った。そろそろお化け屋敷、入れそうだからあと15分くらいで合流できそうだって」

「思ったよりも、早かったな。どうする? そろそろあっちの方に戻り始めるか?」

「そうね……、じゃあ、最後にあれやってきたいな」


 そう言って渚が指さしたのは、夏祭りのゲームをやっているクラスの射撃のエリアだった。

 射撃の的などは手作り感あふれる段ボール製だが、景品には結構予算をつぎ込んだようで、それなりのものが揃っている。

 

「いいぞ、なんか欲しい景品でもあったか?」

「ううん。特にそういう訳ではないんだけど。前、夏祭りで会った時は一緒に回れなかったから。ねえ、折角だし、何かとってくれない?」

「え、俺もそんなに上手い訳じゃないぞ」

「いいよ、何でもいいから、ね」


 うーん、俺、マジでそこまで上手くないだけどな。

 まあ、何でもいいと言うならやってみるか。


「すみません、一回分お願いします」

「はーい。あ、生徒会の庶務さんですよね、お疲れ様です。屋台の規格とか色々相談にのってもらったので、良かったら二回分どうぞ」

「え、別に気にしなくていいぞ」

「いえいえ、すごくお世話になったのでどうぞ」

「あー、じゃあ、ありがたくやらせてもらうな」


 大したことはしてないのだが、正直ありがたい。

 10から100の点数が書かれた的のどれを狙おうかと悩む。

 点数が高いほど遠くて狙い辛いし、一回分で弾は五発。

 ……取り敢えず、50点くらいの狙ってみようかな。

 なるだけ身を乗り出して、的を狙う。

 まずは一発目、おっ!

 いきなり倒れた的に少しテンションが上がる。


「なんだ、結構上手いじゃん。次はもうちょっと点数が高いの狙ってみたら」

「そうだな。折角だし、100点狙ってみようかな」


 2発目。100点のすぐ横を通り過ぎた。

 3発目。端っこに当たる。

 4発目、5発目も同様に端っこに当たって、的が少し揺れている。


「え、良い感じじゃん。真ん中当たればいけそうじゃない!? 頑張れ!」

「そうだよな! おし、おまけの2回目分でどうにか倒す!」


 気合を入れ直して、的を狙う。単純なもので結構楽しくなってきた。

 6発目は外して、7発目、8発目は端っこ。

 そして、9発目でようやく的の真ん中を捉えた……が、的に弾が弾き返された。

 思わず、係の子の顔を凝視してしまうが、良い笑顔で「惜しいですね、頑張ってください!」と流された。

 ……ああ、うん。よく屋台で聞く、本命の景品は滅茶苦茶倒れにくいがしっかり再現されてる系ね、これ。

 景品を見ると100点の的を当てなければ届かない点数の景品は遊園地の株主優待券や、食事券などが並んでいる。

 ……そう言えば、余った景品で打ち上げの予定って聞いたなー、うん、そうだね自分たちでお使いください、コンチクショウ。

 何だかやる気がそげて、近くの20点の的を倒して、射撃が終わった。


「おめでとうございます! それでは景品ですが、点数分の好きなものをお選びください」

「はーい、どうも。渚、先に好きなの選んでいいぞ」

「え、良いの?」

「うん、俺は点数低めの所の菓子類で好きなの選ぶから」


 10点の景品の台に並んだお菓子の山を指さすと、渚は納得したように頷いた。


「ありがと。……じゃあ、これにしようかな。さっき見てて可愛いなって思ってたんだ」


 渚が選んだのは50点の景品に並んでいた緑色レースでできた小さな花がついたイヤリングだった。

 よく見ると同様に手作り感があふれた景品が結構ある。

 クラスに手芸が得意な子がいたのだろう。

 上手だなと思って眺めていると、ふと、目に留まるものがあった。

 薄いピンクと濃いピンクの糸で織られたミサンガだろうか。金色の桜のような花びらのチャームがついている。

 なんか桜宮っぽいな。あいつが着けてる花の髪飾りとちょっと雰囲気が似てる。

 点数は20点……足りるか。


「すみません、これお願いします」

「はーい。どうぞ。ありがとうございました」

「正彦、何にしたの……って、可愛いの貰ったね」


 渚の言葉にふと冷静になった。

 あーそうだな、つい変なテンションでこれ貰っちゃったけど、どうしよ。

 お菓子とかの消えモノとかなら平気でも、アクセいきなり渡したらやっぱり困るかな。

 桜宮、好きな奴もいるんだし、男子からもらうアクセは趣味じゃない場合が多いって聞くしな。俺もセンスに自信無いぞ。女子の言う可愛いピンクとケバいピンクの差とか全然分からないし。

 だけど、ミサンガくらいなら、目立たないしイケるか……?

 さっきも差し入れもらったし、普段のお菓子とかのお礼ってことで、……あれ、なら猶更、お菓子とかの方が良かったか?

