差し入れを味わいます
「篠山、こっちの書類頼む」
紫田先生から書類を受け取る。
ちなみに、今は放課後でこの前なってしまった係の仕事中だ。
最近はほぼ毎日下校時間ギリギリまでこの仕事のせいで帰れない。
まさか委員会でも無いのに、ここまで忙しいとは思わなかったぞ。
「了解です。じゃあ、こっちのチェックお願いします」
「おー、仕事早いなぁ。お前」
「早くやんないと帰れないじゃないですか。先生も新任だからといってこんな面倒な仕事なの押し付けられてますよね」
「だよなー」
軽く苦笑しながら、渡した書類のチェックに入る。
にしても、本当に仕事が多い限りである。
講演会は来週なので、とりあえずはラストスパートだ。
と、教室のドアが開いた。誰だろう。
「二人ともお疲れ様です。差し入れを持ってきましたよ」
おおっ、成瀬先生か。
「ありがとうございます」
「いいえ、二人には頑張ってもらってますから。…それにしても、君が教師の仕事をしているのを見ると感慨深いですね」
「昔とは違いますから」
昔とは何だろう?
俺の視線に気付いた成瀬先生がにこりと笑って口を開いた。
「紫田先生は元教え子なんですよ」
えっ、マジか。
「昔はいろいろとやんちゃでして、苦労したんですよ」
「成瀬先生、その話は…」
「ああ、すみません。それでは、もう行きますので、二人とも頑張ってくださいね」
穏やかに笑って出て行った。
それにしても、
「いい先生だなー」
紫田先生が振り返って少し嬉しそうに笑う。
「だろう。俺の恩師だ」
「というか、先生。昔はやんちゃだったんですね」
「言うな。…まあ、荒れてた時に唯一向き合ってくれたのが成瀬先生だったんだ。俺が教師になりたいと思ったきっかけだな」
なるほど。
あんなにいい先生を尊敬してたら、そりゃあ真面目な先生になるだろう。
「それにしても、先生って顔で軽く損してません?」
「…なんだ、いきなり」
「いえ、第一印象と今の印象がまったく違うので」
「…最初は、どう見えたんだ?」
「ぶっちゃけ言ってホスト」
紫田先生のげんこつが頭に落ちた。
「痛っ!」
「やかましい!悪かったな、ホスト顔で。昔から散々言われたわ!」
「いや、今は普通にいい先生だと思ってるんで。だから、第一印象と違うな、と思ったんで」
「…そうか。にしても、お前はっきり言うな」
「まあ、性格なんで」
「そうか。まあ、差し入れ食べて、さっきの書類終わったら帰っていいぞ」
「了解です」
差し入れに手を伸ばす。
ん?
「先生、こんな書類こんなところに置いといていいんですか?」
チラッと見ただけで重要書類だぞ。
「おお、悪い。混じんないように、そこん中入れといてくれ」
「ほーい」
ファイルに入れる前に書類の内容をなんとなく読む。
当日の講演会の講師の先生のスケジュールで、これ無いとかなりまずそうだな。
ファイルに入れて、差し入れを味わい(このケーキ本当に上手い。太っ腹だな、成瀬先生)、書類を速攻終わらせて帰った。
また、攻略対象者と親しくなってないかこれ、ということに気付いたが、もうどうしようもないので諦めよう。
ほ、他の攻略対象者とさえ、関わらなければいいんだ!