 結構おいしそうなの一杯あったし、そっちにしとけば……。ま、まあ、売店で美味しそうなお菓子買って、おまけな感じで渡すか。小さいから好きじゃなかったら、捨てるのも簡単だろうし。

 そうやって無理やり自分を納得させていると、渚がぽつりと呟いた。


「なんか、桜宮さんが着けてた髪飾りに雰囲気似てるね」

「あ、お前からもそう見える!?」


 正直自身が無かったため、そう言われてちょっとホッとする。

 渚はじっと俺の持ってるミサンガを見ていたが、ふと、口を開いた。


「正彦さあ、急に志望校変更したよね。結構、後半で。途中までは私が通ってる所と同じ所志望だったのに」

「へ? え、ああ、そうだな」


 急に変わった話題に驚きながらも頷く。

 最初は学費とかの関係で公立目指してたんだよな。

 だけど、貴成に頼まれたし、先生に相談してもお前ならいけるからランクアップしたらどうだって言われるし、親も大丈夫だって言うし。

 学園の設備やカリキュラムの面からも良いかと考えて、こっちにしたんだよな。特待生制度も使えそうだったし。

 だけど冬休みあたりで変えたから、当時、他の奴らにも結構驚かれた。


「私ももっと頑張って、この学園入れば良かったのかな」

「渚?」

「そうすれば、あいつのことも傷つけずに済んだのかな。全然こっちのこと気にしないし、予定と違うことするしって、ムカついて当てつけみたいに良いよって言って。いざ、付き合ってみたら、本当に優しくて。応えられなくて気まずくなって、ごめんって言って。やっぱりあの頃は良かったなって、一回諦めてもういいよってしたはずなのに、もう一回って思ってみたりしなければ良かったのかな」


 一瞬何の話か分からなくて混乱したが、以前久しぶりに会った時に斎藤と別れたと言っていたのを思い出した。

 あれから結構経っているのに寂しそうに呟く渚に、何を言ったら良いのだろうと悩む。

 その瞬間、携帯の着信音が鳴った。


「あ、ごめん」

「いや、良いよ。桜宮さん?」

「いや、生徒会関連だな」


 体育館で発表をやっている体育委員からSOSが来ていた。やはり先ほど調子が悪かった音響は、またトラブルを起こしたらしい。なるべく早く来てほしいと書いてある。


「あー、ごめん。体育館の発表でトラブルがあったから、すぐ行かなきゃいけないみたいだ」

「忙しいって言ってたもんね。私は井藤達と合流するから行きなよ。今日は忙しい中、付き合ってくれてありがとね。井藤達にも言っとく」

「悪い、合流できそうなら、連絡するわ」

「うん。分かった。じゃあね」

「ああ。じゃあな!」


 申し訳なく思いながらも、早歩きでその場を後にする。

 振り返って手を振ると、笑って手を振り「じゃあね」と返された。

 ふと、なんか中学の卒業式の時と似てるなと思ったけど、再度鳴りだし早く来てほしいと催促する携帯に、ヤバイと頭を生徒会の仕事に切り替え急いだ。






***************



 足早に去っていった正彦を見送って、深いため息を吐く。

 ものすごい敗北感と虚しさ、そして、ちょっとだけホッとしている自分に苦笑する。

 だけど、私と二人きりで回ってて、私のために何か欲しいとねだったのに、違う女にあげるものを選ばれたのはやはり屈辱だ。

 まあ、完全に嫌がらせというかマウントを取るために、デートの様子を桜宮さんに見せびらかしに行ったせいの自業自得かもしれないが。

 中学の時は気づいてもらえなくて、気にしてももらえなくて、おまけに予定外の行動で諦めたけど。

 今回は違う。正彦は中学の時から誰に対しても親切だったし、優しかったけど。あんな風じゃなかった。中学時代に正彦を好きでずっと見てたけど、あんな風に贈り物に悩む正彦なんて初めて見た。

 自分以外の相手を気にする、完全な脈無しを実感した。

 だけど、私も私だしなあ。

 さっき選んだイヤリングを掌で転がして、見つめる。

 素朴で可愛い感じのデザイン。正直、私の趣味ではないのだけど、……斎藤がくれた指輪と似合いそうなデザインでつい選んでしまった。

 正直、最初は全然好きじゃなくて、正彦に対する当てつけというか嫉妬してくれないかなと思って、告白にOKした。

 だけど、付き合ったらすごく優しくて、段々とほだされて。

 なのに、プライドが邪魔して素直になれなくて、あいつも正彦のことやっぱり好きなのとか言い出して。

 喧嘩して、気まずくなって、私から振って。

 そんな時に正彦とばったり再会して、会ったらやっぱり楽しくて。やっぱりこいつと付き合ったら、上手くいったんじゃないかって、ちゃんと素直になれるんじゃないかって、もう一回アプローチをしてみた。

 そんな感じだったから、あの子に負けたんだろうな。

 私ならライバルにあんな風に見せつけられた上で、周りから注目されながらも、縋ったりできない。

 噂になって周りからつつかれるなんてごめんだし、断られそうになったなら自分が本気じゃなかったとか言って逃げ道作って、自分が惨めになったりしないように動いてしまう。

 あんなに誰からもバレバレで一生懸命なアプローチ、私には出来なかった。

 本当に完敗で、惨めったらない。

 惨めついでに元カレに、復縁迫ってみようかな。

 断られるにしても一回くらいちゃんと好きだったんだって言っておきたかったから。

 そんな風に決めたら大分恥ずかしくて、そして、ちょっとだけムカついてきた。

 だって、桜宮さんはあんな感じだし、正彦もあんなに気にして、付き合ってないとかなんなのよ。

 付き合ってたらさ、私ここまで惨めなデート誘おうとも思わなかったわよ。

 つーか、そもそも、正彦の鈍感酷すぎるでしょ。

 本当にムカついてきた。

 斎藤に告白したら、結果はどうあれ、正彦に前は好きだったこと、そして、文句を言ってやろう。

 その時には多分あの二人付き合ってるだろうから、私とデートして桜宮さん傷つけたことを揶揄って遊んでやろ。ちょっとは気まずくなれば良いのよ。ざまーみろ。

 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 脈が無さそうだったら勝負しない、というのは言い訳ですし。 中学時代、普通に告白すれば鈍感だろうが何だろうが付き合えていたでしょう。 何なら、今だってアプローチ云々より「好きです、付き合って」…
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